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「おい、もうちょっと丁寧な運転は出来ないのか!!」
「申し訳ございません。」
権藤は野々村家から帰る途中、運転手に八つ当たりしていた。

後部座席に不機嫌極まりない顔で座っている父親の横で・・・美咲は悲しげに野々村の言葉を
思い出していた。

『だめですよ。僕、とても大好きな人がいるんです。』
美咲の胸がズキンと痛みを感じた。




デートの約束?







<・・・輝義様、好きな方がいらっしゃったんですね>
美咲は、実は輝義のことがとても好きだったのだ。
小さな頃から憧れていた。
緊張して上手く会話のできない美咲に、いつも優しく話しかけてきてくれた存在。

父親に無理やり連れて来られている・・・・それは野々村の激しい勘違いで、美咲はいつも
楽しみにその時を待っていたのだ。


<気持ちを何も伝えられないまま・・・失恋してしまいましたね>
窓に映る夜景が、滲んで見えた。


一方、権藤は忌々しそうに野々村の想い人について考えていた。
<・・・一体どこのどいつなんだ?・・・まあ、ガキの言うことだからさほど気にすることは
ないのかもしれないが・・・不安な火種は今のうちに排除しておいた方がいいな・・・>と、
何やら危険なことに思いを巡らせていた。


<さっそく藤谷に調べさせよう>
藤谷とは権藤の個人秘書だ。何からなにまで、少々危ないこともこの秘書にさせていた。

<何としても可愛い美咲を野々村家へと嫁がせないとな>
権藤はもともと野々村の祖父の部下で、子会社を立ち上げる時にそこを任されたのだ。
野々村家と親族になることはそれなりのメリットがあるだろう。
もちろん、自分の欲のためでもあるのだが、 美咲が野々村のことを好いていることは、感じていた。
恋を成就させてやりたかった。
娘のことが目の中に入れても痛くないくらい可愛いのも事実なのだ。





<ヤベー・・・。遅くなっちゃったなぁ・・・>
みのりは電車を降りて足早に改札を抜けた。
麗奈とのことで家に電話を入れることに気が回らず、気が付いたら
PM8:00を過ぎていた。

<絶対秋兄達、怒ってるーーー>
駅からずっと走ってて、そうとう息切れしていた。

ぜーぜーと、肩で息をしながら、何とか玄関まで辿り着いた。
そして、深呼吸して息を整え・・・・そおっとドアを開ける。

<ひぃ!>

「おかえり。みのり。」
玄関で仁王立ちしながらにこやかに妹を出迎える3人組。
みのりの瞳に、怖いくらい優しく微笑む兄達の姿が映っていた。

学校をサボったこともちゃんと担任から連絡が入っており、夜遅くまでしこたま怒られた。
やっと開放されて、ヘロヘロになって自分の部屋へと辿り着き、ベッドに倒れこむ。

<ちくしょー!つねられたホッペが痛いぜ・・・>
サボりと、夜遅くまで連絡を入れなかったことを怒られ、理由を聞かれたが、麗奈と一緒だったこと以外は
何も言えなかった。
冬樹と春好は更に問い詰めたが、秋人が2人を止めた。

<いつもなら秋兄の尋問が一番厳しいのに・・・>
不思議に思っていた。


それは冬樹、春好も同様で、この時既に秋人の部屋へ押しかけ疑問をぶつけていた。

「兄さん。みのりのこと心配じゃないのかよ。」
冬樹は不満げに秋人を見る。春好も思いっきり頷いて秋人の答えを待った。

「当然心配だ。でも、信じてやろうと思ってな。」
「俺達だって信じてはいるよ。でも、みのりがもし危ないことに巻き込まれていたら・・・。」
春好が不安そうに訴えた。

「さっきのみのりの様子見たろ?何か隠していそうではあったけど、
本間さんと一緒だったってのは本当だろう。学校サボった理由ってのも危ないことでは
なさそうだったし。」
秋人は、多分壮介がらみのことだろうと考えていたので、余裕の笑みを浮かべながら言った。

