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ホントの気持ちC

雨はやみ、雲の間から月が見え隠れするようになってきた。

空を飛び街中を探し回る。
屋根より少し高い位の低空飛行で優子の姿を求めさ迷う。
・・・けれどなかなか見つからない・・・。
「カー助・・・。」
「ん?」
「少し・・・ほんの少しだけ魔法使っちゃダメ?」
優子を見つけられない焦りから、健太郎は魔法に頼りたくなる。

「絶対ダメ!」
「・・・でも。居場所を探すくらいの魔法なら、そんなに魔力使わないし・・・。」
健太郎の言葉に無言のまま『却下』の意志を示すカー助。
そんなカー助をしばらく見つめていたが・・・魔法棒を握る手に力を込める。


ポンッ!
・・・という音と共に、ヘンテコな物体が現れた。ふわふわと健太郎の膝の上に降りる。
それは・・・大福のような、ふにゃっとした白い円い物に目と口がチョコンと付いている。
シンプルな顔つきだ。
頭だけの物体。
頭の上にはアンテナのような物が立っていた。

「健太郎!!魔法使うなって言ったのに!!」
カー助が叫ぶ。
「ごめん。でも・・・これくらいなら・・・・。」
カー助は、一瞬健太郎を責めるような眼差しで見つめ・・・目を逸らし、ため息をついた。

少し前を飛ぶカー助の背中を見つめ、健太郎はもう一度「ごめんね。」と言った。



「・・・何をお探しで?」
先ほど魔法で出した奇妙な物体が、健太郎に話し掛ける。
低くてぼんやりした・・・眠くなるような力の入らない声だった。

「アンテナ君。俺の頭の中にイメージしてる女の子を探して!」
健太郎は写真で見た優子を思い浮べる。

さて、この『アンテナ君』はどんな探し物でも大抵見つけ出してしまうという便利な物。
アンテナ君は、優子のイメージを健太郎の頭から吸収するとニヤリと笑う。

「よろしくね。アンテナ君!」
「合点だ。」

右だ左だ・・・と『アンテナ君』の指示通り空を飛ぶ。

すると・・・・。


住宅街から少し外れた所に川が流れていて、その川沿いを泣きながら歩く少女を発見。

目を凝らして見てみると・・・。

「優子ちゃんだ!」

「任務終了!」
『アンテナ君』はそう呟き、再びポンッという音と共に消えた。

健太郎は高度を下げて少女めがけて飛んでゆく。





「・・・あ!ヤバイ!」
ちょうど健太郎が少女の前に降り立とうとした時、カー助が叫んだ。

その叫び声と同時に、カー助のかけた魔法が時間切れで解け、健太郎の姿が優子の瞳に映る。

「・・・・ふぇ・・・?」
優子は目をまんまるくして、突然目の前に現れた健太郎を見つめる。

ほうきに乗って、宙に浮いている健太郎の姿をばっちり見られてしまった。

「・・・あ・・・。」
健太郎もこのヤバイ状況をすぐに実感できず・・・・・・2人とも固まった。

魔法使いは人間に正体を知られちゃいけないという決まりがある。
バレても特に罰則はないが、魔法使いが人間界に遊びに来た時や・・・まあ、めったにいないが
健太郎のように人と共に暮らしたいと思った時、『魔法使い』の存在を知られていない方が
秩序が保たれるからだ。人間に恐怖を与えないためでもある。


「・・・ご・・・誤魔化しようがない・・・。」
健太郎の肩にとまり、カー助が力なく言った・・・。

その声にまた優子が目を見開く。
カー助に視線を移し
「・・・・カラスさんが・・・おはなししてる・・・・。」と小さな声で言った。

カー助は<しまった!>と思い、羽で口を塞ぐが時既に遅し!


健太郎はちょっと空を見上げ、おっきなため息をついた。

<ま、バレちゃったんだからしょーがないか>
気持ちを切り替え、少女にニッコリと微笑みかける。


「こんばんは。」

健太郎の笑顔に、緊張ぎみだった優子は少し表情を和らげぎこちなく
「こんばんは・・・。」と言った。


ひょい・・・っとほうきから降りて、優子の前にしゃがむ。

「林優子ちゃんだね?」
「・・・うん・・・おにいちゃん・・・だぁれ?」
首を傾げ健太郎をまじまじと見つめる優子。
手には、その小さな体とは不釣合いな大人用の傘と、小さな子供用の傘を抱えている。

「お母さんのお友達の田中健太郎って言います。よろしくね。」
「・・・おかあさんのおともだち。」
優子がその言葉を聞いて、やっと安心したのか・・・微笑んだ。
・・・ずいぶん泣いていたのだろう。大きな瞳は真っ赤だった。

