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宝の地図?

『全て君の言う通りだよ。小林実君』

俺は男のこの言葉を理解するまでしばらく時間がかかった・・・。

じゃあ・・・この・・・俺たちの目の前にいる男は・・・・殺人犯?
和之君を殺した犯人・・・・?
俺はあまりの展開に現実味が感じられずぼんやりとしていた。

男はゆっくりと話し出した。

「その木の下・・・そうそう、ちょうど君の足元のあたりに死体を埋めてあるんだよ」

君って・・・男は俺の方を見て言った・・・。
俺は自分の足元を見て男の言葉を頭の中で繰り返す・・・。
『死体を埋めてあるんだよ』


死体・・・死体??

「ひぇ・・・」
俺は情けない声を出しその場から飛びのいた!!
死体って・・・死体って・・・誰の??

男は微笑みながら話を進める。
「俺は綺麗な女が苦痛に顔を歪ませて泣くのを見るのがたまらなく好きなんだ・・・・・
・・・・・・とても気に入った顔をした女を見つけてね。いつもは殺すまではしないんだが・・・
つい夢中になってしまって・・・気が付いたら死んでいた・・・・」

うっとりとした顔で男は笑う。
・・・・恐い・・・この男・・・すごく恐い・・・・。
足が震える・・・・。

「その女の人の死体が埋まっているんだね・・・?」
実君は淡々と言う。・・・・・・恐くないの?実君は・・・・。
俺は半分泣きそうになりながら実君を見る。
実君は無表情で男を真っ直ぐ見ている・・・・。

男は実君を見詰めて言った。
「そう。ここなら俺の部屋から見張れるし、めったに人も寄りつかない。絶好の場所だと
思っていたんだけどね・・・」
「その場所を和之君が掘ってしまったんだね・・・」
「そう、マンションから君の友達・・・和之君があの木の下で何かをしているのを見た時に俺はあせったよ・・・
・・・でも絵を描いていただけだったから放っておいた・・・・・しばらくしてまた様子を見たら
シャベルでそこを掘っていた・・・・」
「・・・・それで・・・?」
実君は目を細め男の顔を見る。
男は話を続ける。
「慌てて空き地に行こうとしてマンションの玄関から出た時、ちょうど和之君が空き地から
出てきた所だった。土で真っ黒になった手にスケッチブックと色鉛筆を抱えていた・・・俺は和之君に
話し掛けた・・・・・助かったよ人懐っこい子で。おかげで色々聞けたもんな。
何を、何のために埋めていたのか、何を描いていたのか全部話してくれた。君のことも
ね・・・・実君」
実君は手を握り言った。
「そのままほっといても和之君は死体のことなんて気が付かなかったはずだ」

男は首を横に振った。
「ダメだね。彼は見てしまっていた・・・・骨の一部をね・・・
和之君はシャベルで結構深く掘ったみたいでね・・・一応プレゼントももう一度掘り返して
中を確認させてもらったんだよ・・・その後少し場所をずらして浅めの所に埋めたんだが・・・・
君もプレゼントを見つけただけで満足してくれれば良かったのにね・・・」



骨・・・・・・女の人の骨・・・?
俺の頭はのろのろと考え出す・・・・。

「もっとも和之君は人の骨だとは思っていなかったけどね。何の骨だかみんなに内緒で
掘り返して驚かせてやるんだって言ってた・・・それを聞いて・・・もう見逃せないと
思ったよ・・・・」
「だから殺したの?」
「本当はその場でマンションに連れ込んで殺すつもりだったが、あいにくと人通りがあってね・・・
和之君と別れた後・・・彼の家まで後を付けたんだ」
「そして・・・次の日・・・・殺したんだね・・・・」
男は頷き笑った。
「ただ予定外のことは、彼の『地図』が既に実君・・・君に渡っていたってことだよ。
和之君を殺す前に彼からそのことを聞き出したんだ」
「僕のマンションも和之君から聞いたってわけだ・・・でも和之君・・・ちゃんとした棟番号は
覚えていなかった・・・」
「え?」
男は実君の言葉に少し驚いた声を出す。


「和之君は間違えて僕ではなくそこにいるお兄ちゃんちの郵便受けに地図の入った封筒を
入れてしまったんですよ・・・お兄ちゃんも同じマンションに住む『小林みのる』って名前だから・・・」
男は俺の顔を見る。

「か・・・漢字は違うけどな!」
やっと言えた言葉がこれだけ・・・俺・・・・・情けない・・・。

実君は話を続ける。
「僕や和之君の身長じゃ僕らの住む8階の郵便受けには届かない。
きっと和之君、どの棟だかわからず適当に入った棟で誰か大人に『805号室の小林みのる君の郵便受け
ありますか?』とでも聞いて封筒を入れてもらったんだ・・・・その人が『小林稔』と間違えたんだ・・・」

