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青空

次の日は見事な快晴。
それぞれの日曜日がやってくる・・・。

「田中君!」
「おにいちゃん!」
待ち合わせ場所には既に咲子たち親子が来ていた。
「おはようございます。」
健太郎の挨拶の声。そのすぐ後、健太郎の手元からも小さな挨拶の声が聞こえた。

「おはよお〜。」

「カースケくん〜。」
優子が嬉しそうに手を振る。
健太郎が持っていた鳥籠の中から、カー助がご挨拶。


カー助にはちょっと窮屈なのだが、電車の中では鳥籠に入ってもらうしかなかった。
・・・で、遊園地に着いて、やっと籠から開放してあげることが出来たのだ。

カー助は、健太郎の肩に乗り、ご機嫌だ。
<まさか、ここにこのメンバーで遊びに来る日がこんなに早く来るなんてな〜>

以前、健太郎たちが遊びに来た遊園地。
健太郎のことが心配で、尾行していたのでカー助も知っている場所なのだ。

「おにいちゃん!あれにのろう!」
優子が健太郎の右手を握り、コーヒーカップの方へ走り出す。

「先輩も!」
健太郎は微笑みながら、咲子の方へ左手を伸ばす・・・。

咲子は、その健太郎の笑顔に一瞬見惚れ・・・手を握る。

3人と1羽で乗ったコーヒーカップ。
(ちなみにカー助は健太郎のセーターの中に入って頭だけ出した状態で乗った)

<目・・・目が回る・・・・。>
カー助は、もう2度とこれには乗らないと、誓った。



それから、色々な乗り物を楽しんで・・・・。

「おなかすいた〜。」
優子が空腹を訴えた。夢中で遊んでいたのでお昼を過ぎていたのに気が付かなかった。


園内には広い芝生があり、ちょっとしたピクニック気分が味わえる。
何組かの家族連れがのんびりと日向ぼっこを楽しんでいる。
健太郎たちも、敷物を敷いて咲子が作ってきたお弁当を広げた。

「美味しいです。」
「おいしいねぇ〜。」
「カぁー。」
幸せそうにおにぎりや唐揚げ、厚焼き玉子をほおばる健太郎や優子、カー助の姿を見て
咲子は可笑しくてクスっと笑う。
「そんなに嬉しそうに食べてもらえると、作り甲斐があるわね。」

「カースケくんタコさんウインナーたべる?」
「カ〜。」
優子がカーの口にウインナーを入れてやる。
<ちくしょう。これでおしゃべり出来たら最高なんだけどなー>
カー助は、人前で話すことが出来ず、ちょっと残念だった。



芝生を駆け巡り、優子とカー助が遊ぶ。

それを咲子と健太郎は座って見ていた。
楽しそうに遊び回る優子の姿を見ているうちに・・・咲子は自然と言葉を口にしていた。

「田中君・・・。優子がもう少し大きくなったら、父親のことを話そうと思っているの。」

咲子の言葉に、健太郎は目を見開いた。


「・・・きちんと、話をしなきゃ・・・・私のことも、野島さんのこともね・・・。
この前会った時野島さん、優子に会いたがっていた・・・。
でも・・・奈津子さんのことを考えると・・・会わせられないわよね・・・・。」
俯きながら、微笑んだ。少し不安げだった・・・。

政博も奈津子も、優子の存在を知っている・・・その話を咲子から聞いて
いつか優子と政博が会える日が来ることを健太郎は願った。

「野島さんは、奈津子さんのことを愛してる。・・・・彼女と話し合ってくれるって言ってた・・・。」
咲子の言葉に、健太郎は、ニコッと笑った。

「きっと、野島さんの気持ち、奈津子さんに伝わりますよ。」
「・・・簡単ではないかもしれないけどね・・・・。」
「優子ちゃんと、野島さん・・・会える日がきますよ、きっと。」
「・・・うん・・・。」

咲子は顔を上げて、健太郎を見つめた。

「それとね・・・優子にあなたのことも話そうと思ってる。」
健太郎は、咲子の言葉に目をぱちくりさせ、その後嬉しそうに頷いた。
そして、突然姿勢を正して、神妙な顔になる。


「?どうしたの?田中君。」
「・・・先輩・・・俺とずっと一緒にいてくれますか?」
「え?」
健太郎は、軽く深呼吸した後・・・静かに言った。

「結婚して下さい・・・。」
「はい。」
咲子は、その言葉に即答した。

あまりの即答ぶりに、健太郎は一瞬何が起こったのかわからずきょとんとして・・・
数秒後、OKをもらえたんだとわかり、心底ホッとしたような顔をして笑った・・・。

「良かった〜・・・・・。」
どんな雰囲気の時に言おうとか、どんな台詞で言おうだとか、そんなことは全然考えてなくて・・・
ただ、プロポーズするぞと心に決めていた。

咲子は、健太郎の安堵した姿にクスクス笑った後、
ちょっと複雑な顔をして・・・・小さな声で言った・・・。

「優子・・・田中君のこと・・・お父さんって呼んでくれるかしら・・・。」


健太郎はゆっくりと立ち上がり、おっきく伸びをして、美味しい空気を吸い込む。
そして、咲子に笑顔を向けた。

「呼び方なんて、何でもいいです。今まで通り『おにいちゃん。』でもいいし、『健太郎。』だっていいし。」

咲子は首を傾げた。健太郎は、柔らかな笑顔で思い出す。自分の父親のことを。

健太郎は父親のことが大好きだ。いつも優しく守ってくれた。
時には叱られたりしたけれど、いつも温かく包み込んでくれていた。
<・・・俺もそんな風になれればいいな・・・・>

