届かない想い(後)
紅葉は小さい頃。気が弱くて・・・時々いじめられて泣いていた。 そうすると必ず楓と秀が飛んできて紅葉を守ってくれた。 何でも出来て紅葉にない物を持っていて可愛いお姉ちゃん・・・・そんな楓のことを紅葉は大好きで ・・・・・・・大嫌いだった・・・・。 紅葉は秀と同じ大学に進み・・・・。 相変わらず秀のことを想っていた。 「楓今日秀君と泊まってくるんだって」 楓からの電話。 母親が話を終えて受話器を置きながら気軽に言った。 その側で本を読んでいた紅葉・・・・・その言葉が信じられず聞き返した・・・。 「お姉ちゃん・・今日帰らないの?秀と一緒なの?」 「そうよ。・・・・紅葉・・・何て顔してるの・・・」 母親は食い入るように切羽詰った顔で自分を見つめる娘に微笑みながら言った。 「紅葉、何心配しているの。あの2人だったら大丈夫よ。なんにもありはしないんだから」 あっけらかんと笑いながら話す母親。 たぶん、紅葉と秀が同じ状況になっても同じ反応だったろう。 両親は3人を全面的に信じているのだ。 『何もないから信じて欲しい』と言う言葉を全面的に信じてくれる。 紅葉だって秀を信じている。 でも紅葉が心配しているのはそんなことではない・・・。 今回も楓に名前を呼ばれて助けに行ったのだろうか・・・・。 紅葉の考えは当たっていた。 もしそうだったとしても・・・楓には彼氏がいたはずだ。 何があったか知らないが楓と秀に何かあるはずがない。 そんなことはこれっぽっちも不安に思っていない。 そんなことよりも・・・・。 また秀が辛い状況に立たされているんじゃないかと・・・そのことだけが心配だった・・・・。 紅葉は秀の気持ちを知っている。 だから・・・昔から楓が秀に何かと悩みを相談し、助けてもらっているのを見ていると・・・辛かったのだ。 秀以外の男の子を好きになり、・・・悩んだ時や悲しい時秀に助けを求める。 楓は秀の気持ちを知らない。秀が伝えようとしないから仕方のないことだ。 楓のせいじゃない。そんなことわかってる。でも・・・時々・・・楓のことがどうしようもなく許せなくなるのだ。 秀は楓が好きなんだ。 何も知らない楓がその気持ちをどれくらい傷つけてきたか紅葉は知っている。 都合の良い時だけ秀を必要とし、助けを求める楓が許せないのだ・・・・。 いっそのこと何もかも楓に教えてやりたいと思う時もあった。 楓がどれくらい残酷なことをしているのか思い知らせてやりたいと思ったりもした。 でも・・・そんなことは許されない・・・。 紅葉にはそんなことをする権利はないのだ。 楓は秀を親友だと思っていて、秀はそれで良いと思っている。 想いを殺し、『親友』という場所を守っている。 紅葉は階段を駆け上り自分の部屋に駆け込んだ。 ドアを閉めて・・・そのままずるずると座り込んだ・・・。 「お姉ちゃん・・・残酷だよ・・・」 目を固く瞑り・・・心の中で楓を責める・・・。 でも楓が悪いのではないこともわかり過ぎるくらいわかってて・・・。 やり場のない悔しさを抱えて・・・・・泣いた・・・・。 次の日、朝早く秀と楓は帰ってきた。 ちょうど朝食を食べていた食卓にひょこっと顔を出した楓。 「ただいま」 少し気まずそうに挨拶する楓。 「楓これから大学でしょ?ご飯食べてく?」 「いらない。食べてきたから。着替えたらすぐ出かけるね」 母親と楓の普段通りの会話。 父親もいつもとまったく変わらない。 紅葉の心だけが・・・ゆれていた・・・。 「・・・お姉ちゃん・・・入っていい?」 楓が部屋で着替えをし、荷物を整えていると、ドアの向こうから紅葉の声がした。 「いいよ。何?」 せわしなく鞄にノートやら教材を詰め込む楓。 紅葉は部屋に入り・・・小さな声で言った。 「お姉ちゃん・・・。昨日は何で泊まったの・・・?」 楓は紅葉の言葉に手をとめた。 紅葉が真剣に楓を見つめる。。 