「痛ってえ・・・。」 「壮介、大丈夫か。」 顔に青アザを作っている壮介を心配そうに覗き込むみのり。 「平気だよ。これくらい。」 涙一つ見せず、壮介は余裕の笑みを見せる。 ・・・・本当は痛くて痛くてたまらなかった。 でも、強い自分になりたかった。 みのりに強い男と思われたかった。 壮介の子供の頃の話である・・・。 |
壮介の純情A |
子供の頃、喧嘩っ早いみのりは、売られた喧嘩を全て買っていた。 自分から喧嘩を売ることもあった。 小さな体で力も強くないのに気の強さだけは人一倍。 正義感の強さがそうさせていたのだが・・・その度に壮介はボロボロになった・・・。 みのりに怪我させないために喧嘩になると必ずみのりを庇いながら参戦した。 ・・・・が、みのりだけではなく壮介も小柄で、はっきり言って喧嘩は弱かった。 それでも何とか自分に矛先を向けさせ、みのりにはなるべく怪我をさせないように必死だった。 成長するにつれ、相変わらず体格は良いとは言えなかったが知恵が働くようになり 怪我することもなくなってきた。 卑怯と言われても、みのりを守るためならどんな方法でも使った。 「秋兄カッコイイよな!」 中学生の頃の、みのりの口癖。 みのりは兄達が大好きで、特に長男の秋人はみのりの自慢だった。 惚れぼれするほどの整った顔立ち。寡黙で文武両道。いつもポーカーフェイスで動じない男。 ・・・・壮介にとっても幼い頃からの憧れだった。 みのりの『秋兄カッコイイ』発言を聞いてから、壮介はあまり笑わなくなった。 成長する過程で、こうした様々な出来事があり、本来表情豊かな人懐こい子供だった壮介は、 中学を卒業する頃にはすっかり秋人2号になっていた。 『みのりを守れ。』『秋兄カッコイイ。』 ・・・この2つの言葉が纏わり続け、みのりのボディガード役も勉強もスポーツも・・・とにかく頑張った。 みのりの初恋の相手にも、秋人にも、勝ちたかったのだ・・・。 壮介のこれまでの人生は水野家兄妹の唱えた呪文にかかり翻弄させられた。 もちろん壮介が自ら選んだ道でもあったわけだが、辛く険しい道だった・・・・。 それが先ほどの、みのりからの『壮介には関係ない。』・・・という言葉で今までの想いが溢れ出し、 とどめの『男としては見れるわけない』・・・という気持ちを知ってプツンと張り詰めていた 糸が切れた。 <・・・今まで何年も待ち続けたのに、何でたった一言に耐え切れなかったんだよ・・・> 壮介は自分のことを責めた。 今までみのりを見守り続け、涙を流させないようにしてきた。 それなのに、壮介自身がみのりを泣かせてしまった。 壮介は自分の部屋に重い足取りで辿り着き、パタンと戸を閉めた・・・。 その音と同時に・・・心の扉も閉める。 今まで自分の気持ちを伝えなかったのは、男として見てもらえるまで我慢しようと思っていたからだ。 だから自分の気持ちを閉じ込めていた。 でも今回は違う。 壮介自身、みのりに対し、どうしていいのかわからなくなってしまったのだ。 みのりを一途に思い続け懸命に頑張って来た自分を真っ向から否定され、目標も自信も失い <このままの自分じゃダメなんだ・・・>という気持ちが壮介を追い詰める。 <俺はどうしたらいいんだよ・・・> 答えがわからない壮介には・・・今は自分の気持ちを封じ込めるしか思いつかなかった。 同時に、壮介を束縛していた呪文が解け、みのりのことが好きだという気持ちだけが残った。 その気持ちも、心の奥底に沈めていく・・・・。 朝、みのりと壮介はいつも同じ時間になると自然にお互い家から出てきて、一緒に学校へ行っていた。 でも、この出来事の次の日、みのりはいつもより早く家を出て、一人で学校へ向かう。 そして、壮介はそれ以上に早く家を出ていて、既に電車の中にいた。 窓の外に目をやり、流れていく街の風景をぼんやりと眺めていた。 この日を境に、壮介はみのりの傍にいることをやめた・・・・。 |
2002.2.25 ⇒
ううむぅ・・。暗い展開だ・・・。 |