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正義の味方F


猿渡は琴子の肩を掴み言った。
「川野さんは・・・・悪の光線をあびたのかもしれません・・・・」


行久に詰め寄っていた琴子、その言葉を聞き猿渡の顔を見る。
「・・・・悪の・・・光線・・・」
琴子の顔は不安で強張っていた。

「・・・悪の光線を受けると・・・どうなるの?」
琴子は恐る恐る聞いた。猿渡は少しの沈黙の後重い口を開いた・・・。

「・・・良くわからないんです」
「?どうして?」
「前例が無いからです・・・」

そう。悪の光線に撃たれた『正義の味方』は行久が記念すべき第一号なのだ。
そんなヘマをした正義の味方は今までいなかったというわけだ。
でも今回の場合行久に罪はなかろう・・・・。

猿渡は言葉を慎重に選びながら話を進めた。
「ただ・・・今まで『悪の手先』が言ってきた言葉をもとに作られた資料の中に、悪の光線を受けた正義の味方は
心を奪われ、『悪の手先』の手先になる・・・・と記されています・・・」

琴子は目を見開き・・・震える声で言った。
「・・・心を奪い返す方法は?」

猿渡はうつむきながら言った。

「・・・・わかりません・・・」

琴子は『信じられない!!』というような目で猿渡を睨み、ゆっくり行久の方へ
視線を戻す。
「行久・・・・」

琴子の目に涙がたまり・・・それは大きな雫となって地面に落ちた・・・・・。













『・・・・・・誰?』

心の底で今にも消えそうになっていた行久は・・・・誰かが泣いている気配を感じた。

『誰が泣いてるの?』

段々強くなる・・・誰かが悲しんでいる気配・・・・・。




『・・・・・・・泣いちゃダメだ・・・・』






手作りのケーキ、ローストビーフ、ワイン・・・・・・イチゴ
たくさんの言葉が過ぎる・・・・

「今夜はパーティーですよ!!」






『そうだ・・パーティー・・・』





なのに・・・・泣いちゃいけない人が泣いてる・・・・・・・
1番泣いてはいけない人が泣いている・・・・





ダメだ!!




ぱぁん!!

何かが弾けた。

行久の心が束縛を弾き飛ばし自由になった!!














「・・・・・・・・・あ・・・あれ?」
我に返った行久の目に飛び込んできたのは
すっかり日も暮れて暗くなった道路で立っている自分と、自分を囲むように大泣きする琴子と里奈、
バッジを貸してあげた少年と・・・見知らぬ若い男。

公道で全員大泣きしていた。

行久はわけがわからず頭をかきながら遠慮がちに言った。
「あのぅ・・・・・いったい・・・・何があったんですか?・・・・・・琴子さん・・・?」


行久のその声に琴子はハッとし、両手で行久の頬に触れる・・・・。
食い入るように行久を見つめて言った。
「行久・・・私のことわかるの?」
行久はキョトンとしながら言った。
「・・・琴子さんでしょう?」

その言葉を聞いた琴子、がばっ!と行久に抱きついた。
「・・・行久・・・・・行久〜!!!」
里奈もいつもの行久に戻ったのを肌で感じてぴょこんっと飛びついた。
「パパ〜!!」

あまりにもきつく抱きしめられて苦しげに咳込みながら言った。
「いったい・・・何があったんですか?」
行久には悪の光線で撃たれた後の記憶がまったくなく、目覚めたと思ったらいきなり
この状態で・・・・困惑していた。

ホッとした安心感から更に大泣きしていた猿渡がようやくその状態に気が付き
説明を始めた。
「川野さん、貴方は悪の手先が放つ悪の光線に撃たれたんだと思われます・・・・・」
「え?・・・だって・・・指令書来てないから・・・悪の手先は出ないはず・・・・」
「すみません!!それについては後で何度でも謝りますから今は悪の手先を退治することだけを
考えて下さい!!」
猿渡は家を出る時琴子からあずかった行久の正義の味方セットの風呂敷を鞄の中から取り出し
手渡す。行久はぎこちなく受け取り・・・不思議そうに言った。
「・・・・あなたいったい誰なんですか?」
「正義の味方管理局の猿渡です」
行久は瞬きを2〜3度して言った。
「ああ・・・○×区担当の・・・・・」
猿渡は小さく笑いながら頷いた。

