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壮介の心が路頭に迷っている時、みのりの心はその場から一歩も動けずにいた。

今まで目を背け続けてきた感情に捕まってしまうのが怖かった。

・・・・・・自分の本当の気持ちを霧の中へと覆い隠していた。






みのりの気持ちA





3人ともしばらく無言だったが、麗奈が気を取り直したように話を元に戻した。
「みのり。七瀬君と何があったのよ。何もないだなんて、嘘でしょ。」
「嘘なんかじゃないよ。しつこいな。」
みのりはちょっとうんざりした様子だ。

「みのりにとって、七瀬壮介君は、一体どういう存在なのですか?」
野々村がやんわりと尋ねた。

「・・・そういえば何であんた、七瀬君のこと知ってんのよ・・・。しかもフルネームで。」
麗奈がまたまた面白くなさそうに野々村を睨んだ。・・・まあ、聞かなくても想像はつくが・・・。

「すみません。調べました・・・。幼馴染だってことも知ってますし、他にも色々と・・・。」
今度は怒られる前から、反省していますって態度で答えた・・・。
・・・麗奈はため息をついた・・・。

みのりはそんな2人のやり取りも耳に入らず、、先ほどの野々村の言葉に触発されたように
考え込んでいた。
<私にとっての壮介の存在・・・?>
いつも一緒だった。気も合うし、一緒にいて楽しかったし安らげた。

<兄妹みたいなもんだ・・・よな・・・・>
そんな言葉を思い浮かべてみたが・・・今となっては違和感があった。

壮介が傍にいなくなってから、気が付いたことがいっぱいある。
満員電車で何度も潰されそうになった。
ふっと何か話したい時、横に誰もいないことに寂しさを感じた。
・・・・今までは気にしなかった壮介の行動や言動・・・そして表情がとても
気になりだした・・・・。



みのりはここまで考えて行き詰まり、胸の痛みと不安が過ぎる。
<壮介と私、ずっとこのままなんだろうか・・・>

「みのり?」
野々村は、少しだけ首を傾げ、黙り込んでしまったみのりを覗き込むように声をかけた。

みのりはハッとして、動揺を誤魔化すように勢い良く席を立った。

「何でお前らに問い詰められなきゃなんねーんだよ!帰る!」

そう言って早足で店を出て行ってしまった。

「みのり!」
麗奈は慌てて追おうとするが、野々村に手首を掴まれ止められた。

「何すんのよ!」
キっと睨んで抗議の声を上げる。

「ちょっとご相談が・・・。」
野々村はそう言って、すぐに手を放した。

「何よ。相談って。」
「・・・座って話しませんか?みのりのことです。」

<何で私がこいつなんかと・・・>

・・・と、思ったものの、野々村の真剣な眼差しに負けて大人しく席に戻る。
みのりが座っていた席を間に、距離はあるが一応隣同士に座る。

麗奈は不機嫌そうに睨んだ。
「・・・みのりのこと、呼び捨てにするのやめなさいよ。」
「みのりは許してくれましたよ。」
野々村は悪びれることなくニコニコ笑顔で答える。
麗奈は忌々しそうに視線を外し、目を瞑る。

「で?相談って何よ。」
「・・・みのりは・・・もしかしたら七瀬壮介君のことが好きなのではないかと思うのです。」
「まさか!そんなことあるわけない。」
野々村の言葉に、麗奈はすぐに否定したが・・・・心の中ではそんなことも考えていた。

<冗談じゃないわよ!>
みのりに対する壮介の気持は麗奈もわかっていた。だから警戒していたし邪魔な存在だなとも思っていた。
でも、みのり本人は壮介に対し、ただの仲の良い幼馴染、兄妹のように
接していたのであまり心配はしていなかったのだ。


「みのりの元気がなくなったのって、彼と一緒にいなくなってからですよね。」
「そうだけど・・・でも、ただの喧嘩かもしれないでしょ。」
「・・・そうではないような気がするんです・・・。今みのりは彼を意識している。
だからみのりに僕達が色々聞いたら、きっと混乱し、追い詰め、素直な答えを
出せなくなってしまうと思うんです。」
野々村は腕組をして、俯きながら言った。

「何であんたにそんなことわかるのよ。」
「僕が彼女に告白した時の様子を思うと・・・何となくそう感じるんです。」

麗奈は目を見開いた。

「あんた、みのりに告白したの?・・・本気でみのりが好きなの?」
「ええ。素直に気持ちを伝えましたよ。・・・答えはまだもらっていませんがね。」
にこやかに答える野々村を刺すように睨み、麗奈はゆっくりと席を立った。

「・・・帰るわ。」
「みのりのことは、しばらく見守るってことにしませんか?」
「あんたはそうすれば?私は私のやり方でみのりの傍にいるから。」

そう言い残し、出口へ歩いて行こうとした麗奈の後姿に、野々村はもう一度声をかける。

「友達なら、みのりの力になってあげて下さい。」

その言葉に、麗奈は足を止めた。
<・・・友達・・・・?>
すぐに振り返り、挑戦的な瞳を向けた。

「私はみのりの友達でいる気はないわ。」
「え?」
「・・・友達のままの関係なんて・・・絶対いや。」
ぽつりと呟いて踵を返し、そのまま店を出て行った。
残された野々村は、すぐには麗奈の言葉の意味がわからず・・・・しばらく考えた後
ようやく気が付いた・・・。

<彼女もみのりことを・・・?>

女の子が女の子に恋をする。そのことに驚いてはいたが・・・・
<まあ、愛に区別なんかないし、みのりは老若男女、だれからも愛される存在だってことですね>
・・・と、すぐに順応し、納得する野々村であった・・・・。

2002.3.1 

野々村君一生懸命。