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正義の味方C

朝食が終わり一郎はランドセルを背負い靴をはく。
玄関で振り返り台所で後片付けを始めた行久を見た・・・。


『学校から帰って来るまで・・・・いてくれるかな・・・・』
一郎は行久の存在を不安に思いながらも・・・・・・ずっといて欲しいとも
思っていた・・・・。








「いいか!1日1悪!必ず実行しろよ!!」
買い物へ行きたいと言う行久に
源二・・・・いや、『悪の手先48号』はこう命令した。


しかし、買い物から帰ってきた行久の報告を聞いて・・・・落胆した。


「お一人様1点限りだった安売りの鰹節2袋買ってきました」

悪の手先48号は丸めた新聞紙で行久の頭をパコンと叩き、
『だめだ・・・こいつ・・・役に立たない・・・』とため息を付いた。


天気が良いので布団を干し始めた行久を悪の手先48号はじっと見つめながら
『邪魔だから消してしまおうか・・・・』とイライラしながら考えた。
邪魔だから・・という理由だけでなく・・・深刻な胸の痛みを感じていたのだ。

行久を見ていると、体を乗っ取り封じ込めているはずの源二の心が暴れるのだ・・・・。
悪の手先48号が行久に危害を加えようと思うと・・・・源二の心が叫ぶのだ。

『そいつに手を出すな!!』
同時に感じる胸の痛み・・・・。

乗っ取ったはずの体なのにこんなことはあるはずない!!・・・悪の手先48号は焦っていた。

行久といる時間が長くなるほど痛む。
悪の手先48号は胸をおさえ源二の心と戦っていた。
『源二・・・・・お前が望んだことだろう!!!』














『お前なんかいらない』
『お前なんか誰も助けられない』

悪の光線を受けた行久の心・・・・・。
消滅してしまったかと思われたが・・・・行久の心の奥底に小さくうずくまっていた。
支配された心の隅で子供の頃の行久が小さくなって震えている。
完全に囚われ責められて今にも消滅させられそうな行久自身。

『そうだ・・ぼくは弱虫だから誰も救えない・・・・』
子供の行久・・・泣きながら声を絞り出す・・・。
『・・・・なら・・・せめて誰も傷つかないで・・・
ぼくを消してもいいから・・・・』











小さな子供だった頃行久は不注意からやかんの熱湯を母の足にかけてしまった。
母の手伝いをしようとしての事故。
苦痛に歪む母の顔。
母は最初足の痛みで泣いていたが真っ青な顔で立ち尽くしていた
行久に気が付くと無理に笑って『大丈夫だから・・・』と言った・・・。
父が車で母を病院に連れて行き、行久は祖母と家で待っていた。
小さな行久の小さな心は凍り付いていた。母の苦しむ顔を見て、その原因が自分にある・・・・
悲しい・・・・というより恐怖を感じていた。大好きな母を苦しめてしまった恐怖。
しばらく泣くことも眠ることも出来なかった・・・・・。

その出来事は行久の心の奥に刻み付けられていた。



『優しい子』『気弱な子』『内気な子』『意気地なし』
行久に対しいろんな人が色んなことを言った。


行久は小学校の時少しの間いじめられた経験を持つ。
大人しくて無口な行久がたまたま的になったらしい。
時々痛い目にもあったけれど行久は一切やり返さなかった・・・・・・。

ある日転校生がやって来た。明るくて元気な男の子だった。
彼はみんなともすぐに打ち解けて行久にも気軽に声をかけてくれて
友達になった。
行久はすごく嬉しかった。同時に行久の性格とはかけ離れた
自由奔放な彼に憧れもした。
・・・でもしばらくすると彼が行久と仲良くしているのを良く思わない人間が出てきた。
気が付いたらみんなが、いじめの矛先を彼に向け始めていた。
行久は彼から離れて行った。自分の方から離れて行ったのだ。
彼も半分は悲しそうに・・・そして半分は安心したように行久と離れた。


そして前のような毎日に戻り・・・・・。

行久は寂しかったけれどホッとしている自分に気が付いた。


誰もいない時を見計らって一度だけ彼が行久に話し掛けてきた。
思いつめた顔で『ごめんね・・・』
行久にそう言った。


行久はそう言われた時・・・・困惑した。
その時は自分の気持がわからず・・・ただ自分がとても嫌だった。



「優しい人」とよく言われた。
その言葉を言われる度に心の中で否定した。

『自分は優しいわけではなく、自分が傷つきたくないだけなんだ・・・』
行久はそんな自分の中の感情を嫌悪していた。





『いつからだろう・・・・真っ先に諦めることを選んでしまう・・・こんな自分になったのは』
行久は時折ぼんやりと考えた。





行久の気持ちと琴子の気持ち。
お互い1番脆くて弱い部分を・・・・・・・・知らずにいた。
































「ただいま!!」

学校が終わるなり一郎は駆け足で帰って来た。
ちょうど行久は洗濯物をたたんでいるところだった。
その姿が目に入ると一郎はホッとし微笑んだ。


源二の姿は見当らなかった。
靴を脱ぎ部屋に上がるとテーブルの上にチーズケーキが乗っていた。

「わぁ・・・ねえ、これ手作り?」
行久は無言で小さく頷いた。

一郎は手を洗いチーズケーキを切り分けて行久と自分の分をお皿に乗せた。

「ねえ、おやつにしようよ!!」
そう言われた行久は洗濯物をたたむのを中断し紅茶を入れた。


2人でケーキを食べながらの会話。会話というより
一郎が一方的に学校での出来事や宿題のことなんかを話していた。

一郎が本当に話したいことはそんなことではなくて・・・・
ケーキを食べる手を止め言った。
「・・・・・父ちゃんは?」
「散歩に行くと言って出て行かれました。しばらく戻らないと思います」
「ふーん・・・」
沈黙が続き・・・・一郎がうつむきながら言った。
「ねえ・・・・父ちゃんがおじちゃんに何か酷いことしたんなら・・・おれが謝るから・・・」
行久は無表情のまま一郎を見つめる。




「だから・・・・・お願い・・・笑ってよ・・・」
2001.6.13

(ちょこっと後書き)・・・・ああ・・・・ややこしい!!行久と琴子の気持ちは少しずつ書いていきます。
ラストまでのお話、だいたい考えが固まりました(笑)5章で終わらせます。ああ・・・早くラストが
書きたいな〜(笑)最後まで地元密着型正義の味方だ。