「私のこと、そんな気色悪い目で見んなよ!」
車の中でみのりのことをニコニコしながら見ている野々村を睨んだ。
野々村は実に幸せそうに、愛しげにみのりを見ていたのだ。
そんな眼差しを向けられると居心地が悪くて、どうしたらいいのかわからなくなるみのり。
もし、運転手がいなくて2人きりだったらこの時点で逃げ出していたに違いない。
変に鼓動が早くなるし、どこか不安で怖いような気もするし、鬱陶しいような気もするし
・・・・やっぱり少し嬉しいような気もしていた。
<思考回路ぐちゃぐちゃだな・・・私>
早くこんな気持ちからオサラバしたかった。
<それにはやっぱ『可愛い』の真相を突きとめなきゃな>
車は都心を抜け、閑静な住宅街へと入っていく。
そして、とても立派な門構えの屋敷に滑り込んだ。
「・・・・うわぁ・・・・。」 駐車場で車から降りたみのり。まず、敷地内の広さに驚き・・・。
「・・・でけぇ・・・・・。」 次に、庭を通り連れて来られた屋敷の前で、建物の大きさに口を開けて呆然としてしまった。
それほど立派な洋風の屋敷だった。
「さあ、みのり。中へどうぞ。」 野々村に声をかけられ、ビクッとし我に返る。 そして、今更自分が呼び捨てにされていることに気が付き、抗議する。
「おい。なれなれしく名前を呼び捨てにすんなよ!」 「え?じゃあ何て呼べばいいかな?」 「・・・水野。」 「僕は名前で呼びたいんだ。・・・ダメかなぁ・・・。」
ちょっと寂しそうな瞳で、懇願するようにみのりを見つめる野々村。 みのりは小さなため息を付いて・・・折れた。
「・・・ああもう!いいよ。わかったよ。みのりでいいよ。」 ちょっと苛立ちながら頭をかいた。
野々村はその言葉を聞いて、ニコッと笑って「僕のことは輝義と呼んで下さいね。」と言った。
みのりは露骨に嫌な顔をした。 「ヤだね!」 正直言って、呼び方なんてどうでも良かったのだが野々村の言いなりになってばかりじゃ腹立たしい。 <ぜってー輝義なんて呼んでやらねー>・・・と、誓った。
「残念です。ではみのりの好きな呼び方で呼んで下さい・・・。」 野々村はちょっとシュンとして俯き・・・すぐ復活する。
「でも気が向いたら名前で呼んでみて下さいね♪」
<一生気なんか向かねーよ!> みのりは心の中で悪態をついていた。 反抗していないと、いつの間にか野々村のペースに乗せられそうで・・・ みのりなりに警戒していたのだ。
大きな玄関でお手伝いさんらしき女性数人が出迎えに来ていて、そこでまずみのりはビビり、 だだっ広い居間へ通され、その豪華さに目をまん丸くしながらソファーに座る。
部屋には「これ一体いくらすんだよ!」って言いたくなるような巨大な額縁に入った油絵や 煌びやかな花瓶に活けてある花々が飾られている。 大きな窓からは先ほど通ってきた庭が一面に見渡せて・・・・ 何もかもがみのりの日常的な家庭風景とはかけ離れていた。
お手伝いさんが紅茶とクッキーを置いて部屋を出ていった。
<・・・ついに2人きりになっちまったな・・・>
みのりは部屋の雰囲気に圧倒されながらも警戒心を強める。 真正面に座った野々村が微笑みを浮かべ「どうぞ。」とお茶を勧めた。
<とりあえず、空腹を何とかすれば落ち着くかな・・・・> などと思案し、遠慮なく紅茶に口を付け、クッキーも頬張る。 とても美味しいクッキーで思わず<美味しい♪>って顔になる。 ・・・単純なみのり。
その様子を見て、野々村はますます笑顔になる。 野々村の視線に気が付いたみのり、眉間にシワを寄せて睨む。
「何だよ。」 「いや、表情豊かだなって思って。」 「?」 「とても美味しそうに食べているから。」
みのりはハッとして、少し頬を赤らめる。 <そうだ!食ってる場合じゃないだろ!!> 本来ここへ来た用件を思い出し、顔を上げて野々村を睨む。
「・・・約束だぞ。教えろよ。」 「ああ、みのりのどこが可愛いか・・・ですよね。」 「ああ。」 「それはですね・・・。」
みのりは身を乗り出し、野々村の言葉を待つ。
「全部です。」 ニッコリ笑って答える野々村。
「全部・・・?」 みのりは目をぱちぱちさせた。
野々村はゆっくりと立ち上がり、みのりの隣へ腰を下ろす。 みのりはぼんやりとその様子を目で追っていた。
「みのりを初めて見たのは、君が入学したばかりの頃でした。」
野々村は懐かしそうに話を始めた。
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