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 事情聴取を終えた尚也の前に、紙袋を抱えた父親、和仁が現れた。
 紙袋の中には尚也の服が入っている。
 寝巻き姿のままだった尚也は、和仁が持って来てくれた服に着替えて帰路についた。

 家に着くまで、この親子の間に妙な緊張感が割り込み、会話が交わされることはなかった。
 尚也も和仁も、お互い言葉をかけるタイミングを探しては逸し、その繰り返しのうちに玄関の前まで来てしまった。
 ところが、そのタイミングは意外なところに転がっていた。
 玄関に足を踏み入れた尚也は、異変に気が付き、初めて口を開いた。

「なあ、母さんは?」
 こんな時、いつも苦々しい顔をしながら尚也に文句を言いに来る薫の姿がない。
 居間にもキッチンにも、気配はなく、薫だけでなく、弟の高志までも姿を消していた。
 戸惑いがちに居間で立ち尽くす尚也に、和仁はぎこちなく笑いかけ、ソファーに座るように勧める。
 何となく居心地の悪さを感じながらも、腰を降ろす。
 それを見て、和仁も尚也の真正面の席に座る。
 ゆっくりとソファーに腰を沈める和仁の姿が、とても疲れているように尚也の目に映る。
 少し間を置き、尚也の疑問に対して答えをくれた。

「薫と高志には今日はホテルに泊まってもらってる。」

 尚也は訝しげな顔をする。

「何で?」
「薫がいるとお前と落ち着いて話が出来ないからだ。」

 和仁の声音は、静かで落ち着いていた。

「何かあったのか?」
「薫を…。母さんを殴ってしまった。」

 和仁は、自分の右手の、手の平を見つめて言葉を漏らす。
 尚也は驚いて少しの間呆然としてしまった。

<母さんを殴っただって?>

 殴ったと言っても、軽い平手打ちだった。
 それは尚也にも想像できたが、それにしても薫に甘い和仁がそんなことをするだなんて、尚也にとってはとても意外なことだ。

 和仁と薫の間に何があったのか、少しだけ時間を遡らせ記しておこう。
 警察から連絡があった時、ちょうど和仁が会社から帰宅していて、たまたま電話台の傍にいたので何気なく受話器を手に取った。
 尚也のことを聞いて驚き、薫に事情を話して、迎えに行くため玄関に慌しく向う。
 …が、薫が靴を履いていた和仁の腕に縋り付いて来た。

「私が行くわ。」
「え?」
「あの子は…尚也は私が迎えに行くわ。」
「…いや、僕が行くからいい。」
「私が行くから、あなたはここにいて!」

 薫が切羽詰った様子で顔を歪ませ声を荒げる。
 和仁は目を見開いて、自分の妻を見つめた…。

「何で僕が迎えに行ってはいけないんだ?」
「………あなた、心の中で私のこと、責めているでしょう…。」
「え?」

 薫の言葉が理解出来なくて首を傾げる。

「わ、私が尚也のことを目に敵にして、警察に届けを出さなかったから…心配もなにもしなかったから…。責めているんでしょ?」
「何を言っているんだ?」

 和仁は薫のうろたえように動揺しながらも、薫を見据える。

 尚也が姿を消しても、家の中の誰もが捜索願いを出そうとはしなかった。
 尚也の日頃の素行から、帰ってこない状態に家族が慣れてしまっていたこともあるが、それよりも家族が触れたくない、避けていたい存在が姿を消しホッとしていた。
 同じ安堵感でも、それぞれが抱える内容は随分と違っていたが…。

