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最後の魔法E

その頃、関口はのんびりとコーヒーなんぞを飲みながら、居間でテレビを見ていた。
何かのドラマの再放送で、さして真剣に見ていたわけではない。
・・・が、突然画面が変わり、アナウンサーの顔が映る。

<臨時ニュースか・・・デパートで火災・・・・・・爆発騒ぎ?怖いなー>
まだ、事態の詳細はわかってはいないようだった。
アナウンサーの告げる言葉を聞きながら
ぼんやりと画面を眺めていると、現場の映像に切り替わる。



<・・・・・・・・え?>

関口は目を見開いた・・・・。
それと同時に、アナウンサーの、興奮気味な言葉が耳に入り込んでくる・・・・。

「一体この人物は何者なんでしょうか!」
関口には、アナウンサーの言葉など右から左状態だった。
何故なら、聞かなくても何が言いたいのか、わかっていたから。

画面の映像は、たまたま現場近くで生放送の街頭インタビューをしているテレビ局があって、
そこからリアルタイムで送られてくる物だった。
デパートから煙が立ち昇っている様子と、もう一つ・・・とんでもない物が映っていた。


「田中・・・・・。」

そこには、ほうきに乗って空を飛ぶ、健太郎の姿がバッチリ映っていた。
人を乗せて、避難をさせているようだった。
関口は、数秒の間呆然としていたが・・・すぐさま立ち上がり、上着を掴んで居間から飛び出した。

<田中の馬鹿野郎!>

廊下で弟とすれ違う。

「秋彦兄さん?」
焦りまくっている兄の様子に、首を傾げ立ち止まる。

「車、使うぞ!」
それだけ言うと玄関から飛び出して行った。


「どうしちゃったんだ?兄さん・・・・。」
そう呟いた後、居間へ向かう。
テレビが付けっぱなしになっていて、先ほどのニュースが流れ続けている。
弟は、その画面を見て、唖然とする・・・・。

関口は、車庫に辿り着くと、即座に車に乗り込む。
一体どういう状況なのかはわからないが、健太郎をあのままにしておくのは危険だった。

<早くやめさせないと、あいつ死んじまう!>
急いでエンジンをかけ、アクセルを踏んだ。

車を走らせながら、関口は辛そうに唇を噛んだ。

不吉な思いが脳裏を過ぎる・・・・。
魔力を使い続けていることは当然危険な状態だが・・・・
もう一つ、健太郎にとって命取りになることがある。
そのことに関口は気が付いていた・・・。

<ちくしょう!>
ちゃんと忠告しておくべきだった!・・・心の中で叫び、悔やんだ。
あまりに自然に・・・日常に溶け込んでいたので気が緩んでいた。

<最悪だよ!田中・・・>
・・・でも、忠告しておいても、同じことだったのかもしれない・・・・。
ふと、そんなことを思う・・・。

「とにかく急がないと!」
<今は魔法をやめさせることだけを考えよう!>
頭を切り替え、必死で車を走らせた。





もう何度往復しただろうか・・・・。
健太郎は休むことなく飛び続けていた。
消防車や救急車は既に到着していたが、デパート内はパニック状態で、大勢の客が
階段やエスカレーター、非常階段に押し寄せているので思うように救助も消火活動も
出来ていないらしい。

デパートから、まるで人が吐き出されているようだった。

健太郎は、子供達と怪我をした人達を避難させ終え、今は女性を運んでいた。
女性の順番になった時、最初に咲子を連れて行こうとしたけれど、拒絶された。

『私は最後でいい!』・・・そう言って頑として譲らなかった。
なので、まだ咲子はレストランに留まっている。
大人は、さすがに3人は運べず、小柄な人でも2人がやっとだった。
大柄な男性などは1人ずつ運ぶしかないだろう。

<間に合わないかもしれない・・・>
心のどこかにそんな言葉が浮かぶ・・・・。
それでも、今はただ飛び続けるしかなかった・・・。

レストランに戻り、次の人達を乗せ、飛び立とうとした時、すぅっと血の引くような感覚に捕らわれた。
ふらつき、上手く飛べずに床に足をついた・・・・。



乗っていた2人の女性も、健太郎の様子がおかしいのに気が付き、
戸惑いながら、ほうきから降りた。

健太郎は俯いて、ギュッと目を閉じる。

<多分・・・これが最後の魔法になる・・・・>

あと1回、地上に戻るまでの距離を飛ぶのが精一杯だろう・・・。

アンテナ君も消しゴム君も既に消えていた。
もう実体化させているだけの魔力が残っていなかった。


レストラン内に煙が立ちこめ始め、炎もじわじわと11階を食い荒らし始め、拡大している。

まだ残っている人達がたくさんいる。

みんな不安げに健太郎を見ていた・・・。

<ごめんなさい・・・>
心の中で詫びた。もう助けられない・・・・。

健太郎は小さく息を吐き、顔を上げる。
視界の中から探し出す・・・咲子の姿。
心配そうな眼差しで自分を見ている咲子へ視線を向け、微笑む。

「咲子さん。」
健太郎は咲子の方へ手を差し伸べる。

これが咲子を助けられる最後のチャンスだったから・・・。

咲子は健太郎が何を考えているのかを悟り、激しく首を横に振った。

「嫌!」
そう言って駆け寄り、健太郎の胸に縋りつく。

「もういい!ここで一緒に救助を待ちましょう!」
「間に合わない。」
「そんなことない!」
「ごめんね、咲子さん。」

詫びた後、健太郎は強引に咲子の体を抱き上げ、ほうきへ座らせる。
落ちないように片手でしっかり抱きしめ飛び立つため気持ちを集中させる。

「嫌ぁぁー!!お願い・・・魔法を使わないで!!」
咲子は泣きながら叫ぶ。

その時・・・・。



「ちょっと待ったぁ!!」

そう叫びながら、凄い勢いで開いてる窓から飛び込んできた黒い物体・・・・。
そのまま健太郎の頬に蹴りを入れ、羽ばたきながら床に降り立つ。

突然の衝撃に、健太郎は目をぱちぱちさせて驚いていた。
腕の力が緩んだ隙に咲子はほうきから降りてしまった。

「魔法使うなって言っただろ!」

ピョコンと飛んで振り返る。

健太郎、咲子、そしてその場にいた全員の目に、言葉を話すカラスの姿が映る。


「カー助!」
健太郎は頬を手で押さえながら親友の名を叫んだ。

「もう大丈夫だよ。」

カー助はそう言って、健太郎の方へ、とてとて歩いてくる。

「外、見てみろよ。」
「え?」
健太郎は、きょとんとして、窓の方へ駆け寄る。下を見たが、大勢の野次馬と避難する人々・・・
そして消防関係の人達がいたが・・・特別なものなど何もなかった。

「上だよ。上。」

カー助にそう言われ、今度は上を見上げる。


健太郎の目に映ったのは・・・・。






デパートの上空で、ほうきに乗って飛び回っている幼馴染の姿。



「キリー!」

2002.1.29 

キリー登場!・・・関口さんの名前私忘れてました・・・(汗)