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みのりと壮介のキス事件があった次の日の朝・・・。

「・・・みのりの様子、昨晩からおかしいよね・・・。昨日は大好物のカレーだったのに
おかわりしなかった。」
春好が心配そうに言った。

「おかしいのは昨日からじゃないよ。俺達が誕生日の花束を毎年用意しているの知ってるのに
薔薇の花束なんか持って帰ってきた。自分で買ったって言い張っていたけど、そんなこと
今までなかったじゃないか。」
冬樹は腕組をして、ちょっとイラついた声を出した。

「・・・・・・・何とか事情が知りたいな・・・。」
ボソッと、秋人が呟いた・・・。

みのりがまだ目を覚ます前、秋人の部屋に集まり早朝ミーティングが開かれた・・・。

・・・こんなんで大丈夫か?水野家3兄弟・・・・・と、突っ込みを入れたくなるほどの妹ラブな奴らだった・・・。



壮介の純情B




「みのり!おはよう!昨日は寂しい思いさせてごめんね!」
風邪を全快させた麗奈。元気良く昨日の分も含めた愛の抱擁をする。
ギュッと抱きしめられたみのり・・・いつもなら抗議の言葉が出るのに、今日は大人しい。

麗奈はすぐにみのりの異変に気が付いた。
まず、いつもより少し早めの登校。
次にいつも影のように付いていた壮介の姿がないこと。
そして何よりも、みのりが心ここにあらずといった雰囲気で、ボーっとしていること。
・・・この3つの異変。

「みのり、どうしたの?」
みのりの肩を揺らし、問いかける。

「え・・・?あ、おはよう。麗奈・・・。風邪は大丈夫か?」
「うん。それより、どうしたの?ボーっとして、それに・・・七瀬君は?」
「知らないよ!あんな奴・・・。」
みのりは、胸に痛みを感じながらも、そんな言い方をしてしまった。

麗奈は首を傾げながら<喧嘩でもしたのかしら?珍しい・・・>と思い、
本来なら邪魔な壮介がみのりの傍にいないことを喜ぶのだが・・・・
みのりの元気のなさが気になり、そんな気分にはなれなかった。

みのりは昨晩、ベッドで寝転びながらひたすら壮介の言葉を考え続けたが
<私のことが好き?冗談だろ?どうしてなんだよ!どうすりゃ良いんだよ!>
・・・と、こんな言葉だけがグルグル頭を回り続け、唇に残った初めての感触を思い出す度、
戸惑いと恥ずかしさで体が熱くなり頭はパンク寸前・・・・。
結局何の結論も出せないまま朝を迎えた。

みのり自身は気付いていなかったが・・・野々村のことは頭からすっ飛んでいた・・・・。
それくらい壮介とのことが衝撃的だった。

教室へ入ると、みのりの視界に壮介が映る。
ドキッとした。

<・・・私より、先に来てたんだ・・・・>
そして感じる・・・心の痛みと不満。
自分だって壮介に黙って時間をずらして一人で来たくせに、自分が壮介に避けられたことに
胸の痛みを感じたのだ。・・・・とても自分勝手だなと思った。

窓際の一番後ろの席で、視線を外の風景に移した壮介。
ぼんやりと景色を眺めているように見えるが実際心の中は別のことで支配されていた・・・。
みのりが教室に入ってきた時、視界の隅に映り胸がチクンと痛んだ・・・でも、見ようとせず
みのりに対する全ての感情から目を背けた。

「七瀬君。何ぼんやりしてるの?」
クスクス笑いながら話しかけてくる、可愛らしい声が身近に聞こえた。

視線を真横に移すと、自分を軽く覗き込むように首を傾げる少女の視線とぶつかった。

同じクラスメートの島本彩。美人と言うより可愛いと言う言葉の方が似合う少女。
明るくて爽やかでおまけに可愛い彼女は、麗奈に負けないくらい男子生徒からの人気があった。
・・・と、言っても、これまでの壮介にとっては眼中にないことだったし、接点は皆無だった。

「俺がぼんやりしていると変・・・?」
少し苦笑いしながら聞いた。
「ううん。でも、珍しい光景だなって思って。」
「珍しい?」
「いつも無表情でちょっと近寄りがたいって感じだったから。」
「近寄りがたい?」
「悪い言い方すると、無愛想に見えたから。」

壮介は・・・いつも少しだけ不機嫌そうに見える秋人のことを思い出し、可笑しくなる。
<バカだよな、俺って>
クスクス笑った。気持ちのこもらない、渇いた笑いだったが・・・それに気が付いた人間は誰もいなかった。

ただ珍しく壮介が笑っていることに、彩は驚きと嬉しさを感じていた。

彩は、いつも壮介を見ていた。
今まで話をしなかったのは、壮介がみのりの傍にずっといたからだ。
話をしなかった・・・というのは、少し語弊がある。
彩からは壮介が一人でいる時を狙って
話しかけていたのだが、壮介の方が右から左状態で、気持ち的に
一方通行な言葉で終わってしまっていたのだ。
それが今日は朝からみのりとは別行動で、しかも話しかけたら、ちゃんと自分の方へ
気持ちを向けて言葉を返してくれた。そのことが彩はとても嬉しかった。




一方みのりは、壮介とは少し離れた自分の席に座って麗奈と話をしていたものの、
壮介のことが気になっていた。

そして、彩と会話をしている壮介が笑顔でいるのを見てとても動揺した・・・。
何でそんなに動揺するのか自分でもわからないまま・・・・心が痛くなる・・・・・。

「みのり?どうしたの?」
傍で立っていた麗奈、自分の話に相槌をうってはいるものの、どこか上の空のみのりを気遣う。

「え?何でもないよ。」
「・・・なら良いけど・・・。」
麗奈はそう言いつつも、みのりの様子が変なのは全て壮介が原因なのだろうと感じていた。

<みのりに一体何したのよ、七瀬のバカは>
顔には出さず、イラつきながら心の中で文句を言う。
そして、何も話してくれないみのりに対し、不安を感じる・・・・。


<みのりは私には何も話してくれない・・・>
それはとても寂しさを感じさせ、少々怒りの感情さえ湧いてくる・・・。
しかし、この感情もまた自分勝手なもので・・・麗奈だって自分の一番弱い部分・・・・過去のこととかは
みのりには話していないのだ。
こうしてみんな・・・相手への要求ばかりが強くなる。

2002.2.26 

だんだん感情が入り乱れてきたな・・・。