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みのりは、まさか自分を好きになる奴なんていないだろうと思っていた。

また傷つくのが怖くて・・・誰かを自分から好きになることも避けていた。
自分から女の子らしくすることを放棄すれば、何を言われたって傷つかなくてすむ。
『男みてー!』って言われても『そんなの当たり前じゃん!』・・・って開き直れる。
女扱いされなくても、平気でいられる・・・。

・・・そうやって自分を守ってきたのだ。







野々村とみのりA








野々村は、みのりとの出会いを優しく語る。

「あの日、君と出会えたのは僕にとっての幸運でした。」

野々村の言う『あの日』の出来事・・・。

その日、みのりは担任に頼まれて教材の本数冊と、プリントの束を抱えて、教室に向かって
廊下を歩いていた。
そこへ通りかかったのが野々村。
すれ違う時少しだけ肩がぶつかり、ただでさえ小さな体に荷物を抱えて
不安定な歩き方になっていたみのりは見事に本を落としてしまった。

「うわぁ。」
ちょっと驚いたような声を出し、慌てて屈んで落とした本を取ろうとしたら
今度はプリントが腕から滑り落ちて、見事にぶちまけてしまった。

「あ、ごめんね・・・。」
野々村は謝罪し、みのりに目を向けた。

「いや、私もよく前を見てなかったから。ごめんな。」
頭をかきながら苦笑いしたみのり。

野々村は、みのりの顔をまじまじと見つめ・・・・<似ている・・・>と、思ったのだ。
・・・・昔飼っていた雑種の小型犬『タケマロ君』に似ていたのだ。

タケマロ君は自宅の前に捨てられていた子犬で、当時幼稚園生だった野々村が拾って
両親に泣いて頼んで飼うことを許されたのだ。
子供の頃の野々村の親友だった。既に他界していたが野々村の心の中にそっと息づいていた。

そのタケマロ君の可愛い瞳とみのりの瞳が重なった。

一緒にプリントを拾い集めている間、みのりから目が離せなかった。

どこか不器用な手つきや仕草がとても可愛らしくて・・・思わず微笑んでしまった。

みのりに興味を抱くきっかけだった・・・。



野々村は幅広い年齢層の女性からもてていたが、当の本人は『女』が苦手だったのだ。
特に色気のある『女』には恐怖すら感じる。

・・・何故そんな気持ちになってしまうのか、野々村自身わからなかった。

そうなった原因・・・かなりショックな出来事だったので、その部分の記憶が抜け落ちているのだ。

野々村は幼い頃からとても綺麗な顔立ちをしていた。
8歳の時、家庭教師の女性に手ごめにされかけた。
とても色気のある女性だったのだが、当時の野々村にとっては恐怖でしかなく・・・・。
すんでの所で助けてくれたのがタケマロ君だったのだ。

主人のピンチにタケマロ君が女性のお尻に噛み付いたのだ。
その記憶は心の中に沈み・・・ただタケマロ君が自分を助けてくれた恩人だということだけが
心に残った。


それ以来、自覚がないまま『女』という生き物に恐怖を抱き、特にその家庭教師を思い出させる
色気のある女性を見ると逃げ出したくなるのだ。

何故なのかもわからないまま誰かを好きになることもなく
<僕は一生恋など出来ないのかもしれない>・・・と思っていたのだ。

そこに現れたのが中性的な少女、みのり。
出会ってからずっと、遠くで見守っていた。
みのりのことを知る度に少しずつ惹かれていって
<僕の求めていた女性はこの子だ!!>
・・・と、強く思うようになった。

<この子との恋を逃したら・・・多分2度と恋なんて出来ない・・・>
そう思った野々村は、自分の気持ちを思い切り伝え続けようと決意したのだ。
自分の愛情をこれでもかってくらい注ごうと思ったのだ。

2002.2.18 

野々村は・・変な奴かもしれないけど・・・でも、でもね・・・(またまた次回に続く)