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正義の味方E


残業を終え琴子が帰宅した時は10時を少しまわっていた。
里奈は既に夢の中。里奈の寝顔を見た後、琴子は食卓についた。

「相変わらず美味しいわね〜!」
行久が作ったビーフシチューを美味しそうに食べる琴子。

行久はハンカチにアイロンをかけながら今日の出来事を話し出すタイミングを探していた。




結局話を切り出すことが出来たのは琴子がお風呂から出て居間で
缶ビールを飲んでいる時だった。
「・・・・・へぇ・・・そんなことがあったの・・・・・」

そう言ったっきり何も言わない琴子。
琴子の横で正座している行久・・・気まずい雰囲気だな・・・と感じる。
何もかも包み隠さず話した行久・・・・・もしかして琴子さん・・・怒ったのかな・・・?
と、不安になった。

『やましいことは何もないとはいえ、宮本さんと2人きりになっちゃたこと
・・・・やっぱりまずかったかな・・・』

心の中で琴子が怒る原因を一生懸命考える。






「行久・・・・立って」
突然そう言って琴子は手にしていたビールをテーブルに置きゆっくり立ち上がった。
行久は疑問に思いながらも言われた通り立ち上がる。



向かい合う形で立ち・・・・しばらく沈黙が続く。


「あの・・・・琴子さん・・・?」
琴子がどういうつもりなのかわからず戸惑う行久。


「行久・・・・・」
ニッコリ笑って琴子が言う。
「歯、食いしばって!」
「え?」
その瞬間行久は左頬に衝撃を受け、続いて痛みを感じた。

琴子が殴ったのだ・・・。しかもグーで・・・。

何とか倒れずに済んだものの軽くよろけた行久。
左頬を押さえて琴子を見る。
殴るほど怒ってるんだ・・・・・行久は困ってしまった。


「行久・・・・何で私が怒っているか・・・わかる?」
琴子はうつむいてそう言った。下を向いているので表情はわからない。
でも行久には声だけでわかる・・・・かなり怒ってることが・・・。


「宮本さんと・・・この家で2人きりになったからですか・・・・?」
行久にはこれしか考えられなかった。
行久のその言葉を聞き琴子は顔を上げた。

その時の琴子の顔を見て行久はドキッとした。



「私はそんなことで怒ってんじゃないわよ!!」




そう言った琴子の顔はめちゃくちゃ怒っていた・・・・・でも目は・・・今にも泣きそうに潤んでいた。

琴子は行久を睨みながら言った。

「私が許せないのは・・・・行久が一瞬でも諦めたことよ!!」


諦めた・・・?行久には何のことだかわからなかった。


「行久が優しいのは知ってる・・・・例え自分を守る為でも人を傷付けることなんて絶対に出来ない
・・・・それもわかってる・・・・私はそんな行久を好きになったんだもの・・・・・」


「琴子さん・・・・・」


「だけど私達をおいて自分だけ犠牲になろうとしたなんて・・・・・
それだけは絶対に許せない!!」



行久はようやく琴子が何に対して怒っているのかがわかった・・・。


さっき話した時に
『まさか里奈の友達のお母さん撃つわけにいかなくて・・・・もうダメかと思いました』
・・・と、行久は琴子に心配させないように冗談っぽく話したつもりだった。
でも行久の性格を知っている琴子はそれだけでどんなに危ない状況だったか手に取るように
わかってしまう。


「・・・・正義の味方の仕事なんて捨てて逃げ出せばよかったのよ・・・・・・
どんなにかっこ悪くてもいいから・・・・・・生きるか死ぬかの時は・・・
私と里奈のことだけを考えてよ!!!」


琴子はそう言って行久の顔を両手で掴み強引に唇を重ねた。
突然のことで何が起こったのかわからず行久の思考回路は停止状態。

「・・・琴子さん・・・」
やっと解放された口で言えたのがその名前だけ。
混乱している行久にかまわず琴子は
行久のシャツのボタンを外し始める。

「ちょ・・・ちょっと琴子さん・・・!!」
慌てて琴子の手を止めようとする。

明日、琴子と里奈が持っていくお弁当の下ごしらえや
さっきの夕食の後片付け・・・まだ行久には仕事が残っていた。


「琴子さん!お願い・・・あと1時間だけ待って・・・・」
懇願する行久に琴子は意地悪そうにニッコリと笑って
「ま・て・な・い!」
・・・と言った。



寝室へ連行される行久
ベッドに押し倒され「今夜は寝かさないからね!」と恐ろしい言葉を言われ
抵抗を試みようと思ったが・・・・

行久を見る琴子の瞳がとても寂しそうなのに気が付き・・・・・・・そっと抱き寄せた。


「琴子さん・・・すみませんでした・・・・」
















行久が抱えた想い・・・琴子が抱えた想い・・・それが2人の壁となるのは
まだもう少し先の話で・・・・・・・。

















翌日
「パパ・・・眠いの?」
朝一番に起きてきた里奈・・・行久を見るなりそう言った。
琴子はまだ熟睡している。

今にも溶けちゃいそうなトロンとした眠い目で朝ご飯とお弁当の用意をする行久。


行久はぼんやり里奈が大好きなタコウインナ―を見つめる。

『ああ・・・タコさんウインナーが2重に見える・・・・・』

・・・・・・結局貫徹状態だった・・・・・・。









行久は幼稚園へ行く途中、宮本親子に出会った。
「おはようございます」
ニコっと微笑む紀子。
紀子のその表情から・・・・どうやら旦那さんと言いたい事言い合ったんだな
・・・と感じた。


里奈からの後日談として
『悪の手先37号』を退治した後・・・一樹は恐い夢を見ることはなくなったんだそうだ・・・。

2001.6.4

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(ちょこっと後書き)
ほんっとに私ってこーゆー展開・・・・・・・・好きなのね(大汗)ああ・・・皆様の呆れる顔が
目に浮かぶ・・・。どうして私の女キャラってこんな積極的なのかしら・・・・(汗)
2章のタイトル『罠に掛かった正義の味方』です♪←タイトルからして趣味に走ってる(大汗)
ああ楽しい・・・・・(←ヤケ)