行久は首をかしげて聞いた。
「でも悪の手先って・・・・いったい・・誰なんですか?」

猿渡は側で泣いていた一郎の頭を撫でながら言った。
「この子のお父さんと思われます・・・・」

一郎は猿渡をキっと睨み「父ちゃんは悪の手先じゃない!父ちゃんは優しいんだ!」と
抗議した。
「今だって父ちゃん苦しんでる・・・『何か』と戦っているんだ!
・・・・苦しんでるのに俺におじちゃんと逃げろって言ったんだ・・・」

ポロポロ涙をこぼしてそう訴える一郎。

その『何か』とは悪の手先だな・・・・行久と猿渡はそう思った。
悪の手先と心の中で戦っているんだ。

「・・・琴子さん、ちょっとすみません・・・里奈もちょっと待っててね・・・」
そういって抱きついていた琴子と里奈をそっと自分の体から離した。
状況はわからなかったが一郎の気持ちは痛いほど伝わってくる。
一郎の側に行き、しゃがんで目線を合わせて言った。
「お父さんは悪い奴に操られていただけだから・・・・すぐに元の優しいお父さんに戻るよ」
ふわっ・・・・・・と微笑んだ行久。その笑顔を見て一郎は目を見開いた。

行久は立ち上がりマントを身につけ正義のレーザーガンを手に持って、猿渡に言った。
「で、どこにいるんです?」
「あ、そこのアパートの2階。奥の部屋にいると思われます」
「父ちゃん部屋で苦しんでるんだ!!助けて・・・・・」



一郎の必死な眼差しに行久は笑顔で答えた。

悪の手先と戦う一郎の父。

「・・・君のお父さんは強い・・・・・」
心の中で『俺なんかよりずっと・・・・』と付け加える。
「だから・・・大丈夫!」
そう言って行久はアパートの階段をゆっくり上がる。














源二と悪の手先48号は源二の心の中で激しい戦いをしていた。
体が2つに裂けてしまいそうな痛みに耐えながら源二は必死で戦っていた。
床にうずくまり痛さに耐えていた。






「・・・あなただったんですか・・・・・・」


源二はその声の主に目線を合わせた。
玄関で行久がレーザーガンを構えて立っていた。




悪の手先48号が声にならない悲鳴を上げた。
抵抗しようにも源二が邪魔してどうにもならない。


源二は苦しそうに、でもはっきりとした口調で言った。
「・・・・あなたの好きなようにして下さい・・・・・すみませんでした・・・・・」




行久は静かにレーザーガンを源二に向けて・・・・・・引き金を引いた。
































「一郎!!」
「父ちゃん!!」
ひしっ・・・・と抱き合う親子。
悪の手先48号はめでたく退治された。


狭いアパートに合計6人が集まりこの感動の名場面を作り上げていた。

猿渡が思い出したように行久の前に来て深々と頭を下げた。
「すみません・・・私が指令書を投函し忘れたためにあなたを危険な目に合わせました・・・」
行久はクスッと笑いのんきに言った。
「なんだ。そういうことだったのかぁ・・・・・・・次から気をつけて下さ・・・」
「次はないわよ!!」
行久の言葉を遮るように琴子が言った。
明らかに怒っている。
行久と猿渡の間に割って入り猿渡を睨みながら言った。

「もう行久に『正義の味方』なんかさせない!!」
猿渡は真っ青になって琴子を見た。
「そ・・・・そんな・・・!!困ります!!」
「あなたが困ろうとどうしようと関係ない!!こんな危険なこと行久にさせられない!」
猿渡が涙目になってきた時、行久が後ろから琴子の肩をポンポンと軽く叩いた。
後ろを振り返った琴子に行久は微笑みながら言った。
「琴子さん。いいんです。『正義の味方』続けますよ・・・俺」
行久のその言葉に猿渡の顔はパッと明るくなり、逆に琴子の顔は曇った。
「でも・・・行久・・・・」

