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みのりの誕生日から1週間が過ぎた。
壮介は警戒していたが、今のところ野々村からみのりに何の接触もなかった。


『君は何て可愛いんだ・・・。』
その言葉はみのりに相変わらず纏わりついている。
本当は野々村自身にこの言葉の意味を問い詰めたいのだが
・・・・それに対して、行動を起こそうとはしなかった。

聞きに行くのが怖かったことが第一だが、壮介と麗奈が普段以上に纏わり付いていたので
行動に移せなかったとも言える。

このことを誰にも言えずにいたのだ・・・。





野々村の誘い










今日は麗奈が風邪を引いてお休みだった。

「あ、俺、教室に忘れ物した。みのりはここで待っててくれ。」
下校する時、校門の所で壮介が忘れ物に気が付き、校舎へ引き返した。
みのりは校門脇にある大きな木に背中を預け、ぼんやりと空を見上げていた。

「お腹減ったな・・・。お好み焼きでも食べに行こうかな・・・。」
独り言を呟いていると、すぐ傍からクスっと笑い声が聞こえた。

慌てて視線を空から地上へ戻すと、目の前に野々村が立っていた。

<げっ!>
みのりは驚き、激しく動揺した。思わずその場から逃げようとするが、腕を掴まれてしまった。


「何すんだよ!離せよ!」
「だって離したら逃げちゃうでしょ?」
「逃げねーよ!お前なんか怖かねーよ!」
「そう?じゃあ、離すね。」

野々村はそっと手を離した。

みのりが逃げたいと思っても、あまりにも間近に立たれてしまい、逃げ道がないのだ。
背後の木に背中を押し付け、少しでも野々村から離れようとする。

「何か用かよ!」
「君があまりにも可愛らしく空を見上げているから、見惚れていたんだ。」
「・・・・見惚れてた・・・だと?」
「この前も言ったけど、君はとても可愛らしい・・・。」

みのりを、うっとりとした眼差しで見つめる野々村。
そんな視線を向けられ、みのりは戸惑う。
そして、再度言われた『可愛い』という言葉に、つい反応してしまった。

「私のどこが可愛いんだ?いくら考えてもわからないんだよ。」

困惑した瞳を野々村に向ける。
野々村は一瞬目を見開いて、みのりを見つめた。
<そうか・・・君は・・・>

幾分か緊張した面持ちで野々村の答えを待っているみのりに、優しげに微笑んだ。


「教えて欲しいですか?」
「ああ。」
「じゃあ、僕とお茶を付き合って下さい。」
「お茶?お茶を一緒に飲めってことか?」
「ちゃんとお茶菓子も付けますから。」

そう言って、みのりの返事も待たずに校門から外に出る。
すると、一台の高級車が野々村の前に滑り込んできた。

野々村は車の後部座席のドアを開け、立ち尽くしているみのりに手招きをする。
「さぁ。乗って下さい。」


みのりは少し躊躇したが、おずおずと歩き出した。
そして、野々村の下へ行き、車に目をやる。

「・・・これ、お前のウチの車なのか?」
「そうですよ。」
「車で送り迎えしてもらってるなんて・・・お前のうち、すげー金持ちなんだな・・・。」

そう言った後、キっと野々村を睨んで忠告した。

「いいか、この前みたいに変なことしたら、ぶっとばすからな!」

「変なこと?」
きょとんとする野々村。

「とぼけんなよ!この前抱きついただろ!2度とあんなこと、すんなよな!」
「・・・わかりました。」

野々村は、心の中で<全身で愛情表現しただけなのになぁ>と呟いた。


みのりは野々村の言葉を聞いて、とりあえず安心したように肩の力を抜いた。
そして、まだ戻ってきていない壮介のことが気になり、ノートを破って
校門の壁にメモを貼った。

『ちょっと野暮用ができた。心配すんな。先に帰っててくれ。』
・・・と、書置きを残したのだ。

「本当にお茶を一緒に飲めば教えてくれるんだな。」
野々村に念を押した。野々村はクスクス笑いながら頷いた。


みのりは覚悟を決めて車に乗り込んだ。
野々村もその後に続き、2人を乗せて車はゆっくりと走り出した・・・・・。

2002.2.15 

みのりピンチ!?