健太郎は優子の持っていた傘を見て気が付いた。
「優子ちゃん。・・・もしかしてお母さんに傘届けようと思っていたの?」

優子はコクンと頷いた。

「あめふってたから・・・・。」
優子は雨が降りだしたのを見て、敏子のマンションを抜け出し一人でアパートに戻り、傘を持って出かけた。
咲子を迎えに行こうとしていたのだ。
通勤に利用している最寄駅までは、咲子に連れられて何度か行ったことがある。
でも、徒歩ではけっこうな距離がある。会社に行く時などはバスを利用しているくらいだ。
途中で迷ってしまい泣きながら歩き続けていたのだ・・・・。


「そっか・・・・・・・。」
健太郎は優子の気持ちが嬉しくて微笑んだ。
そして立ち上がり、咲子に連絡するために携帯を取り出す。





『優子、見つかったのね!!?』
携帯が鳴り、慌てて出た咲子。健太郎の言葉に安堵の叫びを上げた。
「はい。今一緒にします。」
『ありがとう田中君。ありがとう・・・。』
「これから一緒に連れて帰りますから・・・・・・あ!」
『何?どうしたの?』

「ここ・・・・どこ?」
辺りをきょろきょろして困惑する。
・・・健太郎自身、今現在どこにいるのかわからず・・・迷子1名追加である・・・・・。





結局、咲子が迎えに来るまでこの場所にいることにした。
ずっと歩いてて疲れたのだろう・・・うとうとうたた寝し始めた優子をおぶって、道端でぼんやり立っていた。
健太郎の頭の上にとまっているカー助は先ほどから何か考えごとしているようで一言も
しゃべらない。


「・・ね・・・おにいちゃん。おにいちゃんはまほうつかいさんなの?」
眠たいのと好奇心との闘いで、僅かに好奇心の方が勝ったらしい。
優子が健太郎に尋ねる。

先ほどカー助が空飛ぶほうきを消した時も、手品でも見るように目を輝かせていた。


「う〜ん。元魔法使いだね。」
「・・・もと?」
「魔法使いやめちゃったんだ。だから魔法もちょっとしか使えないんだ。」
「どうしてやめちゃったの?」

咲子と同じ時を刻みたかったから・・・・とは言えず・・・何ていえば良いかなと迷う。

「・・・人が好きだから・・・かな。」
「ふぅ〜ん・・・ゆうこはまほうつかいさんになりたいけどなぁ・・・。」
優子の言葉には、もったいないなぁ、羨ましいなぁ・・・というような気持ちが込められているようだった。


「ねぇ、おにいちゃん。サンタさんとかもいるのかな・・・。」
魔法使いが存在したのだ。サンタクロースだっていていいはずだ。
優子は幼稚園の友達に、以前「サンタクロースなんていないんだぜ!」と
言われショックを受けた。
そのことを思い出したのだ。

「ん〜・・・・どうだろう。会ったことないからわからない。もし会うことがあったら優子ちゃんに
ちゃんと知らせるよ。」
・・・この言葉は作られたものではなく、健太郎の本心だ。
実際に会ったことないので『いる』とも言えないし、存在しているかもしれないので『いない』とも
言えないよな・・・・と本気でそう思っている。

優子はその言葉に少し嬉しくなる。

ちょうどその時
車のライトが遠くに光り、タクシーが走ってくるのが見えた。

「あ!きっとお母さんだよ!」
健太郎の言葉に、今まで眠くてとろんとしていた優子の瞳が活気付く。

「・・・優子ちゃん。1つお願いがあるんだけど・・・。」
だんだん近付いて来るタクシーを見つめ、健太郎が言った。
「なぁに?」
「お兄ちゃんが魔法使いだってこと、内緒にしてくれる?」
「・・・ないしょ?おかあさんにも?」
「うん。」
「どうして?」
「本当は魔法使いだってこと、内緒にしなきゃいけないんだ。魔法の国での決まりごとなんだ。」
「ねるまえのはみがきとかとおなじきまりごと?」
「うん。まあ・・・そうだね。守らなきゃいけない決まりごと。」
「そっかぁ・・・・。」
優子は納得したようにため息をついた。


「ダメかなぁ・・・。」
ダメだったらどうしよう・・・健太郎は真面目に悩んでしまう。


優子は自分をおぶってくれている元魔法使いにギュッと抱きつく。


「うん。いいよ!ゆうことおにいちゃんだけのないしょだね!」


優子の初恋であった・・・・。

2001.9.21  

アンテナ君って・・・(苦笑)やっぱり、なんじゃこりゃのネーミング(笑)