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正義の味方A



「かずき君昨日も恐い夢見たんだって」
幼稚園からの帰り道、行久はのんびりと歩きながら里奈の『幼稚園での
出来事報告』を聞くのが日課になっている。

かずき君こと宮本一樹君は里奈と同じ『ひまわり組』の男の子。
里奈の話だと今現在2人は真剣に交際中で将来は結婚の約束もしているそうだ。
・・・もっとも3日前は別の男の子と大恋愛中で駆け落ちの予定も入ってたんだが・・・・・。


家に到着!小さいながらも里奈が生まれた時購入した一軒家。
行久は郵便受けの手紙やら広告やらを取り出し玄関を開ける。
ドアが開くなり里奈は素早く靴を脱ぎ台所に向かって走り出した。

「おやつは手を洗ってからだよー」
行久は靴を脱ぎながら慌てて里奈に声をかける。
今日のおやつはプリン。冷蔵庫にあることを里奈は知っていた。

行久は腕時計を見て時間を確認。
『2時40分か・・・ひと休みしたら早めに買い物へ行こうかな・・・天気悪くなりそうだし・・・』
そんなことを考え、居間へ行き座布団に座った。
隣には既にプリンをほおばりご機嫌な里奈が座っている。
さっき取り出した郵便物をチェックをする。

ふと・・・行久宛の異様な封筒が目に入った・・。

「・・・金色の封筒・・・?」

行久は、その一際派手な金色の封筒を手に取り首をかしげた。
とりあえず開けてみると・・・中から封筒の派手さとはうってかわった、飾り気のない
白い・・・書類のような紙が出てきた。三つ折にされていたその紙を開き
内容を見てみる。

紙はA4サイズの物とB6サイズの物1枚ずつ。


川野行久 様                                 正義の味方管理局

                    『正義の味方』について

拝啓 新緑の候 ますます御清祥のこととお喜び申し上げます。

 このたびは『正義の味方』をこころよくお引き受けいただき、まことにありがたく、
厚くお礼申し上げます。

 さて、突然ではありますが本日そちらに『悪の手先』が出現することとなりましたので
ご多用中恐縮でございますが退治していただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

 つきましては本日の仕事内容に関する指令書を同封いたしましたので
御確認の上速やかな業務の遂行をお願い申し上げます。

敬具


同封書類

1、指令書  1通 




指令書(悪の手先37号の退治)

敵のコードネーム   悪の手先37号
出現日時        5月29日(火)  午後3時〜5時の間
敵の必殺技      悩殺キック
敵の弱点        特売品


確かに今日は5月29日・・・。
何だこれは・・・行久はしばらくその手紙(?)を見つめていた・・・。

「あっ!」
いきなり声を上げた行久に少しビックリした里奈が目をぱちくりさせて言った。
「パパ・・・どうしたの?」
「ああ・・ごめんよ、びっくりさせて・・・」
行久は里奈に謝りながら押入れの中から昨日の老人から渡された
風呂敷包みを取り出す。
畳の上に風呂敷包みを広げ中の物を出す。

『指令は・・・・郵便で送られてくるそうよ』

昨日琴子が言っていた言葉が行久の脳裏をよぎる・・・。

『引き継ぎ書』と書かれた書類に目を通す。

『世界の平和が守られるかは貴方にかかっています。そのことを胸に秘め最後まで戦い抜いて下さい』

世界の平和と言われても・・・・行久は最初に書かれたその言葉に唖然とした。
俺はごく普通の『主夫』だし・・・世界なんて守れるわけがないだろ・・・・
そんなことを考えながら続きを読む。



『貴方の担当地区は東京都○×区△町近辺です。悪の手から○×区△町を
守るのが貴方の使命です』


『世界平和』というスケールの大きな話からいきなり『△町平和』という小さな話になったな・・・
その極端な展開に思わずクスッと笑ってしまう。


『正義の味方セットの取り扱い説明書を熟読しアイテムの使い方を完璧にしておくこと。
さもないと貴方の命に関わります』


「命ねぇ・・・」
アイテムといってもあの赤いマントと・・・・おもちゃのレーザーガン。それに小さなバッジ。
自分の命を守ってくれるとはとても思えない・・・行久は小さなため息を付いた。

