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ホントの気持ちD

「俺ここにいるとまずいだろ。先に帰ってるよ。」
タクシーがすぐそこまで来た時、カー助はそう言って飛んで行ってしまった。
優子はカー助が見えなくなるまで手を振っていた。
「カラスさんいっちゃったね。」
「うん・・・。」

<何だかカー助機嫌が悪いな・・・>
健太郎はその理由をわかっていた。






タクシーが止まり咲子が降りて、健太郎と優子の元へ駆け寄る。
「優子!!」

健太郎はおぶっていた優子を降ろす。

優子は駆け出して咲子に飛びつく。


「何やってたの。心配するじゃない!!」
優子ぎゅっとを抱きしめる。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
優子は泣き出していた。

健太郎はそっと近付き、咲子に、先ほど優子から預かっていた傘を見せた。

「傘を届けようとして迷ってしまったそうです。」

それを聞いた咲子・・・もう一度愛しそうに我が子を抱きしめた。

「ありがとう・・・。でもこれからは黙ってお外に出ないでね・・・。」
「はい。ごめんなさい・・・。」
咲子の言葉に優子は何度も頷いた。







知らせを受けて、敏子のマンションの前で待っていた関口と合流し
咲子のアパートに行った。
部屋で待っていた敏子は優子の姿を見て涙ぐんでいた。

・・・とにかく一件落着である。


咲子は健太郎と関口に何度もお礼を言った。
お茶をご馳走してくれると言ったが、時間も遅かったし咲子も優子も疲れているだろうと
思い2人は遠慮し、早々に帰ることにした。




咲子のアパートを後にし、大通りに向かって歩き出した。
タクシーをつかまえるためだ。

しばらくして・・・・・関口がボソッと言った。
「なぁ・・・少し飲んでかないか?」
健太郎も何となく飲みたい気分だった。
「・・・はい。」
「じゃ、行こう。」
足早に歩き出した関口。
少し遅れて健太郎は後を追った。


2人は小さな飲み屋に入った。
店の中はお客も少なく閑散としていた。
一番奥の2人がけのテーブルに落ち着き、日本酒を頼む。



ちょびちょびと日本酒を飲んでいた健太郎。
先ほどから何か考え事をしている関口を見つめる。
そんな健太郎の視線に気がつき、関口は苦笑いした。

「驚いたな・・・・・・・。」
「・・・・はい。」
もちろん咲子に子供がいたことだ。

関口は小さなため息をつき微笑んだ。
「俺・・・・身にしみた・・・。」
「関口さん?」
「・・・林さん、すごいよな。働いて・・・一人で子供を育てて行くって
やっぱ・・・・色々大変なんだろうな・・・・・。」
「・・・・・はい。」
健太郎も関口も想像でしか考えられないが・・・。

「・・・殴られた気がした・・・。」
関口が小さなため息を付いて言った。
健太郎は首を傾げて見つめた。

「俺の・・・よわっちい根性思いっきり殴られた気がした・・・。」
「関口さん・・・?」
「・・・もっと・・・前見て生きなきゃなって思った。」

健太郎は、関口の言葉に耳を傾けていた。
関口の気持ちを聞き逃さないように耳を傾けた。

「林さん。いつも元気な笑顔見せてて、守るべき存在もいて・・・・頑張ってて・・強いよな・・・。」

優子は咲子の元気の素・・・。

人には色んな行き方がある。
咲子が誰を愛し
何を想い、決断してきたのか本人にしかわからない。

今の関口と健太郎にとって
咲子は真っ直ぐ前だけを見つめて優子と生きている・・・・そんな強さを感じさせる存在だった。


「・・・俺は今まで何かを強く欲したこともないし夢も・・・やりたいこともないと思っていた。
・・・でもそれって誤魔化してただけなんだよな・・・。」
関口はカラになったとっくりを手で遊ばせながら、独り言のように呟いた。
そして・・・うつむきながら微笑み、手に力を込める。

