魔法使いと人間とD
お正月がやってきた。 健太郎はオーブントースターを真剣に見つめていた。 お餅を焼いていたからだ。 「カー助〜。お餅焼けたよ〜。お雑煮食べよう。」 「わーい!」 テーブルの上に出されたカー助用のお雑煮には、小さくカットされ焼かれたお餅が 浮いていた。 「何で俺のお餅、こんな小さいんだ?」 「え?だって・・・。」 「だっても何もない!俺はこんがり焼けた大きなお餅がいいんだ!」 「そんなこと言って、去年くちばしに詰まらせて泣きながらもがいてたじゃない・・・。」 「・・・うっ!ヤなこと覚えてやがるなぁ・・・健太郎は。」 カー助は痛いところを突かれたので、観念してお雑煮を食べ始めた。 他にも小さいながらデパートで買ったおせちのお重が乗っていた。 カー助は栗金団と黒豆が大好きで、去年健太郎は食べ損ねている。 今年こそはと思い、ふたを開けてみると・・・既にカー助に食べられた後だった。 「カー助!酷いよ!おせちは年が明けてから食べようって約束したのに!」 「ちゃんと約束は守ったぞ?年が明けて10秒後だったけどな。年越ししてる最中に 居眠りこいてた健太郎が迂闊君なんだよ〜。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「ところで、今年も初詣ってやつに行くのか?」 「行くよ。」 「俺も行こうっと♪」 「屋台のソースせんべいと綿菓子が目当てなんでしょ?」 「水あめが抜けてるぞ。」 健太郎は、ため息をついて、クスッと笑った。 平和なお正月である。 お雑煮も食べ終わり、健太郎とカー助は近くの神社へ初詣に出かけた。 小さな神社で、いつもは静かだが三箇日は初詣客で賑わう。 カー助を肩に乗せて歩く健太郎の姿は、やっぱり目立っていた。 「あー!カラスだぁ。」 「手乗りなのかなぁ?」 通り過ぎる子供たちが嬉しそうにカー助を見て声を上げる。 「カぁ〜」・・・と、わざとらしくお愛想で返事をするカー助に、健太郎は苦笑いする。 賽銭箱に小銭を数枚入れ、カランカランと鈴を鳴らす。 人間界へ来て初めて初詣した時は、周りの人の様子を見て、真似っこした。 両手をあわせ、健太郎は頭の中で願い事を思い浮かべる。 お参りが済んで、カー助念願の屋台へ向かう。 カー助のおねだり通り、ソースせんべいと綿菓子と水あめと・・・あと、キリーとレイミのお土産に たこ焼きを買って、家路へ向かう。 「俺、健太郎の願い事、聞かなくてもわかってるぞ♪」 カー助は、人のいないことを確認し、小声で健太郎の耳元で囁いた。 「俺だってカー助の願い事、わかってるよ!」 健太郎も自信満々に答える。 「何だよ。言ってみろよ。」 「カー助の願い事は、もう叶ってる・・・これでしょ?」 健太郎は、先ほど購入し、手に持っていた駄菓子を持上げた。 それを見たカー助はガックリと肩を落とす・・・・。 「間違ってた?」 「・・・いや、まぁ、いいや・・・・。」 きょとんとする健太郎に、カー助は弱々しく答える。 「次はカー助の番だよ。俺の願い事は何だと思う?」 「どーせ咲子さん関連のことだろ。」 「うん。さすがカー助!でもそれだけじゃないよ。」 <林先輩がもう倒れたりしませんように> <頼れる男になれますように> ・・・そして <林先輩やカー助、みんなが幸せに過ごせますように> その3つが健太郎の願い事であり、後者2つは昨年と同じ願い事だ。 頼れる男っていうのは目標でもある。 願い事3つは欲張り過ぎかなと思いながらも、やっぱりどれも大切なことなので外せないのだ。 「・・・なぁ・・・健太郎。」 「何?」 「・・・・咲子さんに、気持ち伝えてみたらどうだ?」 カー助の言葉に、健太郎は一瞬驚きの表情を見せ、立ち止まる。 健太郎は戸惑いながら、聞き返す。 「突然どうしたの?」 カー助は、健太郎の目を見つめた。 「『頼れる男』になってから気持ちを伝えるっていうのも、まぁ、1つの考え方ではあるけれど、 伝えてから始まることも、あると思う。」 「伝えてから・・・始まること・・・。」 「うん。そこから何かが始まったり起こったりして、健太郎自身も変っていき、成長していくんだ。」 「・・・振られちゃったら・・・・?」 健太郎が不安げに聞くと、カー助は明るい声で答えた。 「振られたって、チャンスがなくなるわけじゃない。健太郎が咲子さんを想う気持ちも 消えちゃうわけじゃない。」 カー助はその後、静かに言葉を付け足した。 