あれから1週間が経ち・・・
みのりの傍を離れた壮介は、はたから見れば驚くほど変わった。
今までの方がどこか無理をしていたのかもしれない。
本来の姿に戻った壮介の笑顔は、柔らかな空気を作り出す。
・・・これまでは、時々しか見せてくれないながらも、壮介の笑顔はみのり専用のものだった。
今見せている壮介の笑顔は、無意識の、あまり気持ちのこもっていないものだった。
相変わらず心は路頭に迷ったままで、みのりを気にしながらも、避けていた。
そのことに神経が集中してて、自分の振る舞いまでにはかまっていられない・・・と言うのが本音。
だから、自然に無理のない自分に戻ったようだ。
この1週間みのりと壮介は一言も言葉を交わしていない。
周囲のみんなは、今までとの極端な変わりように首を傾げたが
麗奈以外はあえて首を突っ込もうとしなかった。
「・・・みのり・・・七瀬君と一体何があったの?」
学校帰り、麗奈はみのりを引きずるように連れて行き、ファーストフードのお店に入った。
外を眺められるカウンター席に座り、みのりを問い詰める。
<今日こそは白状させるわよ>
お互いを避け合う2人。
麗奈としてはみのりと2人きりになれるのは嬉しいが・・・みのりが日に日に気落ちしていくのが
気になるのだ。
みのりはオレンジジュースをゴクゴク飲んだ後、ため息をついた。
「・・・何もないよ。ただ今までベタベタし過ぎたんだ。」
あくまでしらを切り通す。
<嘘ついてる!>・・・と、麗奈が思った瞬間、同じ台詞が背後から聞こえた。
「それは嘘ですね。」
みのりと麗奈は驚き、同時に振り返る。
「みのり。ごきげんよう。」
にこやかに微笑む野々村が立っていた。
「あ・・・・。」
みのりは、この時初めて野々村とのことをすっかり忘れていたことに気が付いた。
「ちょっと、あんた!まさか、みのりのこと付けてたの?・・・まるでストーカーね。最低!」
麗奈は席を立ち、みのりとの間を遮るように野々村の前に立ちはだかる。
「ストーカーだなんて・・・・このところみのりの様子がおかしいから
ずっと行動を見守っていただけなのですが・・・。」
首を軽く傾げながら、困惑した顔の野々村。
「・・・ずっと行動をって・・・そういうのをストーカーって言うんじゃないのか?」
みのりはため息混じりに抗議した。
「ええええ?そ・・・そうなんですかー?!」
目をまんまるくして驚き、その後、慌ててシュンとうな垂れて詫びた。
「ごめんなさい。そんなつもりではなくて・・・本当に心配で・・・。」
100%悪意のない野々村の様子に、みのりは<困ったな>と思いつつも笑ってしまった。
「冗談だよ。気にすんな。」
「みのり!こういう奴は優しくすると付け上がるわよ!いきなり抱きついたりする男なのよ!」
麗奈は猛然と反発する。
「そういえば、そうだよな。」
みのりはわざと疑わしそうな目で野々村を見つめる。
野々村はきょとんとして、ポツリと言葉を漏らした。
「・・・・大好きだから、やっぱり抱きしめたいし、触れたいと思うし・・・。」
それを聞いた麗奈、呆れるのと同時に怒りをあらわにした。
「当たり前のように言わないでよ!あんたがしたことは痴漢行為よ!!」
「え!!」
ここでも野々村はショックを受けたようにヨロメいた・・・。
そして、たった今、自分がなにをしたのかを自覚したようだ・・・。
「考えてみれば・・・そ・・・そうですよね・・・。すみません・・・。僕、子供の頃から手先が器用で
つい色々と触ってしまいました・・・・。」
麗奈は思わず野々村の首を絞めて叫んだ。
「抱きしめただけじゃなかったのね?!みのりに何てことするのよ!!」
「す・・・すみません〜。ほ・・・本当にごめんな・・さい〜。」
苦しそうに詫びを言う。
そんな2人を、みのりは力ない声で仲裁した。
「・・・もういいよ。周りのお客さんにも迷惑だろ。やめろよ麗奈。」
「・・・みのり・・・。」
<ちっ!仕方ないわね・・・>
どこか納得出来ないとは思いながらも麗奈は大人しく席についた。
・・・・正直言って、みのりの頭の中は、壮介の問題だけで手一杯だったのだ。
だから野々村を目の前にしても、酷く落ち着いていられた。
野々村の気持ちに対して答えを出さなければいけないとか・・・そんなことにすら気が回っていなかった。
「・・・・みのり、隣に座って良いですか?」
野々村はきちんと反省もしたらしく、ちゃんと許可を得てから隣へ座った。
<みのりは一生懸命何かを考えていますね・・・・・・>
・・・それは自分のことではない・・・野々村はそのことをちゃんと感じていた。
本当は告白した次の日から、ずっとみのりの返事を待っていたのだ。
待ちきれず何度も自分の方から聞こうと思ってみのりの教室に足を運んでいたのだ。
・・・でも、みのりの様子が変なことにすぐに気が付き・・・自分の気持ちはひとまず脇へ置いておいて
ずっと見守っていたのだ。
<考えてみたら、すぐに答えをもらう方が僕にとっては不利ですしね>
自分のことをよく知ってもらえるまで待とう思った。
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