「う・・・ん。そうだよな・・・。怯えた感じはなかったし・・・。」
弟達も先ほどのみのりの様子を思い出し、納得した。

「俺達が育てたみのりだ。大丈夫だよ。今はいつもより注意して見守るだけにしよう。
危なっかしかったら俺達が何とかしてやれば良いんだし。」

秋人の言葉に、2人とも大人しく頷いた。
「見守り強化指令」が出されただけで、兄弟ミーティングは無事終わった。


次の日。
みのりは覚悟を決めて、朝早くに壮介の家の前で立っていた。

<まず、この前のこと、謝るんだ!>
そして、今日は一緒に学校に行こう・・・そう思って壮介が出てくるのを待っていた。

心臓が、ばくばく激しく鳴っているのを感じ、自分の頬にパンチを入れる。
<しっかりしろ!情けねーー!>
・・・少々パンチに力を込め過ぎたらしく、頬が赤くなっていた。


ガチャ!・・・という音と共に、壮介の家のドアが開いた。

「じゃあ、行ってくるよ。」
壮介の声だ。
みのりは拳をグッと握り、気合を入れる。

数段の階段を下りて、みのりの前に壮介が姿を現した。
「・・・・みのり。」
壮介の瞳に、やたら気迫に満ちたみのりの姿が映った・・・。


しばらくの間、挨拶すら交わさなかったみのりと壮介。
話さなかった時間が長い分だけ
緊張の度合いも大きく、タイミングも計りづらく、やたら力が入る。

混乱の度合いが大きかった。

<あ・・・謝るんだ・・・>
頭ではそう思っていても、実際みのりの口から出た言葉は全然違うものだった。

「壮介!お前に話しがあるんだ!」
まるで、喧嘩でも売るような口調だった。

「話し?」
壮介は困惑気味に聞き返した。

「人にあんなことしといて、その後のお前の態度は一体なんなんだよ!」
「態度って・・・。」
「コソコソ逃げやがって、それでも男かよ!」

この言葉に、壮介もカチンときた。

<人の気も知らないで!>
今までみのりのことを気にし続けて、傍にいられない鬱憤も溜まってて・・・それが爆発した。

「逃げてなんかねーよ!」
「嘘つけ!この意気地なし!」
「お前の方こそ俺から逃げてたんじゃねーのか?」
「冗談じゃねーよ!何で私が逃げなきゃなんねーんだよ!笑わせんな!」

みのりは不敵な笑みを浮かべ、壮介をビシッと指差すポーズを取った。

「壮介!逃げていないって言うんなら、その証拠見せてみろよ!」
「証拠だと?」
「ああ、そうだ。お前が『男』だってこと、私にわからせてみろよ!」
「・・・よーし、わかった!テスト明けの日曜、お前、俺に一日付き合え。」
「いいぜ。望むところだ!」

2人は闘志に燃えた視線をぶつけ合い、まるで決闘の申し込みをするように
デート(?)らしき約束を取り付けた・・・。

そして、みのりは「当日、ビビッて逃げんなよ!」と、憎まれ口を言い残し一人で駅の方へ歩き出す。
かなり早足で歩き、曲がり角を曲がった所でガックリと肩を落とし、フラフラと側の電信柱に
もたれかかる。

「・・・喧嘩売ってどうすんだよ〜。」
<私のバカー!!>
と、心の中で叫んだ。

一方壮介は、その場を動けずに呆然としていた。
「久しぶりに言葉を交わせたのに・・・。」
<何で喧嘩になっちゃうんだ?>
・・・と、眩暈を感じていた。

それでもみのりと壮介は、どんな形にせよ、とりあえずお互い向かい合えるチャンスを手に入れた。
そのことだけに救いを感じていた。

2002.3.11 

さてと。これからですね〜。