最後の魔法A
「優子・・・?」 咲子は精算を済ませ、優子が傍にいないことに気が付いた。 <・・・どこにいっちゃったの?> 辺りをきょろきょろしながら歩くが、混雑してて見渡せない。 人ごみの中探しまわる・・・・。 「優子?優子ー。」 返事はない。優子らしい姿も見当たらない。 おもちゃのコーナーにでも行ったのだろうか・・・そう思いながらエスカレーターへ向かう。 8階のおもちゃ売り場を探してもいなくて・・・段々焦りだす。 <どこに行ったの?優子・・・・> 閉店セールでどこも混み合っていて、一人で探すのは困難に思えた。 総合案内で迷子の届出がないかどうか聞きに行こうとエレベーターホールに向かう途中 前を歩く高校生くらいの少女2人の会話が聞こえてきた。 「さっき階段ですれ違った男、子供連れていたけど・・・何か変じゃなかった?」 「そう?親子でしょ?」 「え〜。何だかそんな雰囲気じゃなかったよ。それにおじちゃんって言ってたよ。あの子。」 咲子は、それを聞いた瞬間、そう言った少女の肩を掴んでいた。 少女はビックリして振り返り、その後、咲子のいきなりな行動にムッとした。 「何すんだよ!」 「その子供・・・髪を2つに結わいてた?」 咲子の切羽詰った表情に押され、少女も緊張した面持ちで、頷いた。 「2つ結わきにしてて、赤いワンピース着てたけど。」 <優子だ!> 赤いワンピース。優子が今日着ていた服だ。優子に間違いない・・・咲子はそう感じた。 「その男の人、どこへ行ったの?」 「確か・・・11階とか・・・レストランとか言ってたけれど・・・・。」 このデパートの10階〜12階はレストラン街だ。 咲子は弾かれたように走り出した。 <誘拐?> そんな不吉な思いが脳裏を過ぎる・・・。 「咲子さん、遅いなぁ。」 カー助が時計を見ながら呟いた。・・・遅いと言っても、まだ2時30分をちょっと回ったくらいだ。 もともと大まかな時間で約束したのだ。 でも、楽しみに待っている健太郎やカー助にとっては長い時間なのであった。 <電話・・・かけてみようかな・・・> 健太郎は、受話器を手に取り、咲子の携帯電話の番号を押す。 呼び出し音が数回鳴り、電話に出る気配がした。 「あの・・・。」 「咲子さん。」と、名前を呼ぼうとしたが、その前に咲子の声が遮った。 『健太郎君!』 ここ数日、電話やプライベートでは名前で呼ばれている。 咲子の声はとても焦っているように感じられた。 「どうしたんですか?」 明らかに様子のおかしい声に健太郎は受話器に縋りつくように尋ねた。 『優子が、優子がいないの!!』 「え?」 『早く見つけないと・・・・。』 迷子で探し回っているにしては様子が変だった。 「落ち着いて下さい!何があったんですか?」 『わからない・・・。でも・・・・。』 <もしかしたら、親切な人が迷子になっていた優子を 放っておけなかっただけなのかもしれないし・・・> 必死でそう思いながら、気持ちを落ち着かせる・・・・が、やはり心配で心配でたまらない。 エスカレーターで11階へ向かいながら健太郎に事情を説明する。 「とにかく、11階へ行って、レストランを回ってみる・・・・。」 そう言い終る前に、11階に辿り着き、一番近くのレストランに入ろうとすると・・・ 慌てたようにウエートレスが飛んで来た。 「すみません!今満席で・・・・。」 ウエートレスの笑顔は、まるで一生懸命無理して笑おうとしているようで 引きつっていた。 咲子は訝しげに首を傾げ・・・・ウエートレスの肩越しに見えた店内の様子に、目を見開いた。 