友達
「・・・桐子ちゃん・・・?」 古本屋のお婆ちゃんは、テレビのニュースで流されている映像を見て、驚いていた。 突然画面に現れた、ほうきに乗って飛ぶ少女。 その少女が・・・アルバイトで雇っていた雪村桐子だったからだ。 「・・・こりゃたまげた・・・。」 まるで・・・魔法使いのような・・・いや、魔法使いそのものの姿を見て・・・目をぱちくりさせた。 「・・・故郷に帰ると言っとったけれど・・・・・・。」 <故郷は・・・おとぎ話に出てくるような国だったんじゃろうか・・・> 「・・・長生きすると色んなことがあるもんじゃのぅ・・・。」 ・・・お婆ちゃんは、驚きながらも、今はもう違う世界に逝ってしまった夫に 少しだけ自慢げに語りかけていた。 <火事?> 窓から噴き出す煙や炎。 「どうするの?キリー!」 肩に乗っていたレイミが叫ぶ。 キリーはデパートの状態を見て、何の魔法を使うかを瞬時に考えた。 魔法棒に魔力を集め、気持ちを集中させる。 キリーの魔法棒がクルンと綺麗な曲線を描く。 その曲線が光の粒となり、そこからたくさんのツバメが現れた。 キリーの周りに何百羽ものツバメが飛び回り、指示を待つ。 「あのデパートの中にいる、人や生き物みんなをデパートの外へ配達して!! 場所は、デパート周辺の安全な地上!」 キリーの一声に、ツバメ達は一斉にデパートへと急降下する。 次々と割られた窓などから内部に入り込んでいく。 さて、このツバメ達の能力は・・・・。 デパート内部に入り込んだツバメ達は、人や生き物を見つけると肩や頭にとまる。 「うわぁ・・・。ツバメ?」 足を捻挫し、床に倒れていたOL風の女性の肩にとまったツバメ。 とまったと同時にふわっとツバメの姿が消え・・・代わりに とまられた女性の背中からツバメの羽が生えてきた。 <・・・え?> 本人が、驚く間もなく女性の体はふわりと宙に浮き上がり、空気に溶け込み消えた・・・・。 そして、次にその女性が気が付いた時には・・・・デパート前の道路に座っていた・・・・・。 <な・・・何が起こったの?> 背中の羽は跡形もなく消えていた・・・。 この魔法は・・・・『ツバメ急便』である。 高度な魔法で、頼まれた荷物を瞬時のうちに依頼された場所へ配達してくれる。 ただし、距離や重さによって必要な魔力が異なっていく、かなりの魔力を必要とする魔法だ。 とても便利に見える魔法だが、同じ世界間でないと受け付けてはくれない。 デパート内にいた全ての人々、ペットショップにいた犬や猫達もみんなツバメ達に救出された。 当然健太郎達も一瞬のうちに地上へと配達され無事脱出できたのだ。 キリーはそれを見届け、更に魔法棒を空に舞わす。 すると上空に金色の光の塊が現れ、その光が弱まり消えると、代わりに その中から出てきたのは・・・・巨大な空飛ぶ雪だるま。 『瞬間冷凍雪だるま君』だ。 その能力は・・・・。 ふわふわと空中に浮きながらキリーの方へ顔を向ける。 「何をすれば良いんですか?」 野太い声で注文を聞いた。 「あのデパートの炎、凍らせて!」 「かしこまりました。」 雪だるまは大きく息を吸い込み、そして、今度は思い切りデパートに息を吹きかけた。 雪だるまが吐いた白い息は、瞬く間にデパート全体を包み込み、何もかも 瞬時に芯まで凍らせた・・・・。 炎は一瞬のうちに消え去った・・・・。 「ご用件はそれだけで?」 「ええ。ありがとう。」 キリーの言葉に雪だるまは満足げにニヤリと笑い消えて行った・・・・。 「助かった・・・。」 「俺達一体どうしたんだ・・・?」 救出された人々は、助かった喜びに湧き立ち、同時に不思議な体験に興奮して騒いでいた。 健太郎も、肩の力を抜いて胸を撫で下ろしていた・・・・。 <助かったんだ・・・> じわじわとその実感が湧いてくる・・・。 「心配ばっかかけやがって!!」 カー助が健太郎の足元で、涙ぐみながら足首辺りを思い切り突付いた。 「痛いよ、カー助!」 「当たり前だよ!痛くしてんだから!!」 「・・・ごめんねカー助・・・。」 カー助が死ぬほど心配してくれていたことを想い、素直に詫びた。 「・・・無事で良かった・・・・。」 カー助は俯いて、小さな声で呟いた・・・・。 傍にいた咲子も、自分が助かったことよりも、健太郎が助かったことを 喜び、涙ぐんでいた・・・・。 <良かった・・・・> 咲子の視線に気が付き、笑顔を向ける健太郎。 その笑顔は、涙で滲んで見えた・・・・。 キリーは急いで急降下して行く。 たくさんの人ごみの中から、健太郎の姿を見つける。 <モクモク!> 無事な姿を確認し、目に涙がたまる・・・。 キリーの選んだ着地点にいた人たちは、 ほうきに乗った少女が降りてくるのに気が付くと、潮が引くようにその場から飛びのいた。 地上に降り立つと同時にほうきをかなぐり捨てて 健太郎に駆け寄り・・・・・。 「キリー!ありが・・・と・・・・。」 健太郎はキリーの方へとびっきりの笑顔を向けるが・・・すぐに笑顔が固まる。 キリーがめちゃくちゃ怒った顔をして全速力で向かってきたからだ。 「馬鹿ーーーー!」 と叫びながら健太郎の頬を、力いっぱい平手打ちにした。。 先ほどカー助にも足蹴りされたのと同じ頬で、すっかり赤くなっていた。 頬を撫でながら、健太郎は申し訳なさそうに弱弱しく微笑んだ。 「ごめん・・・・。」 「ごめんじゃないわよ!・・・・ごめんじゃ・・・・・。」 キリーは大きな瞳からぽろぽろと涙の粒を落し、泣き続けた。 「キリー・・・ありがとう・・・・。」 みんなを助けてくれた幼馴染に、心底感謝していた・・・・・。 <この子も魔法使いなのね・・・・> 咲子は先ほどの魔法のことと、キリーの姿を見てそんなことを考えた。 黒いドレスで身を包み、黒いマントを羽織り、黒い三角帽子を被った少女。 健太郎は咲子の様子に気が付いて「幼馴染のキリーです。」・・・と、紹介した。 「魔法の国の・・・。」 「はい。」 「キリーさん・・・。助けてくれて・・・ありがとう・・・。」 咲子は微笑みながらペコリと頭を下げた・・・。 「・・・・・・・・。」 キリーは、なんと答えたら良いのかわからず、結局何も言えず プイっとそっぽを向いてしまった・・・。 <・・・私はモクモクを助けに来ただけだもん・・・> などと可愛げのないことを心の中で呟いた。 そんなキリーの複雑な想いを感じ取ったレイミ。 どんな想いを抱えていても、結局健太郎の気持ちを一番に考えているキリーが愛しかった・・・・。 一番初めに避難させた中学生の少年が優子を連れて、咲子の元へとやってきた。 「優子!!」 気が付いた咲子は、咄嗟に駆け寄る。 「おかあさん!」 無事再会をはたした優子と咲子。 優子は咲子にしがみ付いて泣いた。怖くて怖くて仕方なかったけれどずっと我慢していたのだ。 ホッとした途端、気持ちは涙の粒となって流れ出した。 「ありがとう・・・。」 咲子は少年にお礼を言った・・・。 少年の腕の中にはまだ赤ちゃんが抱かれていた。 少年はペコリと頭を下げて今度は健太郎の元へとやって来た。 「・・・助けてくれて、ありがとう・・・。」 小さな声で礼を言う。 健太郎は、返事のかわりにニコっと笑った。 ちょうどその時、赤ちゃんの母親が我が子を見つけ、駆け寄って来た。 母親は少年と健太郎に泣きながらお礼を言って、人ごみの中へ消えていった・・・。 少年ももう一度小さく頭を下げて、家族の元へと駆け出した。 優子は、咲子の腕の中で、ようやく涙もとまり笑顔を見せ始めていた。 咲子達の様子を安堵の微笑を浮かべ見ていた健太郎。 足元にいたカー助が健太郎に話しかける。 「健太郎。お前・・・靴下真っ黒だな。」 「え?・・・あ、ホントだ・・・。」 窓から飛び出してきたのだ。当然靴などはいてなくて・・・。 でも真っ黒なのは靴下だけじゃなくて、体中煙で薄汚れていた。 咲子たちも同様で、でもたいした怪我もなく、元気だ。 健太郎は、みんなが無事で・・・・心底ホッとしていた・・・・ この時はまだ、咲子は気が付いていなかった。 健太郎達がみんなの目の前で魔法を使ったことで、どういう事態になるかということを・・・・。 関口は、デパートから少し離れた公園の駐車場に車を停め、健太郎の元へと走り出す。 <急がないと・・・・・・・> デパートが視界に入ると同時にたくさんの人ごみが現れ、その中をかき分け前に進む。 <無事でいてくれよ・・・田中!> 魔法の国から来た、心優しい魔法使い・・・。 関口が、生まれて初めて感じることの出来た・・・・友達という存在。 ・・・・守りたかった。 |
2002.1.30 ⇒
胸が痛ぇ〜。 |