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秀治は自分の気持を探していた・・・。
いつかゆずが好きな人を見つけて自分の元を離れる日まで
見守ろうと思っていた。その日まで側にいようと思っていた。
・・・でもそれは本当に自分の本心なのか・・・・秀治には
わからなくなっていた。
『離したくない』・・・心の底でそう感じている自分に困惑した・・・・。
8月になり待ちに待った2人と1匹の夏休みが始まった。
ゆずは1週間ずっと秀治といられることが嬉しくてたまらなかった。
一方秀治は自覚を持ち始めた自分の気持ちに無理やり蓋をして
とのかく夏休みを楽しもうと思っていた。
「戸締り火の元チェック完了!!」
すっかり出掛ける準備も整い、玄関のドアにカギをかけゆずはお弁当が入った袋を手に
駐車場で待っていた秀治とチロの元へ駆けて行く。
車の助手席に乗り込む。
チロは後部座席で興奮気味に外を眺めている。
「チロ・・・初めての車だから酔うかなぁ・・・」
ゆずと秀治は心配そうにチロに目をやるが当のチロは嬉しくてたまらない
・・・という感じ。
心配したチロの車酔いも取り越し苦労でチロは絶好調。車ではしゃぎまくる。
途中山道を走り景色の良い場所でお弁当を食べた。
天気も良くて2人は山から見る景色を飽きるまで見ていた。
「高田様ですね・・。お待ちしておりました」
出迎えてくれたのは優しげで感じの良い老夫婦。
秀治が選んだのは山の中にある小さな民宿。
1週間ここでのんびり過ごす予定だ。
見たところ・・・お客は秀治達だけのようだ。
案内された和室に荷物を置き、ゆずは窓の外を見た。
山の景色と・・・少し離れた所に川が流れていた。
宿のお婆さんがお茶を入れてくれ、秀治はひと口飲み「ふぅ〜」と
一息付いた。
その姿を見たゆずはクスクス笑って言った。
「おじさん・・・じじむさい〜」
そしてゆずはチロを連れて元気良く部屋を飛び出した。
「川を見に行ってくる!」
そう言い残して・・・。
残された秀治、『じじむさい』の一言にちょとだけ傷ついていた。
その日の夜、ゆずとチロは疲れたのかすぐに眠りについていた。
秀治は何となく寝付かれず廊下に出て窓の外を見ていた。
星空が綺麗でみとれていると声を掛けられた。
「眠れないんですか?」
宿のお婆さんだ。秀治は微笑み小さく頷いた。
秀治は老夫婦の部屋でお茶をご馳走になった。
熱いお茶を飲みながら3人で他愛のない話をしていた。
ふいにお婆さんが言った。
「あのお連れさんとあんたは夫婦かい?」
秀治は思わずお茶を喉詰まらせ咳き込んでしまった。
「・・・・・そう見えますか?」
困惑しながら尋ねる。お婆さんとお爺さんは顔を見合わせた後
お婆さんが微笑んで言った。
「同じ空気だったからのぅ・・・」
「空気?」
「身にまとっている空気・・・雰囲気がお前さん達同じだよ」
そうなのか・・自分ではそんなことはわからないが・・・・。
秀治は言われたことに少し驚きぼんやり考え込んだ。
そして秀治は1つずつ・・・話をした。
秀治自身の過去。
ゆずとの出会い。
今の自分の気持ち・・・・。
何でこんな話をしているんだろうと思いながらも秀治は話を続けた。
この老夫婦に無性に話を聞いてもらいたくなっていた。
全てを黙って聞いてくれた老夫婦から秀治が言われた言葉は
「素直になるんじゃな・・・なにせ人生なんて短いからのぅ・・・」
と、いうものだった。微笑みながら秀治を見つめる老夫婦。
『素直になれと言われても・・・』秀治はその晩眠れなかった・・・・・。
「おじさん!山の中散策しに行こうよぉ〜」
次の日お昼近くになって睡魔に襲われ始めた秀治
座布団を枕にして畳の上でぐったりとしていた。
「ごめん・・・寝かせて・・・・・」
そう言って寝息を立て始めた秀治をゆずはふくれっつらで見つめる。
「ちぇっ!」
ゆずは仕方なく秀治の目が覚めるまで部屋でテレビを見ていることにした。
しばらくして・・・秀治がうなされているのに気が付く・・・・。
「また・・・由理香さんの夢見ているの・・・・・?」
秀治の辛そうにしている顔を見て・・・そう思う。
胸が痛い・・・とても苦しくて痛い・・・ゆずは思う。
もし想いを全部ぶつければ・・・何か変わるだろうか・・・・この
胸の痛みもなくなるだろうか・・・・・。
秀治が思い悩んでいる時、ゆずも
自分の気持に追い詰められていた。
2001.5.6
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