「よいっしょっと。」 みのりを優しく抱き上げて、窓際に置かれたベッドへ寝かせる。
小柄とはいえ、その作業には少々力が必要だった。
ふぅ・・・と力を抜いてベッドに腰を下ろす。 そして、少し思いつめたようにみのりを見つめ、呟いた・・・・。
「みのりは誰にも渡さない。」
<・・・何だか・・・頭がぼんやりする・・・・> みのりは、暗闇をさ迷うような感覚を振りきり、必死に目を開けた・・・。 ぼやけた視界が少しずつはっきりしてくる。
<・・・あれ?> 薄暗い部屋。・・・夕日が窓から射し込んでいた。
<確か・・・昼間だったはずなのに・・・> ・・・その後、自分がベッドに寝ていることに、やっと気が付いた。
慌てて身を起こし・・・・辺りを見回す。 寝起きで頭が少しクラクラした。
「・・・麗奈・・・?」 部屋の主がいないことに気が付き、戸惑う。
<うわぁ。私寝ちゃったんだ・・・> 一方的に話すだけ話して、爆睡してしまった自分に呆れた。
のろのろとベッドから降りて、麗奈を探しに部屋を出た。 ドアを開けると居間へと続く。
<あ・・・>
ソファーに座っている麗奈の後ろ姿が目に入った。
「麗奈ー。ごめん。私、寝ちゃったんだね・・・。」
頭をかきながら数歩近づき、足を止める。
みのりの声に気が付き、振り向いた麗奈が・・・泣いていたからだ。
声を立てず、静かに頬を涙で濡らしていた・・・。
「みのり・・・。」
「どうしたんだ?何で泣いてんだ?」
驚いて立ち尽くしているみのりを、麗奈は潤んだ瞳で見つめる・・・・。
「・・・私、みのりのミルクティーに・・・睡眠薬入れたの・・・・。」
「・・・・へ?」
言われていることの意味をすぐには理解できず・・・戸惑う。
麗奈は俯き、目を固く瞑った。
「私はみのりが好きなの・・・・。」
「・・・麗奈・・・・?」
「好きなのよ・・・・。」
消えてしまいそうな小さな声。
麗奈は顔を上げて、みのりを見つめ・・・ゆっくりと立ち上がる。
<麗奈は・・・一体何を言っているんだ・・・?>
現状を把握できず、言葉も出ないみのり。
自分に近づいてくる麗奈を、ぼんやりと見つめていた。
「みのり・・・。」
麗奈がみのりの前に立つ。 ・・・綺麗な瞳に、戸惑いの表情を浮かべているみのりが映る。
麗奈はゆっくりと手を動かし、みのりの唇に指でそっと触れる。
「眠らせて・・・・みのりに触れたかったの・・・。」 「・・・・触れたかった・・・?」 「みのりの唇・・・体・・・・全てに触れたかった。」 「・・・おい・・・。一体・・・何を言ってるんだよ。」
怪訝な面持ちで麗奈を見上げる。 麗奈は辛そうにみのりから目を逸らし、叫ぶ。
「好きなのよ!友達としてじゃなく、好きなのよ!!」 「ちょっと待てよ!私達、友達だろ?女同士だろ?」 「私はみのりを友達だなんて思ったことない!」
麗奈の言葉に、みのりは体を固くする。
「・・・私のこと、変だと思っているでしょ?私自身だって、どうしていいかわからないもの・・・。」
泣きながら微笑む。 ・・・みのりへの気持ちに対し、麗奈は麗奈なりに真剣に考えた。 男を避ける自分自身とみのりとを重ねて、仲間意識を持ち、依存してきただけなのかもしれない・・・ そう思う気持ちも確かにあった。 ・・・でも、壮介を想うみのりの気持ちを知り、別の感情が湧いていた・・・。 『恋』を見つけたみのりが、自分を置いていってしまうんじゃないかという焦りと妬み。 それを感じたと同時に・・・みのりを取られたくないという気持ちも強く感じた。
壮介に嫉妬した・・・・。
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