今日は麗奈が風邪を引いてお休みだった。
「あ、俺、教室に忘れ物した。みのりはここで待っててくれ。」 下校する時、校門の所で壮介が忘れ物に気が付き、校舎へ引き返した。 みのりは校門脇にある大きな木に背中を預け、ぼんやりと空を見上げていた。
「お腹減ったな・・・。お好み焼きでも食べに行こうかな・・・。」 独り言を呟いていると、すぐ傍からクスっと笑い声が聞こえた。
慌てて視線を空から地上へ戻すと、目の前に野々村が立っていた。
<げっ!> みのりは驚き、激しく動揺した。思わずその場から逃げようとするが、腕を掴まれてしまった。
「何すんだよ!離せよ!」 「だって離したら逃げちゃうでしょ?」 「逃げねーよ!お前なんか怖かねーよ!」 「そう?じゃあ、離すね。」
野々村はそっと手を離した。
みのりが逃げたいと思っても、あまりにも間近に立たれてしまい、逃げ道がないのだ。 背後の木に背中を押し付け、少しでも野々村から離れようとする。
「何か用かよ!」 「君があまりにも可愛らしく空を見上げているから、見惚れていたんだ。」 「・・・・見惚れてた・・・だと?」 「この前も言ったけど、君はとても可愛らしい・・・。」
みのりを、うっとりとした眼差しで見つめる野々村。 そんな視線を向けられ、みのりは戸惑う。 そして、再度言われた『可愛い』という言葉に、つい反応してしまった。
「私のどこが可愛いんだ?いくら考えてもわからないんだよ。」
困惑した瞳を野々村に向ける。 野々村は一瞬目を見開いて、みのりを見つめた。 <そうか・・・君は・・・>
幾分か緊張した面持ちで野々村の答えを待っているみのりに、優しげに微笑んだ。
「教えて欲しいですか?」 「ああ。」 「じゃあ、僕とお茶を付き合って下さい。」 「お茶?お茶を一緒に飲めってことか?」 「ちゃんとお茶菓子も付けますから。」
そう言って、みのりの返事も待たずに校門から外に出る。 すると、一台の高級車が野々村の前に滑り込んできた。
野々村は車の後部座席のドアを開け、立ち尽くしているみのりに手招きをする。 「さぁ。乗って下さい。」
みのりは少し躊躇したが、おずおずと歩き出した。 そして、野々村の下へ行き、車に目をやる。
「・・・これ、お前のウチの車なのか?」 「そうですよ。」 「車で送り迎えしてもらってるなんて・・・お前のうち、すげー金持ちなんだな・・・。」
そう言った後、キっと野々村を睨んで忠告した。
「いいか、この前みたいに変なことしたら、ぶっとばすからな!」
「変なこと?」 きょとんとする野々村。
「とぼけんなよ!この前抱きついただろ!2度とあんなこと、すんなよな!」 「・・・わかりました。」
野々村は、心の中で<全身で愛情表現しただけなのになぁ>と呟いた。
みのりは野々村の言葉を聞いて、とりあえず安心したように肩の力を抜いた。 そして、まだ戻ってきていない壮介のことが気になり、ノートを破って 校門の壁にメモを貼った。
『ちょっと野暮用ができた。心配すんな。先に帰っててくれ。』
・・・と、書置きを残したのだ。
「本当にお茶を一緒に飲めば教えてくれるんだな。」 野々村に念を押した。野々村はクスクス笑いながら頷いた。
みのりは覚悟を決めて車に乗り込んだ。
野々村もその後に続き、2人を乗せて車はゆっくりと走り出した・・・・・。
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