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ピンクの可愛いリボン。フワフワの可愛い洋服。踊りたくなるような可愛い靴。
小さな頃、みのりも憧れた時期があった。


でも、そんなみのりの気持ちに呪文のように、纏わり付いている言葉がある。

「みのりにはそんなの、似合わないよ。」

幼稚園の頃から言われる続けていた。

・・・・・3人の兄達に。








3人の兄と壮介










「おい、みのり。今日はどうしてた?」
「学校帰り、壮介と麗奈とラーメン食べに行った。」



夕食後、居間でのんびりとテレビを見ていたみのりに話しかけた人物。
会社から帰ってきたばかりで、スーツも着替えないまま、まずみのりの下へやって来る。
みのりの兄、秋人である。同じ質問に、みのりはもう2回答えている。秋人で3回目。

「夕食はどうした?」
「春兄と作って食べた。秋兄の分、ちゃんと、とっといたよ。」
「冬樹は?」
「少し前に帰ってきてご飯食べた。今風呂に入ってるよ。」

みのりには年の離れた兄が3人いる。
長男 秋人 26歳  次男 冬樹 24歳 三男 春好 23歳
全員、既に立派な社会人で、それなりに名の知れた一流企業に勤めるサラリーマンだ。

会社から帰ると、この3人の兄達は、まずみのりに話しかける。


この兄達は・・・妹を溺愛していた。
・・・ただちょっと、普通とは、ちと違う愛し方だった・・・・・・。


みのりが生まれた時。3人の兄達は誓ったのだ。この可愛い妹を守ろうと。
そして、その笑顔があんまりにも可愛いと感じた時・・・3人の兄達は話し合った。



「みのり、かわいいよね。」
うっとりとして春好が言った。(当時9歳)
「うん。可愛い。・・・これじゃあ悪い男の人とかに目を付けられちゃうかも・・・。」
ちょっと不安そうに冬樹が言った。(当時11歳)
「・・・何とかしなきゃ、ダメだよな・・・・。」
難しい顔をして、考え込むように秋人が呟いた・・・・。(当時13歳)

そして・・・秋人がある提案をした。

「みのりの可愛さを、隠してしまえばいいんだ。」

みのりを囲んでの兄弟の話し合い。
当時3歳だったみのりは、わけもわからずニコニコ聞いていた。

水野家の両親は共働きで、帰りは夜遅い。みのりの世話は全てこの3人の兄達がしていた。
食事も遊びに行くのも、全て兄達と一緒だった。


兄達は、みのりを徹底的に男の子のように扱った。
みのりがちょっとでも女の子らしい服や髪飾り、アクセサリーに興味を持つと
「そんなのみのりに似合わない!」・・・と、言って取り上げた。

みのりの『可愛さ』を隠すためだった・・・。

そんな事情もあって、みのりは髪型も服も言葉使いも遊びの内容も男の子そのものだった。

・・・だからバレンタインデーの時、みのりのことをよく知らなかった初恋の相手が
男の子に間違えたのも無理はなかったのだ・・・・。

みのりのことを必要以上に見守っていた兄達。
しかし、いくら兄だって学校でのことまでは目が届かない。


そこで目をつけたのが、壮介。

隣に住んでいて、みのりと同い年だった壮介。
水野家兄妹にくっついて、よく遊んでいた。

3人の兄達は、幼かった壮介に繰り返し言い聞かせた。

「いいか、壮介。みのりに何か悪いことをする奴がいたら、お前が命がけで守れ!
みのりに言い寄る男がいたらお前が追い払うんだぞ!」
・・・・当時幼稚園生だった壮介には、ほとんど意味がわからない内容だったが
「ボクがみのりを守んなきゃいけない!」・・・と、いうことだけはわかった。

この頃の壮介にとって、みのりの兄達は憧れでもあり絶対的な存在であった。
その兄達の言葉は壮介にとって、とてもとても重いものだった。

だから、いつもみのりの傍にいた。

・・・・でも、今では傍にいる理由が変わっていた。

いくら兄達がみのりを男の子っぽく育てたと言っても、女の子としての心までは止められなかった。

『好きな子がいるんだ。』
みのりは初恋の相手にチョコレートをあげたいって、赤くなりながら壮介にだけ打ち明けた。
その時、壮介は初めて自分の気持ちに気が付いたのだ・・・・。

3人の兄達は、みのりの男友達には過敏に反応するが、壮介に関してはノーマークだった。
兄から見たみのりと壮介は兄妹みたいなもので・・・・第一みのりが壮介を『男』として見ることなど
ありえないと思っていたからだ・・・。


<・・・俺にとっては、とても都合の良い状況を作り出してくれたよな>
今、壮介はみのりの兄達に感謝してる。

みのりは、あの初恋以降、誰かを好きになったりはしていない。
・・・・仮に好きになりかけていたとしても、その気持ちから目を背けていたに違いない。
『女の子』になって、また傷つくのが怖いのだ・・・。

そんなみのりの気持ちを、壮介はわかっていた。



みのりは、自分が男の子から好かれることがあるなどとは、思ったことがない。
でも実際は・・・・結構人気があったのだ。
そのことに本人が気が付かなかったのは、鈍感なせいもあるが
壮介が、みのりに好意を寄せる男達を寄せ付けなかったせいでもある。


<俺がみのりを『女』にしてやるんだ。ゆっくりとね>

・・・壮介はみのりのことが、好きなのだ。

2002.2.8 

・・・何だか幸せの星の女の子バージョンぽくなりそう?