成功するかどうかはわからなかったが、失敗したら次の手を考えれば良い、と藤谷は考えていた。 藤谷は杉田に自分の名前も素性も明かしていない。一応伊達めがねをかけて 普段と全然違う髪型やラフな服装をして変装らしいこともしていた。印象がかなり違う。 逆に杉田の住んでいるアパートの住所や電話、携帯電話の番号は全て聞きだした。 連絡は藤谷の方が一方的に携帯電話へ入れることにした。 <万が一問題を起こしてもこの男が全て責任を取ってくれる> 前金のみでとんずらされる心配はあったが、切羽詰っている様子だったので 大丈夫だろうと踏んでいた。 |
危険がいっぱいA |
「仮に捕まってしまっても、仕事として依頼されたことは秘密にして下さい。 ・・・もし、余計なことを話したら後で後悔しますよ。」 藤谷は脅しの文句を吐いて、冷やかな睨みをきかせた。 それはなかなか迫力があって、気の弱い杉田は震え上がった。 「わ・・・わかった。」 杉田はかなり緊張した面持ちで藤谷の言葉に同意した。 藤谷は満足げに頷き、調べておいたみのりの家の住所や電話番号、T高校の住所を杉田に教えた。 みのりの写真も、顔を覚えさせた後、ちゃんと回収した。 「じゃあ、よろしく頼んだよ。」 藤谷は微笑を浮かべながら席を立ち、テーブル置かれていた伝票を手に持って、 代わりに前金の10万を無造作に置いた。 「今夜は俺の奢りです。」 杉田の肩をポンッと軽く叩き、その店を後にした。 店に残された杉田は呆然としていた。 すっかり酔いも醒めてしまったようだ。 <・・・どうしよう> とんでもないことになったと思いながらも、借金から開放されるかもしれない期待と 嬉しさを感じていた。 テーブルの上に置かれた10万円を震える手で掴み、財布にしまい、覚悟を決める。 <ちょっと脅すだけでいいんだもんな。大丈夫だろ。 たったそれだけで借金を返済してもらえるんだ。安いもんだ。> 自分に都合の良いように考えて気持ちを落ち着かせようとしたが ふいに先ほど写真で見せられた少女のことを思い出す。 <・・・可愛い子だったな> みのりは、どうやらこの男の好みのタイプだったようだ。 次の日、みのりは麗奈と一緒に図書室が閉められるギリギリの時間まで居座り、勉強をしていた。 その後、学校を出て駅で麗奈と別れ、運良く座れた電車に揺られながら教科書を広げる。 そんなみのりを、少し離れた場所から一人の男が見つめていた。 みのりは電車を降りて、自宅への道をのろのろと歩く。 辺りは薄暗くなり始め、住宅街へ入ると夕食の準備が始まっているのか、各家々から美味しそうな 匂いが漂ってくる。 <お腹空いたな・・・> みのりは空腹を感じ、力ない足取りで夕食のメニューをあれこれと考えていた。 途中、人気のない、神社の脇にある寂しげな道を通らなければならない。 そこは以前痴漢が出没し騒がれた場所だったが、しばらく前までは常に壮介と一緒だったので みのりはさして気にしたことはなかった。 警戒心が皆無だった。 今、みのりを尾行している男がいるなんて、みのり自身夢にも思わなかった。 <・・・あの神社に通りかかったら実行するぞ> 男は、みのりの後ろ姿を見つめ覚悟を決める。 電信柱や建物の陰に身を隠しながら後を追跡してきた。 神社にさしかかり、木の陰に隠れ、肩にかけた鞄からサングラスとマスクを取り出し、装着する そして、手に脅すためのナイフを握る。 するとすっかり怪しげな男に早変わりした。 この男、杉田である。 仕事を依頼されてからずっとみのりに付きまとい、チャンスを狙っていたのだ。 今、ようやく絶好の機会を得ていた。 <辺りに人の気配はない。薄暗いし誰だかもわからないだろう。今しかチャンスはない・・・> ちょっと脅せばいいだけだ・・・そう思っても、杉田の心臓はバクバク爆発しそうに高鳴っていた。 この男は、だらしがないし金使いは荒い、ぐうたらな奴だったが・・・人と争ったり 誰かを傷つけたりするようなことは出来ない性格だった。根っからの悪い奴ではないのだ。 喧嘩も自分からはしたことはない。 ガラの悪い奴に目を付けられやすく、いつもからまれて脅されて金を巻き上げられていた。 「でかい図体のわりに蚤の心臓だな。」・・・と、言われ続けてきた。 <今回は大丈夫だ!きっと上手くいく!> 杉田はそう自分にそう言い聞かせ、木の陰から勢いよく跳び出し、みのりへと駆けて行った。 が・・・。 途中、足を縺れさせてしまい、見事に転倒してしまった。 転び方が悪く、鈍い音と共におでこを思い切り地面にぶつけてしまった。 <痛ってぇ・・・・> 杉田は、うつ伏せに倒れたままあまりの痛みに呻いた後・・・ハッと顔を上げた。 「大丈夫ですか?」 杉田の瞳に、地べたに座り込んで心配そうに自分の顔を覗きこんでいる少女の姿が映る。 |
2002.3.16 ⇒
みのりピンチ?しかしこの話ロリ●ン好みキャラが多いな(笑) |