 まず、薫は、まさか尚也が轢き逃げ事件になど巻き込まれていただなどと、思ってはいなかった。
 尚也が自分から出て行ったのだから、このまま帰ってこないことを本気で願っていた。
 いつからだろうか。薫が尚也を疎ましく思い、拒絶するようになったのは…。
 薫は和仁のことをとても愛している。
 誰にも取られたくなくて、その愛情を失いたくなくて必死だった…。
 前の夫と離婚した時、誓った。
 今度誰かともう一度愛し合うことが出来なのならば、その愛情を手放さない、誰にも幸せを奪われないように頑張ろうと誓っていた。
 薫が前の夫と離婚した最大の理由は、夫に他に好きな女が出来たからだ。
 そのことに、随分前から気が付いていた。でも、気が付かない振りをしていた。
 見せかけだけの平和な日常でも、とにかく壊したくなかったから。
 心の底から湧いてくる、嫉妬や独占欲、憎しみ…その全てから目を逸らし、見ないように目隠しして笑顔を絶やさず家事をしっかりやって、そうすれば夫は必ず家庭へと戻ってくれると信じていた。
 でも、全て無駄だった。
 突然夫から離婚したいと切り出され、愛する夫の気持ちがすでに自分のところにはない事実を残酷なほどハッキリと突きつけられた。
『私の悪いところは全部直すから。お願い!別れるだなんて言わないで。』
 もう一度やり直すチャンスを願う薫が、責めたい気持ちを押し殺し、やっと言葉にした気持ちだった。
 けれど、夫は立った一言でその願いを打ち砕いた。
『お前の上辺だけの笑顔をもう見たくないんだ。』
 この時には夫の心は、どうしようもなく薫から離れてしまっていて、何を言っても、その言葉は届かなかった。
 守ってきた家庭が、簡単に壊れてしまった…だから和仁から結婚したいと言われた時、今度こそ、守りたいと思った。
 和仁との家庭を大切にし、幸せになりたいと願っていた。
 一度だけ、和仁は薫に自分の前妻、今は亡き尚也の母親の話をしたことがある。
 その時の和仁の瞳は、薫のことを見つめる時と同じくらい優しげで温かだった。
『まだ幼い尚也には母親が必要なんだ。だから、可愛がってやって欲しい。』
 和仁は薫に何度もそう言った。その言葉には、前の妻と尚也に対する愛情が込められていた。
 薫は、その願いを叶える為に尚也のことも自分の子供と同じように愛そう、頑張ろうと思っていたのに…懐かない尚也に困惑し、いつの間にか尚也に見え隠れする前の妻の影に怯え、和仁が尚也に与える愛情にたまらなく嫉妬を覚えるようになってしまった。
 既にこの世にはいない女性に対しても、その血を引く尚也に対しても、和仁の愛情を分けてなどあげたくない…歪んだ感情が次第に心を支配する。
 和仁の愛情が誰に向いているのか酷く気になり、過剰に反応するようになってしまった。
 尚也より、自分の息子、高志を愛して欲しかった。尚也より自分を愛して欲しかった。
 …愛情を独占したかった。

 息子の高志も、薫の気持ちを敏感に感じ取り、だからこそ、薫のことを守ろうと、和仁に気に入られようと頑張っていた。

 一方、和仁は平和な家庭を心から求めていた。
 妻に先立たれ、薫と出会い、もう一度幸せな家庭を築きたいと願っていた。
 薫を愛していたし、彼女なら尚也のことも愛してくれると信じていた。
 …薫と尚也の確執は、初めのうちは本当に何も気が付かなかないで、平凡だが幸せな生活が送れていると思っていた。
 尚也が近所の子供と喧嘩をしたと薫が報告してきた時も、単なる子供同士のいざこざだと軽く考え、薫と尚也との言い分が違っていたことにも、さして気にも留めず、揺らぎ始めた家族の軋みを示すサインを見逃してしまう。
 …いつからだろうか。自分の家庭から、尚也が孤立し始めたのは……。
 そのことに気が付いた時には、尚也との溝はとても深くなっていて、家族を拒絶している息子に対しどう接していいのかもわからず目を背け出す。
 和仁は、もちろん尚也のことを愛してきたし、大切に思ってきたが、いつの間にか波風の立たない生活を守ることに徹してしまう。
 随分後からだが、薫が尚也をあまり快く思っていないことも感じ取れたが、2人の関係の修復のことよりも、薫の心を和ますことに懸命になってしまう。…それが一番楽な選択だったからだ。
 尚也が起こす様々なトラブルの裏に隠れた尚也の心の叫びにも、耳を塞ぎ突き放し、尚也抜きでの薫との穏やかな生活を送ることが和仁の取った選択。
 そのために尚也の気持ちを犠牲にしてしまった。
 だから、尚也が時々フラっと家を出て帰ってこない日は自覚のないまま、ホッと安らいでいた。
 尚也に責任の全てを背負わせてしまったことへの罪悪感。
 今までは、そんな自分の気持ちを誤魔化し、尚也の所為にして、罪悪感を見ないようにしてきたが、今回尚也が事件に巻き込まれたことでハッキリと自覚した。

