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星に願いを・・・

秀は5歳の時・・・流れ星にお願い事をした。
その日の深夜。
秀の部屋の窓から変な奴が入ってきた。
その物音で目を覚ました秀の目に映ったのは・・・とてもガラが悪い若い男だった。
手には大きな鞄を持っていた。
スーツ姿だったが着崩していて、髪の毛は真っ赤に染められてぴんぴん跳ねていた。目つきは鋭く
くわえタバコで秀の前に立った。おでこには何故かキラキラ光る星マークがついていた。



ベッドに座って・・・キョトンと男を見つめる秀。
男は秀に
「てめーか?俺に願いごと言ったのは」・・・と睨みをきかせて言った。
秀は言われていることが理解出来ず首をかしげた。
男はイライラしながら「流れ星に願い事したのお前だろ?」・・・と言った。
流れ星に願い事・・・それは身に覚えがある秀・・・頷いた。


男は『ふふん』と軽く笑い「お前の願い事は・・・強くなりたい・・・」だったっけな。

秀は目を輝かせて頷いた。
「ヒーローになりたい!!だから強くなりたいんだ!楓ちゃんを守るんだ!」
「楓?誰だそりゃ?」
「お隣の楓ちゃん」
男は目を細めニヤリと笑った。
「おい・・・ガキんちょ・・・お前その楓ちゃんが好きなのか?」
「うん」
「一生その女を守りたいか?」
「うん!」

男は秀の顔を見つめて・・・・真剣に言った。
「命がけで・・・守れるな?」
秀も男の真剣な眼差しに・・・目を反らすことなく真っ直ぐに見つめて言った。
「うん。僕は守るよ。何があっても」

男は秀の真剣な眼差しを確認し・・・おもむろに鞄からカタログを取り出した。

「お前のプレゼントはこれだ」
秀にカタログを手渡す。
秀は首を傾げながらそれを見つめ・・・読み出した。
ちゃんと子供用にひらがなで書いてある。

「ぷらいべーとひーろー・・・?」
「そう。プライベート・・・えーとわかりやすく言えば・・・その・・・楓ちゃん専用の・・・ヒーロー・・・・まあ、
勇者ってことかな・・」
「楓ちゃんを守れるの?」
「ああ。お前は今日から楓ちゃんだけのヒーローだ!」

秀は嬉しくて嬉しくてカタログを抱きしめた。

「おいおい。喜ぶのはまだ早いぜ。申し込みをちゃんをしなくちゃな」
男は秀の手からカタログを取り上げ最終ページにある申込書を切り取った。

男はしゃがんでベットに座っている秀と目線を合わせた。
「お前、どんなヒーローになりてえんだ?」
「どんなって?」
「色々選べるぞ。例えばロボット型とか動物型とか・・・」
「僕、わんこが好き!!」
「犬?犬型が良いのか?・・・犬は・・・この型しかないぞ」
カタログをぺらぺらめくり、『ヒーローのしゅるい』というページを開いた。
たくさんの写真が載っている。
男が指差した犬型ヒーローの写真は・・・雑種の中型犬。白地に茶色いぶちの入った、どこか気の弱そうな
犬だった。でも・・・その可愛い瞳が秀は気に入った。
「僕、これがいい!」
秀は元気良く答えた。
男は次に「じゃあ、2種類能力・・・えっと敵をやっつけるための力を選べるが・・・どんなのがいいんだ?」
秀は少し考えた後・・・「空を飛びたい!」と言った。
「空・・・じゃあ羽を付けるか」
「うん」
「もう1つ選べるぞ」
「悪い奴をやっつける必殺技が欲しい!」
「じゃあ『ミラクル犬キック』ってのはどうだ?」
「うん!それでいい!!」

男は胸ポケットからボールペンを取り出し、『ヒーロー申し込み書』に秀の注文を書いた。

ヒーローの出来上がりである。
男は秀の希望通り注文したヒ―ローの姿を想像して・・・笑った。

白地に茶色いぶちの入った雑種の中型犬。その背中には白い羽がついている。
考えただけで笑える姿。


『可笑しい・・・可笑しすぎるぜ!!・・・こいつ・・・大きくなってこれを選んだことを後悔しなきゃいいがな・・・』
男は秀を見つめて・・・そう思った。

「これで僕はヒーローなの?」
秀はわくわくしながら聞いた。

「ああ。ただし・・・これから俺が言うことを良く聞け。大切なことだ」
男の目つきが鋭くなった。
秀は神妙な面持ちで男を見つめた。
男はゆっくりと説明を始めた。
「お前は楓ちゃんを守るためにだけ、今選んだ犬型ヒーローに変身できる。変身中はとても強くなれる。
・・・ただ、変身できるのは楓ちゃんがお前の名前を呼んだ時だけだ」
「僕の・・・名前?」
「そうだ。楓ちゃんが追い詰められて心の底からお前を必要としてお前の名前を叫んだ時にだけ・・・変身できる」
「・・・うん」
「つまり、楓ちゃんがお前を必要としなければお前は変身出来ないわけだ。わかるな?」
「うん」
「それとな・・・・」
男は真剣な眼差しで秀を見つめて・・・言った。
「それと・・・もしお前がプライベートヒーローだってことが楓ちゃんにバレた時はこの力はなくなる」
「うん・・・」
「あと・・・・・・お前以外に楓ちゃんを守る存在が現れ・・・お前がその存在を認めてしまった時にも
・・・この力はなくなる」
「うん」
「今言ったことはカタログの注意事項にも書いてある。忘れんなよ!!」
「うん!」

そして・・・男は秀を見つめたまま言った。
「・・・いいか・・・。結構キツイぞ・・・ヒーローになるってのも。覚悟は出来てるんだな?」
秀は少しドキドキしたが・・・小さな手を握り締め、はっきりと言い切った。
「うん!僕、絶対楓ちゃんを守り通すよ!」

男は微笑んで秀の頭を撫でた。
「頑張れよ・・・」



男は窓枠に足をかけて外に出て・・・フワリと宙に浮いた。
秀はその様子を目を輝かせて見ていた。


「じゃあな!坊主・・・」
「お兄ちゃん・・・お兄ちゃんは何なの?」

男は笑って言った。
「俺か?・・・俺は流れ星だ!!」

そう言って男はすごい速さで空に飛んでいき・・・やがて星空に消えた。


秀はいつまでもいつまでもその星空を見つめていた。

この日が秀の辛く悲しく・・・・そして幸せな人生の幕開けであった。

2001.7.30