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<私にとっての壮介は・・・>
野々村に言われた言葉が頭から離れず、その日中みのりは考え続けた。
日も暮れ、すっかり暗くなった自分の部屋で、床に寝転びながら天井を見上げ・・・壮介を想う。
頭に浮かぶのは小さな頃から一緒に遊び、いつもみのりの味方をしてくれた幼馴染の姿。

要領の悪いみのりに、勉強も教えてくれた。

「・・・いつもならこの時期、一緒に勉強してんのにな・・・。」
季節は夏を迎えようとしていた。期末テストももうすぐなのだ。


<・・・島本さん・・・壮介にやたら話しかけているよな・・・>
彩はこのところ壮介に積極的に接近していた。
彼女の明るさにつられるように笑顔を見せる壮介。
そんな姿を見るのが辛い・・・。

ゴロリと体を横にし、丸くなる・・・。

<好きかどうかなんて・・・恋だの愛だのなんてわかんないけど・・・でも・・・>

「・・・・今のままじゃ嫌だ・・・・。」
ボソッと呟く・・・。


<仲直りしなきゃな・・・>
その方法もわからないまま・・・でも、とにかく話をしなければと思った。




すれ違う気持ち






次の日、一緒に登校しようと思って、もっと時間を早めて家を出たみのりだったが・・・。

「おはよう、みのりちゃん。」
壮介の家の前で待っていたみのりに、犬を連れた近所のお爺さんが話しかけてきた。
「おはようございます。おはようゴン太。」
みのりはペコリと頭を下げた後、しゃがんで、擦り寄ってくるポメラニアンの頭を撫でた。

「そうそう、さっき壮介君にも会ったよ。」
「え!!」
「駅に向かって歩いとったよ。」

壮介は既に家を出た後だった。

<失敗したな・・・>
心の中で舌打ちして急いで学校に向かった。

最近より更に早い登校時間だったので校門に麗奈の姿はなく、教室まで直行できた。

<この時間なら、誰も登校してきてないだろ・・・>
もしかしたら通学途中より落ち着いて話が出来るかも・・・と期待し、教室のドアを開けようとした時・・・。

<・・・・え?>
みのりの手が、固まったように止まる・・・。

ドアのガラス窓から教室の様子が見えた。
みのりの瞳に映ったのは、壮介の後ろ姿と、向かい合うように立っていた島本彩の姿だった。

校内は静かだったため、自然に教室からの声が廊下まで流れてくる。
みのりは中の様子から目を離せず、同時に声も拾ってしまっていた・・・・。


壮介は教室に入って、席に着く暇もなく、鞄を持ったまま立ち尽くしていた。
誰もいないと思っていた教室に彩がいて、驚いていたのだ。
一方、彩は俯き加減で頬を赤らめ立っていた。

しばらくの間、黙り込んだままの彩だったが、意を決したように顔を上げた。

「・・・最近いつも七瀬君早いから・・・ごめんね。待ち伏せみたいなことして。」

壮介は戸惑い気味に首を傾げた。

彩は自分の胸の辺りで、右手を左手で包み込むようにキュッと握り、目を瞑る。
そして、一気に言葉を続けた。

「私、七瀬君が好きだったの。ずっとずっと好きだったの。」

<・・・・え・・・?>
その言葉を聞いたみのりは体を固くした・・・・。

壮介も、どう答えて良いのかわからず・・・黙ったまま彩を見ていた。

<俺のことが好き・・・・・?>
そんなことを言われても・・・いまいちピンと来なかった。
これがみのりからの言葉だったら話は別なのだろうが・・・。

何も言わない壮介に、彩はちょっと切なげな視線を送り小さな声で囁いた。
「・・・私・・・本気よ・・・・。」

彩は数歩前に出て・・・背伸びをした。


その光景は、この時点でみのりからは、2人がキスしたように見えていた。
後姿しか見えないので、壮介がどんな表情をしているのかなんてわからなかった。
でも、目を閉じ、自分から口付けした彩の表情は、壮介の肩越しに一瞬だけ見えてしまい・・・・
とても綺麗で可愛いと感じた。
胸が痛み、切なくて、みのりはその場から逃げ出した。

みのりが、キスしたと信じこんだシーン。
・・・でも、実際は・・・・。
唇が触れる直前、壮介は後退り、彩から目を背けた。
彩はショックを受けたようで、今にも泣きそうに瞳を潤ませた。
彩にとってこの行動は、本人も驚くほど積極的なもので・・・でもそれを拒絶された時
恥ずかしさが波のように押し寄せた。


「・・・七瀬君。」
「ごめん。俺、好きな奴がいるんだ・・・。」
「・・・・水野さん・・・・?」

壮介は俯い後、小さく頷いた。

「・・・そう・・・・やっぱり・・・そうだよね。」
みのりと壮介が一緒にいなくなったことで、思い切って告白した。

<もしかしたら私のこと見てくれるって・・・期待したんだけどな・・・>
彩はため息混じりに心の中で呟いた。
そして、気を取り直したように顔を上げ、笑った。

「あーあ。振られちゃったー。早起きまでしたのになぁ。」
その声の後半部分は震えていた。

「驚かせてごめんね、七瀬君。・・・ちょっと外の空気吸ってこようっと・・・。」
彩は自分の泣き顔を見せまいと、急いで教室から出て行った。

ポツンと一人残された教室で、壮介は小さなため息をついた・・・・・。

気持ちというのは、なかなか上手くいかないものである。

2002.3.3 

・・・これって少女漫画チック?少年漫画チック?どっちだろう〜。