<僕は尚也を見殺しにしようとした…>
 愕然とした。
 まさか、命に関わるような事件に巻き込まれているなどと思っていたわけではなかった。
 …まさか、本当にいなくなってしまうかもしれないほど、危険な状態でいたとは、想像もしなかった。
 尚也を永遠に失うことなど考えたことはなかった。
 和仁だけでなく、薫も高志も…本気で尚也がこの世からいなくなって欲しいと願っていたわけじゃない。
 

 今回、尚也がいなくなった時も、薫も和仁もいつものことだと思っていた。
 尚也が自ら選んで家を出て行ったなら、それで良かった。
 もう胸の痛みも、罪悪感も、醜い嫉妬も感じずに済むからと、みんなが思ってしまった…。

「私が警察に連絡しようとしなかったから…だから私を責めているんでしょう?」
 薫が涙を浮かべながら訴える。
 監禁されていたなんて事実を突きつけられ、薫が真っ先に考えたのは、和仁の愛情が自分から離れてしまうのではないかということだった。
 常に尚也と対立し、今回だって心配もせずに、勝手なことばかりをする尚也に対し愚痴を零していたからだ。

「あなた…お願い行かないで!私が尚也を迎えに行きますから。」
 今、尚也の許へ和仁を行かせてしまったら、二度と自分の所に帰って来ないような気がしたから。
 和仁にも、薫のそんな必死な思いが伝わった。

「薫、落ち着け…。」
「お願い、私から離れないで。尚也より私のことを選んで!」
「薫!」
 思わず手が出て、薫の頬を叩いてしまう。
 咄嗟のことでも、力は入れていなかった…だから、ぺチっという音が微かに聞こえたくらいの、痛みのない平手打ちだったわけだが、薫の心には酷い痛みが走った。
 その痛みの正体は、和仁に殴られたことのショックからくるものでもあったが、それ以上に自分がどれほど酷いことを言っていたかを自覚した瞬間の痛みでもあった。

 両親の言い合う声が聞こえ、自室にいた高志も玄関先に出てきて、呆然と立ち尽くしていた。
 和仁は、高志の姿が目に入り、一瞬動揺するが、すぐに笑顔を作る。
 そして薫をそっと抱き締め、出来るだけ穏やかな声で言った。

「薫。大丈夫だから…今日は高志と一緒にビジネスホテルにでも泊まってくれるか?」

 薫は顔を上げ、不安そうな眼差しを向ける。

「今日はゆっくり休んで、明日元気な顔で帰ってきてくれ。」
「あなた…。」

 薫は、不安を拭いきれないようだったが、それでも和仁の言葉に頷き支度を始めた。
 薫と高志を送り出し、和仁も警察へと急ぐ。
 タクシーで向いながら、とにかく今は尚也と話をしなければと考えていた…。

 これが、夫婦の間にあった出来事で、そのことを尚也は知るよしもなかった。

「母さんを殴ったって…どうして…。」
 尚也は信じられなかった。
 和仁はため息を付き、苦笑いする。

「落ち着かせるためにだよ。」

 和仁は、薫とのやり取りは話さずに、その一言だけを言う。
<落ち着かせるためか…>
 きっと、今回もまた自分のことで何かもめたのかと思うと、一応納得は出来る理由だった。
 それでも、和仁が今まで薫と対立したことなどなく、ましてや尚也側に立ったことなどないので、尚也はやはり驚きを隠せない。