「何でって・・・やぁね、紅葉・・・私と秀何もなかったわよ」 楓は半分冗談っぽく苦笑いしながら答えた。 「そんなことわかってる。私が聞きたいのは何で秀と一緒にいたかってことよ!」 いつもやんわりと話す紅葉だが・・・この時の声は楓を責める、きつい口調だった。 楓は一瞬驚き・・・・・・・ふぅ・・・とため息を付いた。 「紅葉・・・。私ね、昨日拓海に振られちゃったんだ・・・だから・・・」 「だから秀に慰めてもらってたの?」 紅葉の眼差しは楓を責めていた。 その瞳を見た時・・・楓は初めて・・・初めて紅葉の気持ちを知った・・・・。 「お姉ちゃん。いくら幼馴染だからっていつもいつも秀を振り回しちゃ・・・秀が可哀想だよ!!」 紅葉は・・・どうしても我慢できなかった。 これくらいは言ってやりたかった・・・。 「紅葉・・・・もしかして・・・・秀のこと・・・好きなの・・・?」 突然の・・・・楓の言葉。 紅葉は固まった・・・。 ずっと隠してきた秀への想い。 楓にだけは知られちゃいけないと必死で隠してきた紅葉の想い・・・・。 紅葉の様子を見て・・・楓は確信した。 「・・・・好きなんだね」 否定しなきゃ・・・否定しなきゃと思っても紅葉の口からは言葉が出てこない。 楓は紅葉の気持ちを知って・・・自分がしてきたことの残酷さを初めて知った。 『確かに自分は秀に甘えてきた・・・。秀の優しさに甘えてきた。幼馴染でもあり親友だから・・・ 許されると思っていた。・・・でも紅葉はそんな私と秀を見て・・・どんな思いでいたんだろう・・・』 楓は・・・・悔やんだ。自分の無神経さに呆れ・・・自分の甘さと・・・勝手さを嫌悪した。 「ごめん・・・紅葉。私・・・知らなかったから・・・ごめんね・・・・」 真っ青な顔色で・・・今にも泣きそうな声で詫びる楓・・・。 紅葉は頭が真っ白になってしまった・・・・。 何故必死になって楓に気持ちを隠していたのか・・・・。 それは・・・・。 もし紅葉の気持ちを知ったら・・・楓は秀と距離をおくだろう。 楓は妹想いだった。 「紅葉を苛める奴は許さない!!」 そう叫んで男子ととっくみ合いのケンカをしたこともあった・・・。 泣いている紅葉をいつも優しく庇ってくれた楓。 そんな楓だから・・・・。 紅葉が秀を好きだと知れば楓は秀から離れていく。 そのことを恐れて隠してきたのに・・・・。 「紅葉・・・・」 紅葉は手をギュッと握ってうつむいた・・・。 「違う!・・・私別に秀のこと好きじゃないよ!」 「紅葉・・・」 紅葉の瞳から涙が落ちる。我慢しても・・・ぽろぽろと落ちる涙。 「秀のことは・・・お兄ちゃんみたいにしか・・・思ってないよ・・・」 どんなに紅葉が否定しても・・・楓には体全体で秀のことが好きだと叫んでいるようにしか見えなかった・・・。 「紅葉・・・・・」 「好きじゃない!!」 紅葉は叫び・・・楓の部屋を飛び出して・・・自分の部屋に閉じこもった。 部屋の隅で力なく座り・・・・・・。 ごめん・・・秀・・・。 ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。 どんなに謝っても・・・もう遅くて・・・。 自分のせいで秀から楓を遠ざけてしまった・・・・。 あれほど秀が大切に守ってきた場所を紅葉は壊してしまった。 ごめんなさい・・・・・・・。 この日を境に楓が秀に助けを求めることはなくなった。 |
『ぼく、かえでちゃんおヨメさんにしたい!!』 『私のことまもってくれるってやくそくしてくれたらいいよ!』 『ほんとに?ぼく、やくそくする!』 『・・・いいか・・・。結構キツイぞ・・・ヒーローになるってのも。覚悟は出来てるんだな?』 『うん!僕、絶対楓ちゃんを守り通すよ!』 子供の頃の約束 ・・・せめて・・・友達としてでも守ることが出来ればそれでいいから・・・ だから楓 俺の名前を呼んで・・・ |
2001.8.6 ⇒