『悪の手先の発生日時についてはその都度自宅に指令書が送られてくるので毎日郵便受けの
チェックを怠らないようにして下さい』


・・・送られてきた金色の封筒・・・あれがそうなのか・・・・・・・・。

その『引き継ぎ書』の最後はこんな言葉で締めくくられていた。


『これは貴方自身の戦いでもあるのです。貴方はこの戦いで大切な物を手に入れられる
はずです。どうか最後まで戦い抜いて下さい』









行久はしばらく考え込んだ後、 正義の味方セット取り扱い説明書
を読み始めた。気が付くと行久の横には興味津々、目を輝かせた里奈が座っていて
マントやバッジを見つめていた。

『正義のマントの性能及び使用方法』
ぶつぶつと小声で読んでみる。
「・・・このマントは悪の手先の攻撃「悪の光線」を遮断し身を守ります。
肩にかけご使用ください・・・・・・ねぇ・・・・」

行久は、こんな赤いマント・・・恥かしくて使えるわけがない・・・・・と肩を落とした。

「・・・なお、非常にデリケートな物なので洗濯する時は必ず手洗いで優しく扱って下さい
・・・・・虫食いなどにも細心の注意を払って下さい・・・・ははは・・・」

行久は力なく笑った。
・・・・正義のマントのくせに・・・・虫に負けてどーする・・・・・・・・・・・・。

次に
『正義のレーザーガンの性能及び使用方法』
という項目に目をやる。

「えっと・・・『悪の手先』を撃ち抜き退治する最も重要なアイテム。
引き金を引くと『正義の光線』が発射され・・・・当たれば『悪の手先』もノックアウト!!・・・・
・・・・・・ノックアウトって言われても・・・」

行久はレーザーガンを手で持ち見つめる。どう見たってプラスチックで出来た
子供のおもちゃだよなぁ・・・・・。

「・・・なお、単三電池2本で3発しか撃てないのでなるべく外さないようにして下さい・・・
・・・って、乾電池で動くのか!!これ!!しかも・・・・乾電池って自分で買うのかな・・・・」

行久は軽い眩暈を覚えた・・・・・。たいした正義の味方だ・・・・。

最後に
『正義の味方バッジの性能及び使用方法』
の項目を読む。

「正義の味方バッジは・・・悪の手先がバッジの半径1メートル以内にいる時『敵がいるぞっ!敵がいるぞっ!』
と教えてくれます・・・・・って・・おいおい・・・半径1メートルって・・・そんなめちゃくちゃ近くに寄られてから
教えられたって何の役にも立たないと思うけどな・・・・・・・」

続きを読んで行久はもう笑うしかなかった・・・。

「このバッジは戦闘中のみ『正義の味方管理局』との交信が可能・・・バッジに話し掛ければ
無料で敵に関する貴方の疑問にお答えします。(ただし1戦闘につき1回のみのサービスです。
2回目からは有料となりますのでお気をつけ下さい・・・1回1000円)・・・・・お金取るか?普通・・・」

1000円か・・・1000円も出せないよな・・・家計に響く・・・行久はそう思い・・・
そこでハッとし、クスッと笑う。

「真面目に考えてどうする・・・こんなの何かの冗談だ・・・・きっとそうだ!」

冗談にしては手が込み過ぎているし・・実際変な封筒も来た・・・そう思いながらも
どう考えてもこれが真面目な話とは思えず行久は冗談なのだと思うことに決めた。


行久は自分の気持に区切りをつけ、買い物に行こうかと腰をあげた時
玄関のチャイムが鳴った。

時刻はPM3:00ちょうどだった・・・。
2001.5.30

(ちょこっと後書き)
あ〜・・・文章等変でも見逃して下さい・・・(汗)特に送られて来た書類の文章。
どうか・・・・おかしくても笑って見逃して下さい・・・(懇願)
しかし・・・きっとこれ長くなるなぁ・・・・・。