<父さんがあの女を殴るなんてな…>
 尚也には、どんな状況下でそんな展開になったのか、いくつかの想像をしたが、そのことにはもう触れず、本題に入る。

「父さん、話しって何?」
 そう尋ねた途端、和仁の表情が今まで以上に曇り、重々しい雰囲気になる。
 
「…わたしは酷い父親だ。」

 和仁は、ゆっくりと、静かな声で今まで自分がどんなことを考え、尚也に対しどんな気持ちを抱えてきたのかを包み隠さず話をした。
 尚也は最後まで黙って聞いていた。

「わたしは目先の…偽りの平穏な日々を守るために、お前を切り捨てた。」
 それは、どんなに弁解しようと、変わることのない事実。
 尚也は、気持ちの伴わない笑みを浮かべてみるが、目だけは悲しげに父親を見つめる。

<そんなのわかりきってたけど、ハッキリ言われるとさすがに傷つくな>
 愛されることも愛することも諦めた時、痛みなど感じなくなっていたはずなのに…と、自分の気持ちの変化を感じる。
 子供の頃、自分が欲しかったものをもう一度手に入れたいと、今自分が願っていることを、胸の痛みが教える。
 自分の中から湧き上がる、鍋島やクロ、そして瑞希への想いと一緒で、遠い昔に諦めてしまった家族との関係を再び欲してしまっている…。
 一方、和仁は自分の言葉がどれほど尚也を傷つけたのか、その様子を見ていれば手に取るようにわかった。
 今までこんな風に自分の息子と対峙することを避けていた和仁には、尚也の反応に胸を締め付けられる。
 逃げずにちゃっと見ようとしていれば、尚也の気持ちにも気が付くことが出来たのに目を背け続けていた。
 尚也のことをまったく見ようとしていなかった自分がとても悔やまれる。


「尚也…今までのことは何も言い訳出来ない。酷い父親だった。でも、警察から電話があった時、思い知ったよ。」

<思い知った?>
 尚也は首を傾げ、次の言葉を待つ。

「お前が危険な目に遭っていたと知って…恐怖を感じたよ。」
「恐怖?」
「お前を失う恐怖だよ。」

 和仁は膝に手を置いて話をしていたが、その手が少し震えていた。

「今までお前のことを見ようともしなかったわたしの言葉なんて信じられないかも知れないが…お前はわたしの大切な息子だ。」

 和仁の声も、表情も、眼差しも、尚也が今まで感じたことのない温かさで包み込む。

「今まで、すまなかった。」
「父さん…。」
「これから…わたしにやり直す機会を与えてもらえないだろうか?」

 尚也の目に、不安そうに答えを待っている父親の顔が映る。
<大切な息子…か>
 今は、その言葉だけで充分だった。
「尚也…ダメか…?」
 再度尋ねてくる父親に、尚也はゆっくりと首を横に振る。

「謝るなよ。俺だってとてもじゃないが良い息子とは言えない素行だったからな。」
「でもそれはわたしが…。」
 『それはわたしがお前の気持ちを考えていなかったからだ。』…和仁はそう言おうとしたが、途中で尚也に遮られる。

「父さん、俺に時間をくれないか?」
「え?」
「…父さんの気持ちはわかった。……母さんにもきっと色々な気持ちがあるんだと思う。」

 尚也は、話しながら、瑞希のことを想う。
 色んな愛の形があり、どれも真剣で、相手を想う気持ちは本気なのに、大切にしたいと思っているのに…時には歪んでしまったり傷つけてしまったりする。
 尚也は自分の家族ともう一度向き合いたいと思っている。
 それは素直な気持ちだが、長い間の隔たりをそう簡単には越えられない。

「俺、高校を卒業したら、この家を出るよ。」

 和仁は尚也の返事を聞いて動揺し、悲しげに目を伏せた。

「尚也…。やはりわたしたちを許せないか?…もう一緒に暮らすことも嫌なのか?」
「違うんだ。そうじゃなくて…今の俺には、まだどうしていいのかわからないんだ。このまま元の生活に戻っても父さんの気持ちも母さん…いや、『あの人』の気持ちもちゃんと受け止められない。俺の気持ちもちゃんと伝えられない。」

