戻る

正義の味方

第2章
罠に掛かった正義の味方


東京都○×区△町4丁目に『川野行久』という男が住んでいる。

川野行久(男) 31歳 身長175cm 血液型O型 職業は『専業主夫』
ごく普通の生活を送っているように見える彼ですが・・・・彼には重大な使命が
あります。
実は彼『戦う男』なのです。

なぜって・・・彼は『正義の味方』なのだから・・・・・。













「いちご〜」
里奈が嬉しそうにイチゴを見つめる。
行久は小さめのイチゴを里奈の口に入れてやる。
「美味しいね〜」
里奈はうっとりしながらイチゴを食べる。


日曜日の昼下がりエプロン姿の行久はスポンジケーキを焼いて、只今生クリームとイチゴで綺麗に
デコレーションしている最中なのだ。台所のテーブルにはケーキだけでなくローストビーフや
下ごしらえ段階のエビフライ・・・色々なご馳走が乗っている。冷蔵庫にはサラダも入っている。

料理をする行久に里奈はまとわりついて時々食べ物をねだったり遊んでもらったりしている。




「おはよぉ・・・・」
お昼をずいぶん過ぎてはいるが・・・あくびをしながらパジャマ姿の琴子が台所にやってきてご挨拶。
琴子は最近仕事が忙しく疲れているせいか土日の休日はだいたい昼頃まで寝ているのだ。

「おはようございます、琴子さん」
「ママおはようー」
琴子は台所の状態を見て目を丸くする・・・。

「何・・・?この・・・・豪華なメニュー・・・・ケーキまであるし・・・・」
琴子の言葉を聞き行久と里奈は顔を見合わせクスッと笑う。

「やっぱり琴子さん忘れてたねー」
「ねー」
そんな2人を琴子は軽く睨んで「何なの?」と聞いた。

里奈がニッコリ笑って言った。
「今日はママのたんじょうび!!」


琴子は一瞬目を見開き・・・軽いため息を付いた・・・。

本日琴子は41歳になる・・・。
『嬉しくない・・・出来ることなら忘れてたかったわ・・・』
心の中で愚痴る・・・。


「今夜はパーティーですよ!!」
里奈と同じくらい無邪気に笑う行久。
琴子は『おいおい・・・31歳の男がそれで良いのか・・・?』と突っ込みを入れたくなるが
やめておいた・・・・。
行久自身そんな自分をちょこっと気にしているようだったし・・・・
何より琴子はそんな行久が大好きだったのだ。

「琴子さんお腹空いているでしょう。
居間にサンドイッチ用意してあります。今コーヒー入れますから待ってて下さいね!」
行久の笑顔を見て琴子はクスッと笑った・・・。





行久が正義の味方になってから1ヶ月が経とうとしていた。
『悪の手先』はだいたい2〜3日に1回の割合で現れる。

最近では行久もだいぶ慣れてきて楽に仕事をこなしていた。
赤いマントを装着しなければならない恥ずかしさはあるが
『悪の手先』は何故か人気のない時に現れるので助かっている。

『正義の味方マニュアル』にはたぶん人に乗り移って行動する『悪の手先』は
その正体をなるべく隠して行動しやすいようにするためだろう・・・と書いてあった。

そう『悪の手先』は人の心の脆い部分や弱い部分につけ込んで体を乗っ取るのだ。
行久は『悪の手先』に取り付かれた人を助けて平和を守っている。



『でも・・・今日の分の指令書来なくて良かったな・・・・』
行久は心の中でホッとする。

『指令書』はだいたい『悪の手先』が現れる当日か前日に郵便で届く。
今日の分は届いていないのでゆっくり琴子の誕生日を祝えるということに
行久は喜んでいた。


「早めにワインとかビール・・・買ってきちゃおうかな・・・」
行久は時計を見てつぶやく・・・・PM2:10・・・。

行久は居間にいる琴子に声をかける。
「琴子さんすみません。ちょっと買い物に行ってきますから里奈のことよろしく
お願いします」
「ふぁ〜い・・・」
コーヒーを飲みながら返事をする琴子。
エプロンをとって財布を持つ行久。胸には『正義の味方バッジ』が付いている。
『悪の手先』が出ない日も一応バッジだけは身に付けていた。


玄関で靴をはく行久の側へ里奈がやって来た。
行久は里奈の頭を軽く撫でて微笑む。

「ちょっと出かけてくるからね」

そう言って玄関を出る。




「いい天気だな・・・」
空は雲1つなく晴れ渡っていた。

行久が酒屋への道をのんびり歩いていると後ろから呼び止められた。
「おじちゃん」

行久が振り向くと・・・そこには小学・・・1〜2年生くらいの小さな男の子が立っていた。
行久は軽く微笑み目線を合わせるためしゃがむ。
「どうしたの?」
少年は少しの間黙り込んで・・・意を決したように言った。
「そのバッジかっこ良いね・・・・付けさせてくれる?」
バッジ・・・・バッジって・・・・行久は自分の胸に付いている『正義の味方バッジ』を見る。
「バッジってまさかこれのこと?」
苦笑いしながら行久は胸のバッジを指差し言った。
少年はコクン・・・と頷いた。
『かっこいい・・・かねぇ・・・・・・かっこ悪いと思うけど・・・』そんなことを考えバッジを見て・・・
その後少年の顔を見る。
硬い表情の少年・・・緊張しているようだ。
『こんなに緊張してまで頼み込んで付けたい物かなぁ・・・』そう思ったものの
行久はそっとバッジを外し少年の胸に付けてやる。

「そのバッジ、とても大切な物だから少しだけだよ・・・」
行久はそう言って微笑んだ。



少年はしばらく付けてもらったバッジを見つめ・・・・・
突然走り出した。


あまりに突然のことで行久は走り去っていく少年の背中を見つめ・・・・・・・
「追わなきゃ!!」と行久が立ち上がろうとした時・・

ドサッ!

と背後で何かが倒れる音がし行久が振り向くと
少し離れた所に男が倒れていた。

「大丈夫ですか?」
慌てて行久は男性に駆け寄った。

50歳前後の大柄な肥った男だった。

「だ・・大丈夫です・・・ちょっと眩暈がしただけですから・・・」
苦しそうに顔を歪め小声で話す男性・・・行久は心配になってきた。
「病院に行った方が良いんじゃないですか?タクシー呼んで来ますよ・・・」

行久の提案に男性は首を横に振り言った。
「大丈夫です・・・ただ・・・申し訳ないんですがウチまで送ってもらえませんか?」
行久はためらうことなく頷いた。

さっきの少年のことは気になったがこっちの方が大事だ・・・と思ったのだ。



行久はかがんで男性に肩を貸す。
男性はかなり重くて肩を貸すだけでもかなりの負担になった。

行久は『もっと運動しなきゃな・・・』と心の中で反省し男性とゆっくり歩き出す。

下を向いて「すみません」と言う男性の口許が妖しく笑っていることに
行久は気付かなかった。
2001.6.5

(ちょこっと後書き)第二章開始!一章の時より趣味に走ります(大笑)←あれより走ったら
どうなることやら・・・(汗)