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宝の地図?



俺と実君・・・今電車に揺られている。





実君はプレゼントを受け取りに行くと言った。
かずゆき君が最後に残してくれた物だから・・とも言った。
俺は・・・とても気になって実君に尋ねた。

「最後に残してくれたって・・・どういうこと?」














そして今2人で電車に乗り、実君の通う小学校へ向かっている。
俺が興味ありそうな顔をしていたら「一緒に来ても良いよ」と言ってもらえたから。
車内は空いていて並んで座ることが出来た。

実君は無表情で話を聞かせてくれた。

「9日前の日曜日僕の誕生日だったんです。前の晩ウチは外に夕飯を食べに行ってて
帰ってみるとかずゆき君からの留守電が入ってたんです」
「何て?」
「ワクワクした声で『勇気があれば宝物が手に入るよ〜』・・・それだけです」
・・・それだけって・・・それとあの地図と、どう関係があるのかさっぱりわからん。

「僕その時は留守電の・・・伝言の意味がわからなかったんですが今日届けていただいた
地図を見てわかりました」
俺は横に座る実君を見つめ話の続きを待つ。
「これは僕の学校の裏にある広い空き地の地図です」
「空き地?」
実君は小さく頷き言った。
「はい・・・空き地と言っても鬱蒼とした林みたいな所ですが」

確かに・・・地図にはたくさんの木らしき絵と原っぱのような緑が描かれていたよな・・・。


「僕の学校ではこの空き地には『幽霊』が出るって噂があるんです。
空き地に入ってその幽霊につかまったら2度と出て来れない」

どこにでもあるような学校の7不思議みたいなものかな・・・・。
実君はため息をついて言った。

「かずゆき君、人を驚かせたり喜ばせるために手の込んだイタズラやプレゼントするの
好きだったから僕の誕生日プレゼントを宝捜しのような形でくれたんです」
まるですごく年下の子の話をするように『かずゆき君』を語る実君。
・・だんだん自分まで・・・実君よりひどくガキっぽいようにも思えてきたりした。
俺、そんなプレゼントもらったらワクワクしちゃうもんな・・・。


「小さな子供は恐い噂結構信じますから、みんなあまりその空き地では遊びませんでした
・・・かずゆき君自身も『宝物』を隠しに行くのは少し恐かったと思います」

まるで自分は『小さな子供』に含まれていないように話をするなぁ・・・・・・。

実君はその後小さな声で言った。
「・・・本当に面白い友達でした」
「・・友達・・・でした・・・って・・・過去形?」

実君俺の目を見つめ言った。
「もうかずゆき君。いませんから」
「転校でもしたの?」
「死にました」
・・・死んだ?・・・突然の展開に俺はびっくりし何も言えなくなった。
実君は・・・その後鋭い目つきで膝に乗せた自分の手をみつめながら言った。
「・・・殺されたんです」


殺されたんです・・・・俺の頭の中に響いたこの言葉。そして思い出した。
そうだ!!何であの日『かずゆき』という名前を見て聞いたことあるな・・と思ったのか・・・。
水色の封筒を見つける直前まで見ていたニュース・・・・。

無残な姿で発見された小学校1年生の男の子。

名前は『中島和之』・・・・・・。


俺はやっとの思いで声を出す。
「まさかその子・・・・今ニュースとかで騒がれてる・・・中島和之君?」
実君は・・・コクンと頷いた。

「和之君が電話をくれた次に日・・・僕は伝言の意味を聞くため彼の家に電話をしたんですが
彼は遊びに出てていなかった。・・・そしてそのまま彼はいなくなった」
実君は無表情のまま俺を見つめる。
「そして死体で発見されたんです」



・・・・・・何て話だろう・・・・・。まさかこんな展開になるとは思わなくて・・・俺は何も言えず
黙っていた。実君もここまで話し終え黙ってしまった。


実君は相変わらず無表情のままだった。


俺はそんな実君を見ていると不思議な気分になる。
・・・自分の友達が殺されたのにこんなに冷静にそのことを語る実君が
理解出来なかった。
そう考えた後、自分で自分の頭を小突いた。
俺だって一生懸命やってるのに他の人に「適当にやってる」とか「本気出していない」
とか散々言われ続けて嫌な思いをしたことたくさんある。
人間、心の中は本人にしかわからない。
実君は心の中ですごく悲しんでるんだ。
顔で笑って心で泣く人もいる。だから決め付けちゃいけないんだ。
俺はそう思い実君を見つめた。



彼の膝に置かれた小さな手は・・・いつの間にか白くなるほど硬く握られ
かすかに震えていた。
2001.5.9