 意識して薫のことを母と呼ばずに『あの人』と呼んだ。
 尚也には薫を母親として見ることは出来ない。薫が尚也を息子と思えないのと同じで…それが薫と尚也が今まで築いてきた2人の関係だ。その事実をこの場では取り繕いも誤魔化しもしたくはなかった。

「…薫のことを母親とは思えないか?」

 父親の遠慮がちな問いに、尚也は苦笑いして肩を竦め、無言で<思えない>ことを意思表示する。
 和仁に気持ちが伝わったことを感じ、今度は穏やかな微笑を浮かべて、本心を語る。

「…距離をおいて、家族のことを想ってみたいんだ。父さんのことも、あの人のことも…高志のことも。もう一度家族になる為の時間が欲しい。」

 長い間凍り付いていたそれぞれの気持ちが溶けるまでの時間。
 和仁と同じで、もう一度、歩み寄れる機会を与えて欲しかった。
 家族との壁を越えることも含め、尚也は自分自身の足で歩き出したいと思っていた。
 近い将来…瑞希に会いに行くために。
 瑞希が罪を償う日々を送る間も、法的な償いを終えた後も、彼女の支えになれたらと思う。

「父さん、俺さ…傍にいたいと思う人ができたんだ。」
「傍にいたい人…?」
「その人といると、とても強くなれる気がするんだ。」
<瑞希さんを支えたいと思っていながら、本当は支えられて、守られていたんだな…>
 瑞希に傍にいて欲しい…。切ないくらい求めていた。
 傍にいたいと思う人が誰なのかまでは、尚也は語らなかった。
 和仁はそれでも、尚也の心に住む『誰か』がどれほど大切な存在なのか、聞かなくても感じることが出来た。
 目の前にいる、自分の息子の姿が、子供の顔ではなく自分と対等な男の顔になっていたから…。
<これはもう、認めるしかないな>
 和仁は嬉しいような、それでいて急に成長してしまった息子に焦りを感じている、複雑な心境だった。

「わかった。尚也の好きにするといい。そのかわり、何でも相談してくれ。手を貸すよ。」
「…ありがとう。」

 それからしばらく会話が途切れ、お互いに沈黙を気にして、妙に緊張した空気が流れる。
 長年きちんと顔を見ながら会話などしたことがなかったから、いざその場になると何を話していいのかすらもわからない。
 お互い部屋の中に視線をさ迷わせ、再び目が合った途端、バツが悪くなり俯く。
 こんな所は、この親子はとても似ていた。
 和仁はふいに可笑しくなり、笑ってしまいそうになる。
 顔を上げ、明るい声で尚也に尋ねた。

「尚也、もし良かったら、話してくれないか?」
「え?」
 尚也はキョトンとして和仁を見る。

「何だかお前、雰囲気が随分変わったから。」

 こんな風に尚也と静かに話しが出来るとは想像していなかった。
 今回の事件が息子の気持ちに何を与えてくれたのか、何が彼を変えたのかを知りたかった。
 尚也は意地悪な笑みを浮かべる。

「お互い昔を懐かしむような年寄りになって、一緒に居酒屋で酒飲んで語り合う時用のネタに取っとくよ。」

 和仁の脳裏に、尚也が言ったような風景が浮ぶ。
<将来のために、楽しみは取っておくか…>
 聞き出すことを諦め、尚也の夢のある意地悪に、笑って応える。

「そりゃ楽しみだ。」

 …これから先、この家族の絆はどんなものになるのか…。
 和仁は、出来ることなら、今尚也が言ったような関係になれればと願う。
 この夜、和仁と尚也は他には特別な会話をしたわけではなく、薫が作っていた夕食を2人で食べ、穏やかな時間を過ごした。

2002.10.15

さて!次回からはラブコメ道一直線!