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正義の味方

第一章
正義の味方誕生


今、一人の『正義の味方』が誕生しようとしていた。

東京都○×区△町4丁目に『川野行久』という男が住んでいる。

川野行久 31歳 家族構成は・・・妻 琴子 40歳 娘 里奈 5歳 の3人暮らし。
彼の職業は『専業主夫』!

妻の琴子は行久の元上司。
琴子は行久が入社して配属になった部署の係長だった。

行久は穏やかで争いごとを好まない。ちょっと頼りないけれど優しい男だ。
外見もその性格がにじみ出ている。
一方琴子はバリバリのキャリアウーマンで性格もそこいらの男に負けないくらい勇ましく
曲がったことと負けることが大嫌い。ついでに美人だった・・・。

そんな2人が結婚するに至ったのは行久が入社して2年目の忘年会、酔うと暴れる琴子の
御世話係りを(琴子自身に強引に)任命され、酔った彼女を送って行ったはいいが、無理やり自宅に
連れ込まれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・夜明けのコーヒーなんぞを飲んでしまった。
朝、琴子より早起きした行久は朝ご飯の用意をし・・・・その行久の作ったお味噌汁を
飲んだ琴子が言った。『この味!気に入った!!一生私に作り続けてちょうだい!』・・・と。
琴子からのプロポーズ。
行久はビックリはしたものの・・・・その申し出を受け入れた。(断れるような雰囲気でもなかったのだが・・・・)

琴子は行久のことが好きだった。行久も半ば襲われた形であったにせよ、もともと
琴子に憧れていた。・・・要するに相思相愛だったのだ。



2人は結婚し娘の里奈が生まれ・・・出世街道まっしぐら!その時は課長に昇進していた仕事が
大好きな琴子が会社に残り・・・
琴子の希望で行久は会社を辞め『主夫』になった。
行久は料理するのが好きな方だったので自分もそれで良いと思っていた。











「今日は里奈の好きなハンバーグだよ」
「うん!!」
PM4:30・・・行久は里奈の手を引きスーパーで買い物。
今日は確かキャベツが特売だったはず・・・などと考えながら店内を歩く行久。
その時里奈が行久の手から離れ店内の隅にある休憩所の方へ駆け出した。
「里奈ぁ!!迷子になるよぉ!」
行久も慌てて後を追う。
里奈は休憩所のベンチに力なく座っている一人の老人の前で立ち止まり
じっと見つめていた。

里奈の元へたどり着いた行久、その老人を見て・・・・具合でも悪いのかと思い
声をかけた。

「大丈夫ですか・・・?具合悪いんですか?」

声をかけられた老人・・・ゆっくりと顔を上げ・・・・行久を見て目を見開いた。


「見つけた・・・!」
老人はいきなり立ち上がり行久にしがみついて来た!
行久はビックリして動けなくなる。
「やっと見つけた・・・・」
老人のわけのわからない言葉・・・・行久はやっとの思いで声を出す。
「あ・・・あの・・・何ですか?見つけたって・・・何を・・・」


老人は半泣き状態でベンチに置いてあった薄汚れた風呂敷包みを行久に手渡した。
「何ですか?この風呂敷・・・・」
行久は首をかしげ老人を見つめる。
老人はニッコリ笑って
「これで世界は救われる」
そう言って行久の脇をすり抜け歩き出した。
「ちょっと・・・!これ・・・・」
行久は振り返り、何の説明もせずに立ち去ろうとする老人を
引きとめようとしたが・・・・既に老人の姿は人ごみに消えていた・・・・・・・・。














「・・・・で?そのわけのわからない風呂敷包み・・・もって帰ってきたの?」
琴子は残業を終えPM9:00過ぎに帰宅。
ビールなんぞを飲みながら行久特製ハンバーグを食べている。

「はい・・・・・落し物として届けようとも思ったけれど・・・・」
行久は琴子にビールを注ぎながら言う。
「・・・中は開けてみたの?」
「いえ・・・まだ開けてないです・・・なんとなく気味が悪くて・・・」

琴子は、だったら持って帰ってこなきゃ良いのに・・・と思いはしたが・・・たぶん行久は
その老人から預かったというような責任を感じているのだろう・・・・ということもわかっていた。
「とりあえず開けてみれば?」

「・・・そうですね・・・」



行久は琴子に敬語を使う。会社にいた頃と今も変わらず。
その理由を琴子は聞いたことがあったがその答えは「その方が自然」・・・だからだそうだ。



行久は少し緊張気味に風呂敷の結び目に手をかける。
ゆっくりと開けて・・・・・・・・中から出てきたのは・・・・・。



正義の味方セット

取り扱い説明書




・・・と書かれた本・・・。
それと『引き継ぎ書』と書かれたA4版の書類。
後は・・・・・赤いマントみたいな物と・・・・おもちゃのレーザーガンのような物。
それと『正義の味方』・・・と書かれた小さなバッジ・・・。




「何だろう・・・・これは・・・・」
行久は呆然と・・・出てきた物を見つめた・・・。
いつの間にか琴子も夕飯を中断し行久の隣に座り、取り扱い説明書を読み始めている。

「・・・説明書によるとそのマント・・・悪の光線から身を守ってくれるみたいよ」
「じゃあこのレーザーガンは?」
「悪の心を撃ち抜くらしいわ・・・」
「・・・悪って?・・・誰のことなんですか?」

琴子は今度は『引き継ぎ書』を見て言った。
「指令は・・・・郵便で送られてくるそうよ」
「指令って・・・?何なんでしょうか・・・?」

琴子はふぅ・・・とため息を付き、言った。
「どうせおもちゃでしょ?・・・きっとその老人、里奈を見てそれをくれたんじゃないの?」
琴子は食卓につき再び夕食を食べ始める。


そんな琴子を見て『きっと考えるのが面倒になったんだな・・・』と行久は思った。
あの老人の様子を思い出す・・・・とても里奈におもちゃをあげたような雰囲気ではなかった。
老人の目には俺しか入ってなかったもんな・・・・行久はそう疑問に思いながらも
これ以上考えてもしょうがないと見切りをつけ、出したものを風呂敷に包みなおし
押入れにしまった。







そして次の日・・・行久宛に金色の封筒に入った1通の手紙が届いた。
2001.5.28