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正義の味方B

誰だろう・・・と行久は思いながら玄関を開けに行った。

トコトコと行久の後ろを里奈も着いて行く。


「かずき君〜!」
里奈が笑顔になる。
ドアを開けるとそこには少し前幼稚園でさよならした一樹と一樹の母親、宮本紀子が立っていた。
紀子は年齢は30歳。ほっそりしたちょっとお嬢様風の女性だ。なかなかの美人である。

「すみませんね、突然・・・」
紀子は微笑みながら行久を見つめる。

「宮本さん、どうしたんですか?」
行久もこの時点ではさして疑問も持たず普段通りの会話をした。

「いえね、家に帰ったら一樹がどうしても里奈ちゃんと遊びたいって言うもんだから・・・」
紀子のその目は明らかに『家の中に上がらせて下さい』・・・と催促していた。

行久は躊躇した。
里奈を通して幼稚園での保護者との付き合いやご近所とのお付き合いは
母親との接点がほとんどだ。母親・・つまり『女性』だ。
もちろん家に里奈の友達やその母親を呼んだこともたくさんある。
お誕生日会やクリスマス。招待されたりその逆だったり・・・。
行久は母親からのうけが非常に良かった。その優しい性格とどこかほのぼのした雰囲気が
好かれていたのだ。
行久も付き合いを大切にしていた・・・でもたった一つ気をつけていたことがあった。
それは自分の家、もしくは相手の家で、子供がいたとしても母親と2人きりには絶対に
ならないこと。
行久は『男』だからだ。もちろん、行久自身浮気なんかする気は絶対にない。

でも・・・・その状況を誰かに見られた時、中には歪んだ形でしか物事を見ない人間もいる。
だからとても気を使っていたのだ。
付き合いのある母親達もそんな行久の気持ちをなんとなくわかっているようで
気を使ってくれていた。もちろん宮本紀子もその一人なのだが・・・。

行久が数秒考えているうちに一樹が靴を脱いでさっさと家の中へ上がりこんでしまった。
「里奈ちゃん遊ぼー!!」
「うん!!」
里奈と一樹は手をつないで居間の方へ駆け出した。

「里奈・・・・」
行久は心の中で『まずいなぁ・・・』と思い・・・・けれどこれでは紀子を家にあげないわけには
いかない・・・・。
紀子自身が上がりたがっているのがとても良くわかったからだ。
行久は仕方なくスリッパを出し「どうぞ・・・」と言う。
居間へ通しお茶を入れるため台所へ足を運ぶ。

とにかく・・・・何か理由を付けて早々に帰ってもらおう・・・頭の中で作戦を立てながら
紅茶を入れる。子供達には・・・・オレンジジュースを用意する。


紅茶とジュースを居間へ運び机に置く。
子供達は始めは居間で走り回っていたけれどそのうち他の部屋へ駆け出した。


沈黙が続く。紀子は気にする風でもなく優雅に紅茶に口を付ける。
行久も紅茶を飲むが・・・・なんとなく居心地が悪い。

「・・・あの・・・宮本さん・・・買い物は?」
とにかく相手の予定をさりげなく聞き、自分の予定・・・そう、これから買い物に行かなきゃ
行けないんです・・・と言って帰ってもらおうと思った。

「今日も主人・・・残業で夕食は外で済ますと電話があって・・・だから私も
出前でも取ってサボっちゃおうと思いましてね」

ニコっと微笑む紀子。

「ウチは今日ビーフシチューにしようと思ってまして・・・そろそろ買い物に行こうと思って
いたんです」
行久はやんわりと意志を示したつもりだった。
普段の紀子だったら「あら!ごめんなさいね!!」と言って席をたっただろう。
でも
今日の紀子は行久の言葉を聞いても一向に気にせず相変わらずのんびり紅茶を飲んでいる。

行久は小さなため息をつき・・・『しょうがないか・・・』と思った。
まあ・・・自分も少し気を使い過ぎているのかもしれないし・・・行久はそう思い
紅茶を飲む。

「今朝、家の前で琴子さんにお会いしたんですよ」
突然紀子がうつむき加減で話を始めた。
紀子の家は、琴子が通勤に使っている駅の途中にある。
だから琴子もたまに顔を合わせるようだ・・・。最も琴子は紀子のことは知らないが・・・。

「そうですか・・・・」
「いつもスーツに身を包んでかっこよくて・・・・綺麗な奥様ですよね・・・」
琴子への誉め言葉・・・・でも紀子の目は・・・どこか『憎悪』や『嫉妬』・・・のような
色を映していた・・・。

行久は何も言えず紀子の顔を見ていた。
いつもの宮本さんとは違う・・・・。そう思っていた。

紀子は薄笑いを浮かべ話し続ける。
「琴子さんは幸せだわ・・・とても綺麗で自分の好きなお仕事も続けられて
・・・川野さんのような優しい人に愛されて・・・何もかも持っているなんて・・・」
紀子の瞳の奥に・・・真っ黒な闇が映し出される・・・・。
「贅沢よ・・・」
明らかに琴子に対して敵意を向け・・・言った。


行久はそんな紀子を見てさすがに警戒する。

「宮本さん・・・・?」

紀子はゆっくりと立ち上がり座っている行久を見下ろす。

「彼女の幸せが・・・川野さん・・・貴方の存在で成り立っているのなら・・・
貴方を壊してあげる・・・・」



この時点では・・・まだ行久の頭に『悪の手先37号』・・・という言葉は浮かんでいなかった。

ただ・・・その状況を理解できず・・・紀子を見つめていた。

只今PM3:25・・・・。
2001.6.1

(ちょっこっと後書き)
ほんっとに私こーゆー展開・・・・好きだよなぁ・・・・(汗)あはっはははっは・・・そっとしておきましょう。(大汗)
あ、話長くなりそうなので何章とかで区切ることにしました(笑)