男はクスクスと笑い出した。本当におかしそうに笑っている。
「どうりで君の部屋を探しても地図は見つからないはずだ!!なるほどね・・・
俺は和之君からはマンション名と君の名前しか聞いていなかったからね・・・。
君の郵便受けには君の名前も『実』と書いてあったから間違いないを思ったんだが・・・なるほどね・・・
・・・しかし実君にはやられたよ・・・・何度か君を狙っていたんだけど1人になる時間を
出来るだけ避けていたんだ・・・警戒していたんだね君は!本当に探偵のようだね君は」




男はひとしきり笑った後・・・ため息を付き・・・俺たちを見て言った・・。
「さて・・・種明かしはここまでだ・・・・君たちには生きててもらっては困るんでね・・・」


この男・・・やっぱり俺達を殺す気か?・・・そうだよな・・・だからベラベラいろいろ
話してたんだ・・・。
・・・どうしよう・・・本気でこの男と戦ったって俺じゃ、あっという間に
負けちゃう・・・。どうやって逃げ出そう・・・。

男は実君を目を細めて見つめる。


「・・・・実君はとても綺麗だね・・・・嬉しいよ・・・和之君の時も楽しかったけれど
君は・・・もっと楽しませてくれそうだ・・・・」

男の実君を見つめる目が・・・本当にとても嬉しそうで・・・・。


ぞくっ

背筋が寒くなる・・・・・・この男・・・狂ってる・・・・・。

「じゃあ・・先に邪魔者から消えてもらおうか」
そう言って男は今度は俺の方を見る。
邪魔者って・・・・・・俺?要するにこいつの『綺麗』に俺は
あてはまらないってことね・・・ってそんなことはどうでもいい!!
男が迫って来る・・・俺は持っていた手提げを落とし・・・あとずさる・・・。
背中に木があたる。

とくん・・・とくん・・・自分の心臓の音が頭に響く・・・・どうしよう!!


とにかく・・・・

俺は覚悟を決め目をつむり男に向かって体当たりした。



男は少しだけよろけた。


「実君!!逃げて!!はやく・・・」
途中で言葉が遮られる!男に口を押さえられそのまま地面に押したおされた!

男は俺の上に乗り全体重で俺を押さえ込む・・・体の小さな俺は完全に身動きが出来ない状態・・・。

視線を動かすと・・・実君の姿が写った・・・。何やってんだよ!!早く逃げなきゃ君まで
・・・そう思っているのに口を封じられて声を出せない。

「実君・・・良い子だね・・・そのままじっとしていなさい・・・すぐ済むから」
男は実君に微笑み・・・・今度は俺の方を見て言った。


「すぐ済ませるから大人しくしてなさい。でなきゃもっと苦しむことになるよ」
男は薄ら笑いを浮かべ片手で俺の口を押さえたままもう片方の手を
ゆっくり俺の首に絡ませる・・・。

俺は恐くて目を硬く閉じた・・・。
もうだめだ・・・

そう思った時・・・



「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


男の悲鳴と共に俺の体軽くなる。
男が俺の上からどいたんだ・・・。

そっと目を開け上半身を起こしてみる・・・。


男は立ち上がり、よろけながら目を押さえ悶え苦しんでいる・・・。



俺の横に実君が立っていた・・・。
手には・・・水鉄砲・・・?


「実君・・・その水鉄砲・・・」
「中にはタバスコが入っているんです」
男を見たまま言った。


なるほど・・・目にタバスコが入れば痛いね・・・。
「お兄ちゃん!!あいつの急所!思いっきり蹴って!!」
実君俺に向かって叫ぶ!
俺は勢いよく立ち上がり右足で思いっきり男の股間に蹴りを入れた。

「ぐはっ!!」

男は後ろに倒れ、倒れた拍子に木の根っこに思い切り頭をぶつけ動かなくなった・・・。

俺は恐る恐る男に近づき・・・座って様子を見てみる・・・。



「気を失ってるだけみたい・・・」
実君はリュックの中からロープを取り出した。
「実君のリュックに入ってたのって・・・・『武器』だったんだね・・・」

2人で男の体をロープでぐるぐる巻きにして縛り上げた。
これで一安心。



俺は実君に言った。
「実君・・・すごいね・・・本当に探偵みたいだったよ。・・・でも
俺に少しくらい話してくれてても良かったんじゃない?」
少しふくれっつらしてみる。
ちゃんと話してくれてればもうちょっと心の準備ってもんが出来たもんな!

実君は何も言わず男を見つめている。

俺達・・・いや正確には・・実君は殺人犯を捕まえた。
和之君の敵を取ったんだ・・・・。

実君はフッと男から目線を外し・・・少し離れた所に置いたリュックの所に歩いていった。
俺は男を見下ろし・・・今更ながら自分が殺されかけたことに恐怖を感じていた・・・。
ああ・・・恐かった・・・・。一生分の勇気を使い果たしたよ・・・俺・・・。

もう辺りは薄暗くなってきた。
「実君・・・俺警察に電話して来るよ・・・・」
そう言いながら後ろにいるはずの実君に声をかける。

俺は後ろを振り向き・・・・・・・固まってしまった。





視界に入ったのは震えながら小さな手にナイフを持った実君の姿だった・・・・
2001.5.27