「本当は・・・見て見ぬふりしてた・・・。気が付いてしまうと自分がみじめになりそうで。
傷つきたくなくて逃げていただけなんだ。」

「関口さん・・・?」

それきり関口は黙り込んだ。




健太郎は・・・今日は色んなことがあり過ぎて、心が収集つかなくなっていた・・・。
でも、大好きな咲子のことをもっと好きになったし、関口の心も少しだけ垣間見れたような
気がして・・・・嬉しいと感じていた。



健太郎の心は今はまだ、あるがまま受け入れていく・・・。
人と触れ合い色々な気持ちに出会うことで
自分自身も考え振り返り、色々なことを知ることが出来る。
言葉を重ねることで自分のことを知ってもらう嬉しさ、相手の気持ちに触れることの出来る
嬉しさ・・・。
心の距離は一歩一歩近き、いつかわかり合える日が来るのだと・・・・・そう思っていた。

そう信じていた・・・・・・・。










店を出た時、関口がニヤっと笑って言った。

「俺たち・・・ライバルになりそうだな。」
そう言って軽い足取りで歩き出した。

健太郎は関口の背中を見つめ・・・「えっ!!」と叫んだ。

「それって・・・やっぱり関口さんも林先輩が好きってことですか!」
そう言いながら関口の後を追う。




健太郎に恋のライバルが出現した瞬間である・・・。

















すっかり遅くなってしまった健太郎。
足早に我が家へ向かう。


「ただいま〜。」
そう言いながらドアを開けた健太郎の顔面に、カー助の足ゲリが跳んできた!!


予測していなかった攻撃に、健太郎は目をぱちぱちさせて驚いた。
そんな健太郎を睨み、玄関で仁王立ちしているカー助。
すこぶる機嫌が悪そうだ・・・。

「痛いよ。カー助!何すんだよ!」

ようやく文句を言い始めた健太郎・・・・・でも、すぐ何も言えなくなってしまった・・・。
何故って・・・・・カー助のまあるい瞳から涙がこぼれたからだ・・・。

「・・・カー助・・・?」
健太郎はしゃがんで、戸惑いながらカー助の顔を覗き込む。

ぽろぽろぽろぽろ・・・。
ちっちゃい涙の粒が床に落ちる。


「・・・魔法あれほど使うなって言ったのに・・・健太郎・・・使った・・・。」
「・・・ごめん・・・本当にごめんよ・・・。」
カー助はうつむき、小さな身体を震わせて泣き続ける。


「カー助・・・ごめんよ・・・。」
「謝ってほしいんじゃない!」
「カー助・・・。」
「健太郎がいなくなっちゃったら・・・俺・・・どおすりゃいいんだよ・・・・。」
「・・・・・・。」
健太郎は何て言っていいのかわからず、おろおろするばかりだった。

「お前が死んじゃったら俺・・・・・どおすりゃいいんだよぉ!!」
そう叫びながら健太郎の胸に飛び込む。
羽でバサバサ健太郎の胸を叩きながら泣き続けるカー助。
健太郎は、小さな親友を抱きしめた。

「ごめんよ・・・どこにも行かないよ。側にいるよ。」

健太郎の言葉。
この言葉に嘘はない。真っ正直な言葉。
でもカー助は知っている。
健太郎は自分の信じるままに
自分の大切な何かを守るためなら迷わず魔力を使い切るだろう。

<俺が守らなきゃ。俺が健太郎のこと守らなきゃ・・・>

泣きながら強く想う。
負けるもんか!
何に対してそう感じるのかわからない。
でも、カー助は怯えた。

いつだって健太郎のことを応援している。
そっと見守っていようとも思っている。

でも、どうしようもなく怖くなるのだ。

人間達の様々な想いが、いつか大切な親友を自分から取り上げてしまうんじゃないかと
・・・・・怯えていた。

2001.9.22  

・・・やばい・・・。暗め系になってきた・・・・(大汗)
難しいよう・・・この話・・・・・。