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嵐の前の静けさ



テストが終わった日、みのりは学校帰りに麗奈と一緒にデパートに行き洋服を見て回った。

「みのり、これはどう?」
「派手すぎ。」
「これは?」
「・・・やだよ、こんな下着みたいな服!」
・・・などと言い合いながら、みのりは真剣に、麗奈は楽しげに服を選んでいた。
そして、十数件目の店でようやくみのりが気に入る服を発見し、試着してみたのだ。

「ど・・・どうだ?」
試着室から緊張気味に出てきたみのりは、麗奈に感想を求める。
みのりが選んだ服は襟元にシンプルなフリルが付いている夏らしい真っ白いコットンワンピース。
膝下20cmくらいの長さで前ボタンの下の方を少し外し、中に着ている同色のペチコートが見え隠れする。
その姿を見て、麗奈は目を見開いた。
「可愛い!似合うよ。その仁王立ちさえやめればね。」
「あ。やべっ!」
みのりは頬を赤く染め、慌てて足を閉じる。
<似合ってるんだけど、着慣れていないってのがモロバレね>
麗奈は愛情のこもった笑みを浮かべる。
服の精算を済ませ、次の買い物へと意識を向ける。

「次は靴ね。どうせならその服に合う鞄も買おうよ。」
それを聞いたみのりはため息をついた。
「女って金がかかるんだなぁ。厄介な生き物だぜ。」
まるで他人事のような台詞をぶつぶつ言いながら麗奈の後を付いていく。
先ほど買った服が入っている手提げ袋に目をやり、なんとなく照れくさくて、でも嬉しくて
自然と軽い足取りになる。


この日、みのりは洋服と、サンダル、肩掛けできるバッグ、小粒のパールネックレスを買った。

「疲れたー。」
買い物を終えて立ち寄った喫茶店で、みのりは心底疲れきった顔をしていた。

「あれくらいの買い物で疲れてどうするのよ。そんなんじゃバーゲンの時なんか、みのり死ぬわよ。」
麗奈は、テーブルにぐったりと突っ伏しているみのりを呆れたように見ていた。
注文していたケーキとアイスティーをウエートレスが運んできてテーブルに置いた。

「みのり、土曜の夜はウチに泊まりに来ない?」
「え?」
「デートは日曜日でしょ?」
「で・・・でぇとだなんて・・・。ありゃまるで決闘の申し込みだったし・・・。だいいち、ただ会うだけで…。」
麗奈の言葉をウダウダと否定しているみのり。
<往生際が悪いんだから>と、麗奈は目を細めて心の中で呟く。
「デートよ!日曜の朝、私がみのりの服装チェックしてあげるからさ。少しメイクもしてあげる。」
「メイクって、化粧?」
それを聞いただけでみのりは逃げ腰になったが、当然興味もあったし
麗奈の力を借りることができるなら心強かった。

「…よろしく頼む。」
みのりは、緊張で顔を強ばらせながら言った。全て麗奈にまかせることにした。


そして土曜日、みのりは夕方から麗奈の家へ行った。
夕食は麗奈の母親が腕をふるってご馳走を作ってくれた。

夜も更け、みのりは麗奈の部屋に布団を敷いてもらい、潜り込んだ。
でも、明日のことを考えると興奮してなかなか寝付けなかった。
隣のベッドで寝ている麗奈は既に規則正しい寝息をたてていて、
暗い部屋の中みのりの意識だけが店じまいすることなく忙しく働いていた。

<明日、壮介びっくりするかな>
<何て言ってくれるかな>
<私、ちゃんと素直に気持ち伝えられるかな>
不安な気持ちと期待感が混じり合ってますます寝られなくなる。

<ちゃんと好きって言うんだぞ!!>
何度も何度も自分に言い聞かせ、みのりが眠りについたのは明け方だった。


その頃、麗奈のマンションの周りを杉田がウロウロしていた。
あれからずっとみのりを付け回しているが、機会が掴めないのと勇気が出ないのとで、
手を出すことができなかった。

<早く実行しないと>
もともと心にゆとりがなく、プレッシャーに負けて自滅するタイプの性格なので
焦りばかりが大きくなり、杉田はかなり追い詰められていた。
そんな状態でも時折みのりの笑顔を思い出し、胸が切なく痛みだす。

マンションの近くにある小さな公園に、重い足取りで入って行く。
中央にあるブランコに座り、少しずつ明るくなっていく空を見ながらため息をついた。

2002.3.29 

少女漫画チックだぁ。(照)