入り口を少し奥に入っ所に男が立っている後姿が見えた。 一見見たところ、席が空くのを待っている客の様だが・・・・ その男が抱き抱えている少女、優子の顔が見えた。 「優子!」 咲子はウエートレスを押しのけて、男の方へと駆けて行った。 その声に、男と優子が同時に反応し、振り返る。 「おかあさん!」 「動くな!」 咲子の目に、怯えた優子の顔と、我が子の首にナイフを突きつける男の姿が映る。 ・・・この時、頭の中にあったのは、優子のことだけで・・・・。 「・・・嫌・・・・。優子を・・・離して・・・。」 声が震える・・・・。 「優子を助けて!!」 この言葉を、男に向かって言ったのか、電話の向こうにいる健太郎に対して言ったのか・・・・ あるいは両方だったのか・・・・気が付いたら叫んでいた。 「騒ぐな!そのまま大人しくしてろ!」 男は、忌々しそうに低い声で言い放ち、ナイフで優子の頬を撫でる。 咲子の手から携帯電話がすり抜けて『カラン』・・・と、渇いた音と共に床に転がった・・・・。 『おかあさん!』『動くな!』 優子と男性の声が聞こえ・・・その後、咲子の叫び声がした。 『優子を助けて!!』 <咲子さん?> 『騒ぐな!そのまま大人しくしてろ!』 男の怒鳴り声が聞こえ・・・・何かのぶつかる様な音がして電話は切れた。 必死になって、電話の向こうの声や音を拾っていた健太郎。 もう一度電話をかけ直そうとしたが、手を止め・・・・・受話器を置いた。 その様子を傍で見ていたカー助・・・・当然、健太郎の心の動揺も緊迫感も伝わっている。 「・・・・健太郎?・・・どうしたんだよ・・・。」 恐る恐る尋ねる・・・。 カー助の言葉に、健太郎は独り言のように答える・・・・。 「・・・・咲子さんと優子ちゃんが・・・助けに行かなきゃ・・・・。」 「・・・健太郎?」 「誰かが2人を傷つけようとしてる・・・・。」 健太郎は目を瞑り・・・・心の中で念じる。 手元に、金色の光が集まり、魔法棒が現れた。 それを手に取り、窓を開け放つ。 「健太郎!やめろ!魔法を使うな!」 カー助の制止の言葉にも耳を貸さず、魔法棒に魔力を集め、ほうきを出した。 空飛ぶほうき。 ほうきを手に取り、素早くまたがる。 ふわり・・・と、体ごとほうきが浮き上がり・・・窓から空へと凄い勢いで飛んで行った。 「健太郎!!」 カー助はそれを呆然と見ていた・・・・・。 <健太郎の馬鹿野郎!> 後を追おうと自分も飛び立つが・・・・今までにない健太郎の切羽詰った心を感じ 行き先を変える。 深刻な事態だということだけはわかっていたから・・・。 <俺が付いて行っても、きっと、健太郎のこと、助けられない!> 行き先は・・・魔法の国。 『もし、私の力が必要なことがあったらいつでも駆け付けるから・・・。』 キリーの言葉を思い出し、必死で空を飛ぶ。 <キリーなら、きっと何とかしてくれる!!> 魔法の国めがけて大空を羽ばたき、やがてカー助の体を金色の光が包み込み ・・・光と共に消えていった・・・。 「・・・あれ?」 健太郎の隣に住んでいる大学生が空を見上げ、呆然とする。 近所のコンビ二へ行った帰り、アパート付近を歩いていたら空に向かって 『何か』が飛んで行くのが見えた・・・・。 その『何か』は、信じられない物だった。 ほうきに乗って、まるで魔法使いのように飛んで行く人の姿。 しかも、見知った人物。 「・・・・あれ・・・隣の、田中さんだ・・・・。」 青年は、しばらく口を開けたままその場に立ち尽くしていた・・・・。 |
2002.1.25 ⇒
お隣さんがほうきに乗って飛んでったら、そりゃ驚くよなぁ(笑) |