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お前のことが好きなんだ!B

 みのりを待っていた壮介の、上着のポケットの中に入っていた携帯電話が鳴った。

<みのりからかな…>

 壮介がそう思うのも無理はない。既に時刻はAM10:03で、まだみのりは来ていなかったからだ。でも、
電話の主は予想に反して、麗奈からだった。

「どうしたんだよ。本間。お前何で俺の携帯の番号知ってんだ?」

 何も知らない壮介は素朴な疑問を投げかけた。対する麗奈は焦りまくった口調で叫ぶ。

『あんたの母親から聞いたのよ!そんなことより今みのりと一緒?』
「いや、まだ来てないんだ。」
『嘘…。』

 みのりは余裕を持って家を出た。この時間になっても待ち合わせ場所に着いていないということは
何かあったに違いなかった。野々村から電話をもらった麗奈は、すぐに壮介の家に電話をかけ、壮介の携帯の
番号を聞いた。とにかく、みのりの身の安全を確認しなければと思っていたが、みのりは壮介の許へは辿り着いて
いないという事実を突きつけられた。

 麗奈のただならぬ様子を感じ取り、壮介は不安を感じた。

「いったいどうしたんだよ?」
『七瀬君…どうしよう…。』

 今にも泣きそうな震える声の麗奈。必死で事情を説明した。話を聞き終わり、壮介は愕然とした。

 まだ来ていないみのり。
 何の連絡もよこさないみのり。
 それがどれだけ不吉なことを示しているか考えただけで不安と焦りが湧いてくる。

『七瀬君!みのりを探して!』
 麗奈の言葉に、壮介は唇を噛み締める。

<探すって言ったって、どこを…>
 待ち合わせの場所までみのりが来たのかどうかさえわからない。そう思った時、駅前にある売店が目に入る。
その売店から待ち合わせ場所である噴水は良く見える位置にある。

 壮介は麗奈との電話を繋いだまま売店へと駆け出した。

 走っている最中に今日のみのりの服装を麗奈から聞きだした。

『白いワンピースにサンダル、パールのネックレスを付けてるわ。メイクだってしてる!』
「ワンピース…?」

 それを聞いた壮介、胸が熱くなるのを感じる。今まで私服ではスカートなんか着たことのないみのりだったから。

『七瀬!あんたのために、みのりが自分で選んだ服よ!お願い!みのりを助けてあげて!』
 麗奈は電話口で叫んでいた。

「…わかってる!」
<絶対探し出してみせる!>
 壮介は小さな声で呟いて電話を切った。

 売店へと駆け寄り、縋るように身を乗り出し、店番をしていた年配の女性にみのりのことを尋ねた。

「ああ、そういえば、そんな子がいたねぇ。背が小さくて、なかなか可愛らしい子だったよ。」
 女性は思い出しながら、噴水に目をやり、みのりらしき少女が確かにいたことを壮介に告げた。

<みのりは待ち合わせ場所までは来ていたんだ!!>
「その子。何処へ行ったかわかりませんか?」
 壮介は逸る気持ちを抑えながら聞いた。
「そこまではちょっとねぇ。気が付いたらいなかったから…。」

 わかるのはそこまでだった。壮介は戸惑い気味の女性にお礼を言ってその場を後にした。

<とにかくこの辺りを探し回るしかない!>
 今自分にできることはそれしかないと思い、走り出した。









<おなかが痛いな…それに気持ち悪い…>

 みのりは暗闇の中でぼんやりとそんなことを思っていた。

「おーい!起きろ〜!」

 耳元で男の声がして、ペシペシと頬を叩かれたことで意識が少しずつはっきりとしてくる。

 みのりはゆっくりと目を開けた。

 薄汚れた灰色の天井が目に入る。続いて視界に入ったのは先ほどの男たちの顔。自分を覗き込むように
見下ろしている。…が、いまいち自分の置かれた状況がわからない。

「…あ?」

 みのりは、手足が動かせないことに気が付いた。男たちに押さえつけられ身動きが取れないのだ。
背中に硬い質感が伝わる。みのりは床に寝かされていた。白いワンピースはところどころ汚れてしまっていた。
サンダルと鞄は傍に転がされていた。

<そうか…蹴られて気を失ってたんだ…>

「お前ら…。ここは何処だよ!!」
「さっきのビルの中だよ。ここ、誰もこなくて居心地いいんだ。」

 先ほどみのりのことを蹴り上げた男がニヤニヤと笑いながら、説明した。

 会社の事務所か何かだったのかわからないが、ガランとした室内は薄暗く、その分閉塞感がみのりに
襲い掛かる。割られた窓ガラスから射し込む昼間の光がなかったら、もっと恐怖を抱いただろう。

「おい!私をどうするつもりだよ!」

 みのりはこれから自分がどうなるのかわからない不安を押し殺し、男たちを睨みつけた。

「気が強い子だねー。」
「その方が泣かせがいがあって楽しいけどな。」

 男たちの言葉はみのりを追い詰め、体を震えさせた。

「…何する気なんだ?」

 みのりは、必死に声が震えるのを押さえようとしたが無駄な努力に終わった。

「怯えてるね。君、ガキ臭いけど結構可愛いじゃん。」

 一番大柄な男が微笑みながら言った。

 みのりの体にゾクっと寒気が走った。男たちを見るのが怖いのに、瞼が凍りついたように動かず目を
閉じられない。それでも、必死に<負けるもんか>と恐怖心を悟られないようにする。

 そんなみのりの様子がますます男たちを楽しませているようだ。

「俺たちロリコンじゃないんだけどな〜。でも、そういう顔されると燃えるね。」
 男たちの一人が興奮気味に笑う。

「思う存分、叫んでかまわないよ。この辺りは昼間は人気がないんだ。どうせ誰も気付かない。」

 大柄な男はそう言ってから、手を伸ばしてみのりの頬を撫でた。そして、手を胸元に移動させ…ワンピースの
ボタンを一つ一つ外していった。

 いくら鈍感なみのりでも自分がこれから何をされるかを予想し、身を硬くした。

「嫌だ!放せーーー!!」

2002.4.13