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「僕、男の子からのチョコレートはもらえないよ。」

忘れもしない・・・最悪のバレンタインデー。
小学校4年の時・・・6年生の男の子に勇気を出して渡した気持ちを込めたチョコレート。
初恋だった。

その返事がこれだ。

・・・・その場でぶん殴ってやった。



みのりの初恋は見事に砕け散った。
以後、みのりは自分が『女の子』なんだということから、逃げ出した。





あい・愛・あい


それぞれの思惑






「おーい!みのり、のろのろ歩いてると遅刻するぞ!」
紺色のブレザー姿の少年が、自分のかなり後をのろのろ付いてくるセーラー服の少女に声をかける。

「待ってよ壮介・・・。私は朝、弱いんだよぉ・・・。」
ちょっと不機嫌そうに答え、それでも何とか歩調を早くする。

この少女。
背はちっこくて、大きな瞳に、色白の肌。さらさらの髪の毛を、思い切りショートにしていて・・・。
とても可愛いのだが、セーラー服を着ていなかったら、少年だか少女だか
わからないような子だ。

水野みのり 16歳 T高校の2年生だ。
童顔なのでいつも中学生・・・時には小学生に間違われる。



「ほら、ちゃっちゃと歩けって!」
そんなみのりをお守りするように、見守る少年。
七瀬壮介 同じく16歳 


壮介は、16歳にしては落ちついた雰囲気を感じさせる。
小柄で、地味だがそれなりに整った顔立ちをしている。


2人は家がお隣同士の幼馴染だ。幼稚園の頃から兄妹のように育ってきた。
幼稚園から現在の高校まで、全て同じ学校に通っていて・・・しかも今は同じクラス。
この春のクラス替えでめでたく同じクラスになり、すでに1ヶ月が経った。

違うクラスの時も壮介は何かとみのりのことをかまっていた。
・・・・小さな頃から、壮介はいつも、まるで番人でもしているかのようにみのりの傍にいた。
物心ついた時からそうだったので、みのりにとっては壮介が傍にいるのが自然なこと。
そのことについて深く考えたことも、気にしたこともなかった・・・。



みのりは、壮介に追い立てられるように、学校への最後の上り坂を歩いていた。



校門の前まで辿り着つく・・・。

「みのりーー!おはよう!朝の抱擁!」
突然、声と同時にギュッとみのりは抱きしめられる。

「・・・麗奈。おはよう・・・。」
「どうしたの?うかない顔して。」
「いつもいつも言ってるだろ。抱きつくの、やめろって。」

みのりは、ワザとうんざりした顔を作る。
・・・が、麗奈は動じることなく微笑み「良いじゃない。減るもんじゃないし。」
と、にこやかに言い放つ。

麗奈は背が高く、抱きしめられると、ちっこいみのりはすっぽりと腕の中へ収まってしまう。
暴れても抜け出せないのはわかっているので、離してくれるまで、口だけで反抗する。

「いい加減に離せよ。」
「はーい。」
しぶしぶといった感じで、みのりを解放した麗奈。
後ろで、そんな2人を無表情で見ていた壮介と目が合った。

「あら、七瀬君。おはよう。」
「おはよう。毎朝毎朝、ご苦労なことだな。」
「全然苦労なんかじゃないわ。少しでも早くみのりに会いたいんだもん。」
そう言ってニッコリと笑う。・・・・ちょっと悪魔チックな笑顔。
そう・・・麗奈はいつも校門でみのりがくるのを待ち構えているのだ。
麗奈も同じクラスなので教室で待っていれば会えるのに、わざわざ校門で待つ少女・・・。

すらっとした長身の麗奈。痩せているくせに出る所は出ているスタイルの良さ。
とても美人で、綺麗なストレートの長い髪がよく似合っている。
みのりとは1年の時から同じクラス。
麗奈はみのりの親友だ・・・・。一応、表面上は・・・・。

麗奈はいつも、壮介に敵意を向ける。
壮介も、そのことには当然気が付いているのだが・・・。

「早く教室行こうよ。」
そんな2人の様子になど、まったく気が付かないみのり。
とっとと校舎へと歩き出した。

壮介と麗奈、冷たい視線をお互い交わし、ふぃっと目を逸らしてみのりの後を追う。






「君は今日も可愛いね・・・。」
みのりに、熱い視線を送る者がいた。

「坊ちゃん。そろそろ行かないと遅刻しますよ・・・。」
運転手が遠慮がちに言った。

「ああ。じゃあ、行ってくる。」
そう言って、校門前に停車した車から降りた男。

校舎に向かいながら、前方に見えるみのりの後姿にうっとりとする。

<あのメリハリのない体型、小動物を思わせる雰囲気・・・君の存在が僕を狂わせる・・・>
・・・などと、少々危ないことを考えているこの男。

野々村輝義 18歳 野々村グループ総帥の孫。
今すぐモデルにでもなれそうな体つきと薔薇が似合いそうな綺麗な顔立ち。
優雅な物腰・・・普通の制服なのに、彼が着ると何故かブランド品に見えてしまう。
おまけに成績優秀ときたもんだ。
T高校の有名人。
当然もてる。
・・・が、この野々村、言い寄る女達には目もくれず、ひたすらみのりに執着している。

<僕はもう、君だけのものだからね・・・>
・・・何やら自分勝手に、思考が大暴走しているお坊ちゃんであった・・・。


みのりを取り巻く様々な人間達とその思惑。
その全てが、じわじわと彼女を追い詰めていくのであった・・・・。

2002.2.7 

珍しく女の子が主人公。でも、まるで少年のようだ(笑)
わりかし真面目なラブコメになるかも・・・。(趣味に走りまくり・・・)