「頼る・・・て、人によって求める物が違うと思うから・・・・俺は今の健太郎でぶつかってって欲しい・・・」 「・・・カー助・・・」 健太郎は少し困惑気味だった。 カー助は健太郎の頬に優しく身体を摺り寄せた。 カー助の願い事。 昨年と同じ願い事・・・・。 <健太郎がずっと笑っていられますように> 「私置いて初詣に行っちゃったんだ!」 キリーは頬を膨らませ、部屋でいじけていた。 先ほどまで、振袖と格闘し、ようやく着付けが終わり、早く健太郎に見てもらいたくて 訪ねて行ったら留守だった・・・・。 「まぁまぁ、きっと後で新年の挨拶に来てくれるわよ。」 レイミがなだめるように言った。 大晦日、キリーはまた眠り続けてしまい、一緒に年越しそばも食べられなかったので 初詣には一緒に行きたかったのだ。 ちょうどその時 ピンポーン・・・とチャイムが鳴った。 開けてみると、レイミの予想通り、健太郎が立っていた。 「明けましておめで・・・と・・。」 健太郎の新年の挨拶の言葉が途中で止まる。 キリーの振袖姿を見てビックリしたのだ。 「うわぁ。綺麗だねー!」 素直な感想。カー助も見惚れて言葉が出ない。 「本当に?」 キリーは今まで腹を立てていたことも、すっかり頭からすっ飛び、満面の笑顔を見せる。 その様子を、部屋で見ていたレイミはクスッと笑った。 「これ、初詣のお土産。」 健太郎は手にしていたたこ焼きをキリーに手渡す。 「初詣、一緒に行きたかったのに〜!」 キリーは膨れっ面しながらもたこ焼きを受け取った。 「じゃあ、それ食べたらまた行こうか?」 健太郎の言葉にキリーは何度も頷いた。 <優しいね・・・> キリーは微笑み・・・想う。 健太郎は優しい。 でもそれは幼馴染としてだ・・・。 キリーにもわかってる・・・・。 キリーは健太郎を守りたいと思っている。 けれど・・・同時に辛く悲しい気持ちが押し寄せる。 一度は無理やり奪ってしまおうと思った。 自分だけの物にしてしまおうと思った。 あの時の気持ちが今も心に湧き上がる時がある・・・・。 健太郎に好きな人がいるって知ってから・・・キリーの心の中で色々な感情が生まれた。 健太郎の気持ちを無視してまでも、手に入れたいと思ってしまう。 <林咲子なんかいなくなってしまえばいいのに!>・・・と思ってしまう。 キリーが、初めて知った自分の中に湧き上がる・・・辛い気持ち。 そんな自分の気持ちをどうすることも出来ず、辛くて心が痛くて涙が出てしまう時がある。 魔法の国にいても、いつかはこんな時がきたのかもしれない。 いつかはこんな気持ちを知る日が来たはずだ・・・。 でも、キリーの場合は人間界と関わりを持つと同時にその気持ちを知ったから 強烈に心に刻み込まれた。 <魔法で心を操ることが出来ても・・・それはもう・・・本当の心じゃない・・・> 魔法でも、どうすることも出来ない物。 命と心。 だから、魔法使いは気持ちを大切にする。 心を大切にする。 なのに、キリーはそれを奪おうとしてしまった。 人間達の様々な事件や考え方を知るにつれて、極端な一面ばかりに目がいき 同調し、実行してしまった。 <でも、きっと・・・人間にとっても大切なのは、命と心なのよね> ・・・今でも人間界を嫌っているが、 今自分が感じている胸の痛さを想い、この痛みも、きっと人間も魔法使いも同じなんだと思っていた・・・・。 キリーは痛む気持ちを抱えながら、一生懸命考えていた。 人間界では、その大切な心がないがしろにされることが 多いのかな・・・だから追い詰められて酷いことをしてしまったり 命を奪ってしまったりするんだろうか・・・・。 考えても答えは出ない。 今でも時々、健太郎を自分だけの物にしたくなる。 魔法の国へ連れて帰って、2度と人間界へ行けないように閉じ込めたくなる。 ・・・籠の鳥みたいに、逃げないように・・・飛ばないように・・・・。 そんなことを考えてしまう自分自身が・・・・キリーは嫌になった。 辛くて目を背けたくなる。最低だと思った。 それでも・・・そんな自分の気持ちと真正面から向き合っていた・・・・・。 |
2001.11.25 ⇒
この小説全体でも少しずつ修正しています。 (特に前半部分) お話自体の本筋は変りませんが、気持ちを 表現した言葉が後から読み返すと矛盾していたり 的外れだったりと・・・涙流して呆れています(汗) 健太郎読んで下さっているそこの 貴方!ありがとうございます〜。(感謝!) さあ、次回も頑張るぞ〜っと! |