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いつでも側にいてくれた
私の喜びも怒りも悲しみも・・・いつも側で受け止めてくれた
私の言葉を聞いてくれた
あなたは私の大切な・・・・・・


best friend
(最終回)


もし、もっと違う出会い方をしていたら2人は違う関係を築けたかもしれない。
でも、「もし」なんて世界・・・・どこにも存在しない。

楓にとって秀は・・・いつも側にいた幼馴染。
ありのままの自分でいられる親友。
・・・・・『友達』とか『親友』とか・・・言葉では表せないほど近くにいた存在。
心の一部。


秀は自分の腕の中で泣き続ける楓を想いながら・・・言われる前に気持ちがわかってしまうのって
辛いよな・・・・と苦笑いした。



そのまま・・・楓が泣き止むまでずっと抱きしめていた。
















病院の正面玄関で水沼は楓を待っていた。
立ったまま、通り過ぎる人の中に楓の姿を探す・・・。




紅葉は明日秀に会いに来ると言って帰って行った。


水沼は・・・ずっと楓を待っていた。


『こんなに自分が堪え性がないとは知らなかった・・・』水沼は苦笑いした。

ちょうどその時。
「水沼さん・・・?」
楓の声。

水沼は顔を上げた。

そこには
かなり泣いたのであろう・・・目を赤くした楓が立っていた・・・。
水沼の姿が楓の瞳に映る。
楓は微笑んだ・・・。








駐車場の車の中。
楓はポツリと言った。

「・・・・もし水沼さんと秀が崖から落ちそうになっていたら・・・・・私はどちらを助けるだろう・・・・」

水沼は・・・何も言わず静かに楓の言葉に耳を傾けた。

「・・・わからないの・・・・どちらを助けるか・・・・・答えられないの・・・・」

ぼんやりと前を見つめたまま・・・楓は言葉を繰り返す・・・。

「わからないの・・・・」


「2人とも助けてくれよ」
水沼の言葉。
楓は目を見開き水沼を見た。

「お前だったら2人とも助けられる。それでいいじゃないか」
そう言って笑う。

楓は水沼の言葉に・・・・クスッと笑った。
「・・・名案ですね・・・・」



そして・・・楓はうつむいた。
「・・・・・愛している『男性』は誰ですかって聞かれれば迷わず答えられます。
それは水沼さんだと答えられます・・・・・でも」

水沼は優しげな眼差しで楓を見守っている。
楓はそんな水沼の視線を感じならが言葉を続ける。

「でも・・・・水沼さんと秀・・・・どちらが大切かって聞かれたら・・・・答えられません・・・・・」
「楓・・・」
「答えられないんです・・・・」
楓の頬を涙が伝う・・・。


水沼は思い切り楓を抱きしめた。
「答えなくていいから」
楓は泣きながら水沼のことを呼び続けた。
「水沼さん・・・愛してます・・・・貴方のことが大好きです・・・・」
震える声で何度も繰り返す・・・。
「わかってる・・・わかってるから・・・」
水沼の声はとても優しくて・・・・。
楓はそのまま水沼の温かさに抱かれていた。



私はどれくらい秀に助けられてきたのだろう。
どれくらい秀のことを傷付けてきたのだろう・・・・。
いつも私を包んでくれていた秀の優しさ・・・。
秀を想うと心が痛む・・・・・。
楓にとってこの痛みは・・・
外すことの出来ない優しい足枷。



















楓の去った病室。
秀はベッドに腰掛けて窓の外を見つめていた。


『秀・・・・・大好き・・・』


楓の言葉。


『こんなに大好きなのに・・・・水沼さんと同じくらい大切だと思っているのに・・・・』


泣きながら楓が言った言葉。


「やっぱり俺の居場所は出会った時から決まってた・・・・・指定席だったんだな」
秀は呟いた・・・・。

楓の心の中にある指定席。
そこに座れるのは秀だけ。
楓の心の中にいるたった一人の『親友』


初めて会った時の楓の笑顔。
友達に裏切られ辛そうに泣く楓の泣き顔。
信じた人が去っていき傷つき涙を落とす楓の寂しそうな姿。
大好きな人を見つめる幸せそうな楓の瞳。

秀の心の中にいる楓。




・・・・好きだった・・・・。






「・・・今すぐには無理だけど・・・・」


・・・・・いつか2人は親友になれるだろう。
時が経って・・・・・この胸の痛みが消える頃。
・・・・本当の『親友』になれる時が来るだろう。
秀は・・・素直にそう思った・・・。

秀も楓もお互いのことをこんなにも大切に思っているのだから・・・・。






雲の隙間から太陽が顔を出して
窓から光が降り注いだ。


優しい日だまりが秀を包む。



「天気予報・・・当たったな。紅葉」


















紅葉はこの日秀と楓がどんな話をしたのか知らない。
あえて聞こうとも知ろうともしなかった。
知っても知らなくても同じことだから・・・。
紅葉の決心は変わらないから・・・。


次の日・・・。
紅葉が病室に顔を出した時秀は寝ていた。

お昼ご飯の後、本を読んでいた秀はいつのまにか寝てしまっていた。

紅葉は秀を起こさないようにそっと近付き、側のイスに座る。

胸の所にページが開いたままで乗っかっていた本を閉じ、枕もとに置く。

「・・・気持ち良さそうに寝てるなぁ・・・・」
紅葉はクスクス笑う。
ちょっとやそっとじゃ起きそうにない穏やかな寝顔。
そんな秀の顔を見れるのが嬉しくて。


紅葉はバッグの中からキーホルダーを取り出す。
飾りの犬が紅葉の手の平にちょこんと乗る。
綺麗にしようと拭いたけれどやっぱり犬の姿は薄汚れていた。
・・・紅葉にとってこの犬は秀そのもの。
いつも元気付けてくれた・・・紅葉のヒーローだ。
布団の上に投げ出されていた秀の右手をキーホルダーと一緒にそっと握る。
紅葉の大好きな手。

「目が覚めたら・・・・言うね」
キーホルダーを見つけてくれたお礼。
そして紅葉の想い・・・。

「秀の手・・・あったかいね・・・・」
目が覚める時まで・・・・
紅葉は秀の手をずっと握っていた・・・。




紅葉に包まれた秀の手。



















夢の中

あったかいな・・・・

誰かが俺の手を握ってる・・・

誰だろう・・・

あの時と一緒だ・・・・・

俺のことを呼び続けていた声

暗闇の中・・・寒さで震える俺の手をずっと包み込んでくれていた・・・・・

温かくて・・・・・あの時と同じぬくもり・・・

とても心地よくて・・・・・このまましばらくまどろんでいたい・・・・

もう少し・・・・・・もう少しで起きるから

もう少しだけ眠ったら・・・きっと目を覚ますから・・・・

だからどこへも行かないで

その手を離さないで

もう少しだけそのまま側にいて・・・・・・・・



2001.8.16   END