お前のことが好きなんだ!C |
みのりは力いっぱい抵抗したが、手も足もまったく動かせず、唯一自由な口で反抗するしかなかった。 「放せって言ってんだろ!馬鹿野郎!!」 強がって叫ぶ。でもこれ以上言葉が続かない。 「ホントに元気が良いね。」 「気が強い方が楽しめるよな。」 「これで胸がもうちょっとでかかったらな。」 …などと勝手なことを言っているが、そんな言葉、みのりの耳には入っていなかった。欲望に満ちた目で 自分を見つめている男たちが、ただただ恐ろしくて泣くのを堪えるので精一杯だった。 胸の部分がはだけ、大柄な男の手が滑り込んでくる。その感触にゾッと寒気を感じた時、下着の上から 乱暴に胸を強く掴まれ、痛さに体を強張らせた。 「あれ?泣きそうだね。怖いの?」 大柄な男は、手を止め楽しそうにみのりの髪に指を通す。そして、ゆっくりとみのりに顔を近づけていく。 <嫌だ…嫌だよ…!> 男の唇がみのりの唇に触れる直前、みのりは思い切り叫んだ。 「壮介ーー!」 その瞬間、バタン!っと乱暴にドアが開かれる音がした。 みのりと男たちの視線が一斉に部屋の入り口へと向けられた。 <嘘…> みのりは涙ぐむ。嬉しくて、でもすぐには信じられなくて、何度も瞬きをした。自分の願いに応え、 まるで手品のように現われた少年。 「壮介!」 みのりはもう一度叫んだ。 もちろんこれは手品なんかではなくて、壮介は必死でみのりのことを探し、駆けずり回った。 全力で走り続けて、荒い息をしながら男たちを見つめていた。手にはみのりの首から落ちた パールネックレスが握られていた。切れた糸からパラパラと白い粒が床に落ちる。このネックレスを 見つけることができたから、この場所が発見できたのだ。 「何だ?お前。」 「鍵、閉めなかったのかよ。」 「この子の知り合いか?」 男たちは各々、邪魔者の登場に忌々しそうな言葉を吐いた。 壮介はそんな言葉に耳を傾けるほどの余裕はなく、息をするのがやっとだった。無言でよろめきながら みのりの許へと歩み寄る。…が、辿り着く前にドア側にいた男2人に肩を掴まれ、そのうち一人に勢いよく 右頬を殴られた。 その時の勢いで後ろに弾き飛ばされ、床に倒れてしまう。 「壮介に何すんだ!!」 みのりは、持てる力を全て出して暴れまくった。 壮介に気持ちを奪われていた男たちの拘束は甘くなっていて、上手く手を振り解き、拳を振り回しながら 体を起こした。偶然その一発が大柄な男の顎に当たり、男は一瞬顔をしかめ、手加減なしにみのりの頬を 殴りつけた。 みのりは、尻餅をつくように倒れた。口の中に血の味が広がり、殴られた頬を手で押さえた。 <痛ぇ…!> 白いワンピースは汚れて、上半身の前ボタンが外されていたため、胸元が露になる。 自分の格好に気が付いたみのりは、慌てて両手で服を押さえ、震える手でボタンをかける。 <みのり…血…> 何とか体を起こした壮介の目に、唇から血を流しているみのりの顔が映る。…壮介の中に激しい怒りが 湧いてきた。 男達の一人が面倒臭そうに壮介の肩に手をかけ、口を開いた。 「おい、お前、邪魔だから早くどっか行けよ。」…と、男は言おうとしたのだが、その言葉は最後まで 発せられることはなかった。言葉の途中で、男の腹に壮介の拳が思いきりめり込んでいたからだ。 男は声を出すことができず、苦しそうに上半身をくの字に曲げた。 壮介は倒れこんでくる男の体を避けながら立ち上がり、両手を組んで上にあげ、勢い良く男の背中に 振り下ろした。 男は床に倒れて蹲っていた。 壮介は無言のまま、今度はみのりを殴りつけた大柄な男を睨みつけ、いきなり飛び掛った。 突然の出来事に、大柄な男も、その他の仲間も一瞬体が動かなくなっていた。 大柄な男は、壮介に胸倉を掴まれてそのまま押された勢いでヨロケて仰向けに倒れた。すかさず 壮介は馬乗りになり、男を押さえ込んで顔を殴り続けた。ここまできて、さすがに周りの男たちも動き出した。 一人の男が部屋の隅に落ちていた壊れたパイプ椅子を投げつけた。 「壮介!危ない!」 みのりは咄嗟に叫んだが間に合わず、イスは壮介の背中に直撃した。その衝撃で、壮介は背中を丸めた。 組み敷かれ、殴られていた男はその瞬間を見逃さず、壮介の体を横に押しのけた。 「よくも散々殴ってくれたな!! 大柄な男は体を起こし、叫んだ。今度は逆に壮介の方が押さえつけられそうになるが、男が飛び掛って きた時に、足で急所を蹴り上げた。 「いっ!」 大柄な男は股間を押さえ、呻いた…よほど痛かったらしく床に寝転び、体を縮めていた。 「この野郎!」 壮介が立ち上がるのと同時に残り3人の男が一斉に向かって行った。 もともと5対1という喧嘩自体無茶な話で、幸い2人を一時的に戦闘不能にしたが、それでも3対1 …不利である。が、そんな計算など壮介の頭の中になかった。 あるのは、みのりに酷いことをした男たちに対する怒りだけだった。 |
2002.4.16 ⇒