次の日、一緒に登校しようと思って、もっと時間を早めて家を出たみのりだったが・・・。
「おはよう、みのりちゃん。」
壮介の家の前で待っていたみのりに、犬を連れた近所のお爺さんが話しかけてきた。
「おはようございます。おはようゴン太。」
みのりはペコリと頭を下げた後、しゃがんで、擦り寄ってくるポメラニアンの頭を撫でた。
「そうそう、さっき壮介君にも会ったよ。」
「え!!」
「駅に向かって歩いとったよ。」
壮介は既に家を出た後だった。
<失敗したな・・・> 心の中で舌打ちして急いで学校に向かった。
最近より更に早い登校時間だったので校門に麗奈の姿はなく、教室まで直行できた。
<この時間なら、誰も登校してきてないだろ・・・> もしかしたら通学途中より落ち着いて話が出来るかも・・・と期待し、教室のドアを開けようとした時・・・。
<・・・・え?> みのりの手が、固まったように止まる・・・。
ドアのガラス窓から教室の様子が見えた。
みのりの瞳に映ったのは、壮介の後ろ姿と、向かい合うように立っていた島本彩の姿だった。
校内は静かだったため、自然に教室からの声が廊下まで流れてくる。 みのりは中の様子から目を離せず、同時に声も拾ってしまっていた・・・・。
壮介は教室に入って、席に着く暇もなく、鞄を持ったまま立ち尽くしていた。 誰もいないと思っていた教室に彩がいて、驚いていたのだ。 一方、彩は俯き加減で頬を赤らめ立っていた。
しばらくの間、黙り込んだままの彩だったが、意を決したように顔を上げた。
「・・・最近いつも七瀬君早いから・・・ごめんね。待ち伏せみたいなことして。」
壮介は戸惑い気味に首を傾げた。
彩は自分の胸の辺りで、右手を左手で包み込むようにキュッと握り、目を瞑る。 そして、一気に言葉を続けた。
「私、七瀬君が好きだったの。ずっとずっと好きだったの。」
<・・・・え・・・?>
その言葉を聞いたみのりは体を固くした・・・・。
壮介も、どう答えて良いのかわからず・・・黙ったまま彩を見ていた。
<俺のことが好き・・・・・?>
そんなことを言われても・・・いまいちピンと来なかった。
これがみのりからの言葉だったら話は別なのだろうが・・・。
何も言わない壮介に、彩はちょっと切なげな視線を送り小さな声で囁いた。 「・・・私・・・本気よ・・・・。」
彩は数歩前に出て・・・背伸びをした。
その光景は、この時点でみのりからは、2人がキスしたように見えていた。
後姿しか見えないので、壮介がどんな表情をしているのかなんてわからなかった。
でも、目を閉じ、自分から口付けした彩の表情は、壮介の肩越しに一瞬だけ見えてしまい・・・・ とても綺麗で可愛いと感じた。 胸が痛み、切なくて、みのりはその場から逃げ出した。
みのりが、キスしたと信じこんだシーン。 ・・・でも、実際は・・・・。 唇が触れる直前、壮介は後退り、彩から目を背けた。 彩はショックを受けたようで、今にも泣きそうに瞳を潤ませた。 彩にとってこの行動は、本人も驚くほど積極的なもので・・・でもそれを拒絶された時 恥ずかしさが波のように押し寄せた。
「・・・七瀬君。」 「ごめん。俺、好きな奴がいるんだ・・・。」 「・・・・水野さん・・・・?」
壮介は俯い後、小さく頷いた。
「・・・そう・・・・やっぱり・・・そうだよね。」 みのりと壮介が一緒にいなくなったことで、思い切って告白した。
<もしかしたら私のこと見てくれるって・・・期待したんだけどな・・・>
彩はため息混じりに心の中で呟いた。 そして、気を取り直したように顔を上げ、笑った。
「あーあ。振られちゃったー。早起きまでしたのになぁ。」 その声の後半部分は震えていた。
「驚かせてごめんね、七瀬君。・・・ちょっと外の空気吸ってこようっと・・・。」 彩は自分の泣き顔を見せまいと、急いで教室から出て行った。
ポツンと一人残された教室で、壮介は小さなため息をついた・・・・・。
気持ちというのは、なかなか上手くいかないものである。
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