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その場でじっとしているのが一番落ち着けた。

何も変わらず、自分の気持ちを隠して生きていけば怖くない。

そうやって生きてきたのに、周りの人間がそれを許してくれない状況に
みのりを追い込んでゆく・・・・。








初めてのキス









家に着いた時にはPM7時を過ぎていた。

遠目から見ても家の明かりは点いていなくて、少しホッとした。
<兄さん達にまたあれこれ聞かれんのヤだからな>

みのりが門を開け玄関の前に立った時、後ろから声をかけられた。
ビックリして振り返ると、見慣れた顔が目に入りホッと肩の力を抜いた。
壮介だった。
学校から帰ってきて、ずっとみのりを待っていた壮介。
門を開ける音を聞いて家から飛んで出てきたのだ。


「何だ、壮介かぁ。驚かせんなよな〜!」
みのりの言葉を聞いて、壮介は珍しく少しムッとした顔で尋ねた。

「野暮用って何だったんだよ。」
「何って・・・か・・・買いたい物があったんだよ。」
ぎこちない笑顔を作り頭をかいた。

「買いたい物って何だったんだよ。」
しつこく聞いてくる壮介に、みのりは妙な罪悪感と苛立ちを感じた。

「黙って帰ったのは悪かったよ。でもいちいち行動をお前に報告しなきゃいけない義務はねーだろ!」
そう言い放ち、壮介から目を背けポケットから鍵を取り出し、玄関を開けた。


靴を脱いで台所へ向かい、電気を点けて冷蔵庫からオレンジジュースのペットボトルを取り出した。
壮介も後から付いてきて部屋の出入り口で突っ立っていた。


「まだ何か用かよ・・・。」
ジュースを一口飲んで、ため息を付いた。

「・・・野々村って奴の車に乗って行ったんだろ?」

壮介の言葉に、みのりはドキッとして、体を固くした。

壮介はため息をついた。
<やっぱり・・・・そうだったんだ・・・>
校門周辺にいた生徒にみのりのことを聞いたら、
たまたま野々村の車に乗り込む所を見た奴がいたのだ。

「・・・知ってんなら聞くなよ。」
みのりは自分でもわけがわからないイライラが募り、乱暴に言葉を吐く。

野々村のことで混乱しているのに、そのことで壮介に突っ込まれたくなかった・・・。
それに、誰にも知られたくはなかったのだ。

それほど、野々村の言葉はみのりにとって重くて甘くて、爆弾のように危険を感じるものだった。


壮介は、ゆっくりとみのりに近づき・・・真正面に立つ。

「・・・あいつに何言われたんだ・・・?」
表情は冷静だったが、声までは不安を隠せなかった。微かに言葉が詰まっていた・・・。
いつもの壮介と何となく違うことを感じながらも、そんなことを思いやってやれる余裕は
みのりにはなかった。

「何も言われてないよ。」
「嘘だ。誕生日の時から様子が変だって思ってた。あの日、あいつに何か言われたんだろ?
でなきゃ今日だってあいつの車になんて乗らなかったはずだ。」
「勝手に決め付けんなよ!」


壮介は、自分を睨みつけながらもどこか焦っているみのりの態度に不安を抑えきれなくなった。
一瞬躊躇したが・・・・聞きたくて聞けないでいた言葉を口にした。

「みのり。」
「何だよ。」
「もしかして・・・・あいつに、告白されたのか?」

その言葉を聞いた瞬間のみのりの変化を目の当たりにして・・・壮介は全てを悟った。

顔を真っ赤にして、焦りを隠すように怒りに代えるみのり。

「勝手に決め付けんなって言ってんだろ!!」
「みのり・・・。」
「何でお前もあいつもわけわかんないことばっか言うんだよ!」
「あいつって野々村のことか?やっぱり何か言われたんだな・・・。」
「うるさいな!」
「何て言われたんだよ!好きだとか、可愛いだとか言われたのか?」

みのりは図星をつかれ、思わず叫ぶ。

「例えそうだったとしても、壮介には何も関係ないだろ!!」
<もう私をこれ以上混乱させないでくれよ!>
みのりの追い詰められた気持ちが言わせた言葉。
関係ない・・・その言葉は壮介の心に容赦のない傷を付けた。

「もう私のことは放っといてく・・・・・。」

みのりの言葉が途中で遮られる・・・。
自分の唇に触れる、壮介の唇を感じ・・・・。

みのりの手からペットボトルが落ち・・・フローリングの床にオレンジ色の水溜りを作った・・・。

2002.2.20 

やっぱりラブコメのコメの字が取れそうだ・・・。