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川野里奈。まあるい大きな瞳にやわらかそうなホッペ。ちょとクセのある長い髪を
二つに高い位置で結わくと可愛い感じでまとまる。小柄な色白の女の子。
川野家のお姫様。そのお姫様が悩んでいた。




「里奈・・・おやつ食べないの?」

幼稚園から帰って来て、いつもだったら
真っ先に「おやつは?」と騒ぐ里奈が今日は帰るなり
自分の部屋に閉じこもってしまった。

変なのはそれだけでなく、幼稚園から家までの帰り道、里奈は黙ったまま行久と
口をきかないでいた。

心配して様子を見に来た行久に里奈は言った。




「パパなんかきらい」





正義の味方

第3章
パパは正義の味方



「・・・・で、そんなに落ち込んでいるわけね・・・」
琴子は麻婆豆腐を食べながら言った。
本日も残業で琴子が会社から帰ってきたのはPM10:00をまわっていた。
玄関にお出迎えに来た行久の顔が、もんのすごく暗かったので
ビックリしてしまった琴子。





お茶を入れながらため息を付き、死にそうな顔をして行久は言った。
「・・・嫌いって言われてしまったんです・・・・」

デザートの杏仁豆腐を口に運びながら琴子は行久の話を聞いていた。

「今日の朝、幼稚園に行く時は普通だったんです・・・。なのに幼稚園終わってから・・・一言も
まともに口をきいてくれないんです・・・理由を聞いても何も言ってくれなくて・・・
さっき寝付くまで結局そんな状態で・・・・どうしよう・・・琴子さん・・・」
行久にとっては里奈に「嫌い」と言われるのは『この世の終わり』と同じなんだろう。


琴子はお茶をひと口飲み、言った。
「幼稚園で何かあったんじゃないのかしら・・・」
「何かって・・・・何が・・・?」
行久は琴子をすがるような目で見つめた。
「・・・明日の朝私が聞いてみるわよ。だからそんなに思いつめないで・・・ね!」
琴子は微笑みながら言った。
行久はため息をつき「お願いします・・・」と小さく呟いた。








朝の食卓、里奈は朝食を無言で食べ行久も無言で見守っていた。
気まずい朝食風景・・・・・・そこへ琴子登場。

「おはよう〜」
「琴子さん、おはようございます」
行久はきごちなく笑う。

琴子は席に着き真向かいにいる里奈を見た。
「里奈・・・おはようは?」
里奈は小声で「おはよう・・・ママ」と言った。
「ねえ・・・里奈・・・・昨日幼稚園で何があったの?」
牛乳を飲もうとしていた里奈・・・手を止めた。
「なにもないよ」
「じゃあどうしてパパのこと嫌いって言ったの?」
いきなり核心に触れた琴子を緊張した表情で行久は見つめた。

里奈は思いつめた顔をして言った。
「どうしてもきらいなの!!パパとようちえんも行きたくない!!」
そう言ったきり口を噤んでしまった。琴子はふぅ・・・とため息を付き、
行久はショックでお盆を落としてしまった・・・・・・・。








「じゃあ・・・行ってくるわね」
玄関で琴子と里奈を見送る行久。
結局琴子が幼稚園まで送ることになった。
「行ってらっしゃい。琴子さん。里奈」
里奈はうつむいたまま何も答えない。
行久はそんな里奈を見て寂しそうに微笑んだ。












幼稚園までの道のり・・・里奈はずっとうつむいたままだった。

琴子は幼稚園の門の前で里奈と別れる時に言った。
「里奈。心に嘘付いてると・・・辛いよ」
そして里奈の頭を撫でた。
先生の所へ走っていく里奈に手を振り姿が見えなくなるまで見守った。










お昼。お弁当の時間。
みんな嬉しそうにお弁当を開ける。
里奈もお気に入りのお弁当箱を開けた。
小さなハンバーグとプチトマト。ご飯の上にはのりとでんぶでかわいいウサギの絵が描いてあった。
あとは厚焼き玉子とウインナ-。
お弁当にはいつも里奈の大好きな厚焼き玉子とタコさんウインナ-が必ず入っている。
行久に酷いことを言った今日も変わりなく入っていた・・・。


タコさんウインナ-を口に入れ・・・里奈の目から大きな涙がこぼれた・・・。




里奈の心は砂場で遊んでも歌を歌ってもかくれんぼしても・・・晴れなかった。
大好きなお絵かきをしても・・・胸が痛い・・・。

教室でスケッチブックに絵を描いていた里奈に男の子が近づいた。
里奈と同じひまわり組の男の子。里奈と同じくらい小柄で、とても賢そうな顔をしている。
いきなり里奈のスケッチブックを取り上げて、からかうように言った。

「今日もパパに連れてきてもらったのかよ!!」
「ちがうもん!!今日はママだもん!!」
「ウソだぁ〜!!お前のパパ、働いてないんだろ〜!!」
「はたらいてるもん!!里奈のお弁当作ってくれるもん!お洗濯もしてるもん!」
「かっこわりー!それはママがすることだぜ〜!女みて〜!」
里奈はそれ以上言葉が出てこなくて代わりに涙が零れ落ちた。
男の子はさすがに里奈を泣かせてしまったのはまずいと思ったらしく
スケッチブックを放り投げ外へ逃げ出した。

床に落ちたスケッチブック。
その側で里奈は声を殺して泣いていた。
2001.6.20

(ちょこっと後書き)里奈頑張れの第3章なのだ!(笑)実は里奈がお気に入りだったりしてます(笑)
でもこれ書いてて私の胸が痛んだぞ!!・・・頑張れ里奈なのだ!!