「俺の父親のイメージって・・・いつも優しく包み込んでくれて、見守っててくれる。
それが俺の父親像で・・・・そうなりたいなって思ってます。・・・・だから、優子ちゃんにとって、
そういう存在になれれば・・・呼び方なんて何でもいいんです・・・・。
もちろんすぐには無理だろうケド、そうなれるように頑張ります!」
「田中君・・・。」
「・・・・・優子ちゃんにしてあげられること。
野島さんには野島さんにしかできないことがある。・・・俺にも俺にしか出来ないことが
あるはずだから・・・。」

柔らかな風が健太郎の髪を優しく撫でる・・・。

咲子や優子と一緒に生きて行きたい。傍にいたい・・・・。
そう強く想う。
<もっと・・・強くならなきゃな・・・・>
健太郎は、空を見上げて心の中で呟いた・・・・。


咲子の瞳に映る健太郎は、限りなく優しく・・・何処までも広がる青空だった・・・。

<出会えて良かった・・・・・・・>
涙が零れそうになるのを堪え、心の底から、そう想った・・・・・・。


「田中君・・・。」
「はい?何ですか?先輩。」
「・・・その、先輩って呼び方・・・会社以外では止めて欲しいな・・・。」
「・・・あ・・・。」
健太郎は予想していなかったことを言われ、一瞬ポカンと口を開け・・・その後、頭をかいた。
「そっか・・・林先輩って言うのが自然だったけど・・・な・・名前で呼んだ方が良いですよね・・・。」
「うん。私も・・・名前の方が良いのかしらね・・・・。」

・・・・かなり照れくささもあるし、ぎこちなさもあるが
お互い名前で呼び合うようにしよう・・・ということになった。


<早く『咲子さん。』って自然に呼べるようになると良いな・・・>
健太郎は心の中で呟いた・・・・。










夕方、遊園地を後にした健太郎たちは、夕食をどうするかを相談した。
その時、咲子がポツリと呟いた・・・・。

「カー助君に、回転寿司、見せてあげたいわね・・・・。」


そして・・・・・。


「いいね。カー助。騒いだり取り乱したりしちゃダメだよ!」
健太郎は、コーヒーカップに乗った時のようにカー助をセーターの中に入れ、頭だけ首元から
出させた。そして、優子から借りたマフラーで出来るだけ目立たないようにする。
カー助は、親友の緊張気味の声に「OK!」・・・と、こちらは期待に満ち溢れた声で答える。
優子もとても緊張した面持ちで・・・咲子だけがリラックスしていた。

3人と1羽で大型チェーン店の回転寿司屋に足を踏み入れた。

「お寿司4人前テイクアウトでお願いします。」
咲子がレジの所に行き、注文をする。
お寿司の種類を決めたりする間、健太郎は回転しているお寿司がカー助に見えるように
少し移動し、マフラーをちょっとだけずらす・・・・。


<・・・わぁ〜・・・・。>
カー助のつぶらな瞳に、色とりどりの回転しているお寿司が映り・・・・・・。

<すげー!!俺の大好きなお寿司があんなにたくさん回ってるーーー!!>
心の中で感激の悲鳴を上げる。


・・・・ほんの少しの間だったが、カー助にはお寿司が輝いて見えた夢のような瞬間であった・・・・。


「堪能したーーーー!」
興奮して感想を述べるカー助。
お持ち帰りしたお寿司は健太郎の家で食べることになり、只今夕食の真っ最中。

大好きなお寿司を食べながら、感激しまくるカー助・・・よほど嬉しかったらしい・・・。


「カーすけくん、おすし、だいすきなんだね。ゆうこのわけてあげる!」
「いいよ。俺は健太郎のもらうから!」
「いいけど・・・マグロはあげないよ。」
・・・と健太郎が言っているそばからカー助はマグロをかっさらう!
「カー助〜!!」
「もう食べちゃったよー!」

騒がしいけれど、とても楽しい。

・・・咲子はそんな風景を見つめながら、クスっ笑う。

<これから、ずっとこんな時間が過ぎて行くのね・・・>
そう思うと・・・幸せな気持ちになる・・・。

健太郎たちの日曜日は、こうして過ぎて行った・・・・。

2002.1.14 

平和なシーン・・・もう書けるかどうかわからない。ごめんね。