行久はゆっくりと言った。
「・・・やらなきゃいけないような気がするんです・・・・・自分のためにも・・・・・・」



行久には・・・この『正義の味方』の仕事がとても大切なことのように思えてならなかった。











『きゅるるるるるるぅ・・・・・・』

突然鳴り響いた間の抜ける音。
全員がこの音の方に視線を向けた。
音の主の・・・・里奈がすこおし赤くなって言った。
「パパ〜・・・・・・・おなかすいたぁ・・・・・」









それから源二のアパートでみんなで夕食を食べた。
作りかけだった夕食メニューを行久が速攻で仕上げたのだった。

初めて行久の料理を口にした猿渡・・・その美味しさに泣いて感動していた。



そうして夕食を終え
帰り際「そうだ!あれ返さないと・・・・」と、一郎が突然思い出し、押入れの奥を探り出した。
何かを手にし行久に手渡す。

「ごめんなさい・・・・」
一郎の言葉と共に『正義の味方バッジ』が行久の元へ帰ってきた。


















家に戻った琴子と行久は居間で仲良くお茶していた。
琴子は隣に座っている行久の肩に軽く頭をあずけていた。

「里奈・・・あっという間に寝てしまいましたね・・・」
ベッドに入るなり里奈は熟睡してしまったのだ。
行久がいなかった間よく眠れなかったからだ・・・。



「結局正義の味方管理局のこととか何も白状させられなかったわ・・・」
琴子はため息を付きながら言った。
猿渡は夕食の後逃げるように帰ってしまったのだ。
「まあ、いいじゃないですか・・・」
行久はのんびりと緑茶を飲みながら言った。
そんなのん気な行久を見ながら・・・これからも今回みたいなことが起こって
また心配したりするのかしら・・・・・と頭を抱える琴子であった。



「あっ!!そうだ!!」
その声に琴子がビックリして頭を起こす。
「琴子さんに渡さなきゃ!!」
行久がそう言い押入れの中から綺麗にラッピングされた小さな箱を取り出した。
ニッコリと笑って琴子に差し出す。
「お誕生日おめでとうございます!!・・・1日遅れですけど・・・」
「・・プレゼントか・・・そっか私昨日誕生日だったんだもんね・・・・」
琴子はクスッと笑いながら受け取った。
中を開けると・・・・綺麗なイヤリングが入っていた。

「綺麗ね・・・」
「里奈と俺で選んだんです」
「高かったでしょう?」
「家計節約して少しずつ貯めてましたから!」

琴子はイヤリングをつけてみた。
「どう?似合う?」
行久はこの上なく幸せそうな笑顔で言った。
「はい。とっても!」

琴子はそんな行久を見て・・・・その笑顔が1番のプレゼントだわ・・・・・と思った。





「ねぇ・・・・行久・・・・・もう1つ欲しい物があるんだけど・・・・・」
行久の顔を覗き込みながら琴子が微笑んだ。
「何が欲しいんですか?」
きょとんとして琴子を見る行久。
本当に、どうしてこんなにも・・・・・愛しいのだろう・・・。
そう思いながら行久に口付けする琴子。

「行久が欲しい」






















大好きだから嫉妬してしまう。

大好きだから不安になる。

誰よりも信じているのに・・・・口から出る言葉は保証を求めるものばかり・・・。

昔はそんな感情わからなかった。

そんな感情醜いものだと思っていた。

でも今は・・・少し・・・・わかる気がする・・・。

琴子はぼんやり・・・・考えていた。
2001.6.20 第2章(終)
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(ちょこっと後書き)・・・2章は真面目でしたね(笑)さて、次は第3章!
『パパは正義の味方』です(笑)・・・里奈、たくさん出ます(笑)