戻る

魔法使いと人間とA

色眼鏡。
人は育ってきた環境や経験で、色々な色眼鏡をかけているのかもしれない。
素直に目の前の、ありのままの姿を映せず歪ませ、心のどこかで否定してしまったり・・・。

その眼鏡を外した時、本当の形が見えてきたりするのかもしれない・・・・。




「しかし・・・魔法使いかぁ・・・。意外性のある奴だな・・・お前。」
関口は優子から借りた『応援花』を手にして呟いた。
関口の中に不安も感じられず元気いっぱいの心なので何も歌わない。
つぶらな瞳でじっと関口を見つめている。

深夜・・・優子は部屋の隅に敷いた布団ですやすや夢の中。

健太郎と関口、カー助はシャンパンとワインはとっくに空にして再度
買いに行ってきた日本酒でしみじみ飲んでいた。

「なあ、林さんはお前のことを知って驚かなかったのか?」
関口はつまみのスルメを口にしながら尋ねた。

「少し驚いてましたけど・・・でも少しだけでした・・・。」
「そっか・・・そうだろうな・・・。」
「関口さん・・・?」

関口は『応援花』をテーブルに置いて、日本酒の入ったコップを手にした。
それをじっと見つめ黙り込む。
そんな関口を健太郎は黙って見ていた・・・。


<何であんなにすんなり田中のこと受け入れられたんだろうな・・・・>

元魔法使いなんて突然言われてもすぐには信じられなかったが
・・・いや、今でもちょっと信じがたい話だが紛れもない事実だ。
でも、そんなこと、問題じゃなかった。
田中の一部。田中のことをまた1つ知ることが出来た・・・。
そんな風に感じただけだった・・・・・。
関口はそんな思いをめぐらせ、視線を健太郎に向ける。

真っ直ぐ自分を見つめている健太郎の瞳があった。



テーブルの上で塩辛をつついていたカー助、関口の様子に首を傾げた。
「どした?おっさん。酔ったのか?案外酒弱いんだな。」

ピシっ!

関口はカー助の『おっさん』って言葉にすぐさま反応し、でこピンを食らわせた。
「痛ってえ〜!何すんだよ!」
「うるせえ!」
「お前なんかこうだこうだこうだ!」
「痛ぇ!やめろ!」
カー助は関口の頭をくちばしで突付き猛攻撃!

・・・そんな風に仲良く(?)している関口とカー助を見ていると
健太郎はちょっと不思議で、すごく嬉しさを感じて見つめていた。

「何だよ!田中。ニヤニヤして気持ちわりぃな。」
関口はカー助を押さえつけながら、健太郎を睨んだ。

「いえ・・・何だか嬉しくて。」

「・・・嬉しい?」
関口はキョトンとしてカー助を手放した。

「・・・健太郎・・・。」
カー助は健太郎の気持ちを感じて・・・・<良かったな・・・>って心の中で呟く。



「いえ・・だって、やっぱり嬉しいですよ・・・。」
人間と魔法使いだってこんなに自然にわかり合える。
それがとても嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

関口も健太郎が何を想っているのか感じ微笑む。

「なぁ、魔法の国ってゆっくり時間が流れていくんだろ?」
「はい。でも・・・ゆっくり流れていたんだなって実感したのは、人間界で暮らすようになってからです。
それまでは知識としては知ってても肌では感じられませんでしたから・・・。」
「・・・慣れるまで大変だったんじゃないか?」
「はい。大変でした・・・・今もまだ時間に追われるどころか
追い越されているような気がします・・・。」

毎日毎日色んな出来事があり、感情が動き心に刻み込まれる・・・。
それを消化する前に夜が明け、また同じように繰り返される。
初めは何が何だかわからず、よくカー助に泣きついていた・・・。


関口は日本酒を自分のコップに注ぎ足して、健太郎にも注いでやる。

「俺さ・・・お前と色々話すようになって、田中って不思議な奴だなって思ってたんだ・・・。」
「不思議な奴・・・。」
咲子からも聞かされていたことだ・・・。健太郎は関口を見つめる。

「お前さ、俺の話を・・・何ていうか・・・いつも食い入るように真剣に聞いてくれていた。
普通の奴だったら『ああ、そんなこともあるよなぁ・・』って、さして驚いたりしないことでも、
初めて知ることのように、時には『理解出来ない』って顔したり『信じられない』って
顔したり・・・反応が他の奴らとは違っていた。」
関口は上手く言葉を探せずに、考えながらゆっくりと話を続ける。
健太郎はそんな関口の言葉を必死に追った。

「お前が魔法の国っていう、俺たちとは別の世界から来たって聞いて納得した。」

『育ってきた環境が違うからなのかなって思えば納得できるもの・・・。』
健太郎は関口の話を聞きながら咲子の言葉を思い出す・・・・。


関口は手にしているコップを軽く揺らしながら微笑む。
「当たり前だよな。育ってきた世界が違うんだから。しかも時間の流れや持っている能力まで
違うんじゃ考え方や行動の仕方も変わってこなきゃおかしいもんな。」
「当たり前?」
「ああ。でもそう考えると人間も魔法使いも同じなんだなって思う・・・。」
健太郎は頭をかいて「言ってることがよくわかりません。」と訴えた。

「だから・・・人間界の中だって育ってきた国、地域、家で色々考え方が違ったりするんだぜ。
魔法の国だってその1つと考えれば、なんら変わったことでも何でもない話だろ?」
「・・・はぁ・・・。」
「結局同じ『心』を持った生き物なわけで・・・いる場所が違っただけってことだよ・・・。」
「・・・それって、人間も魔法使いも同じってことですか?」
「ああ。さっきそう言っただろ?それに人間にだってお前みたいな奴いるだろうし
魔法の国にだって俺みたいな奴たくさんいると思うぜ。・・・ただいる場所が
違うからわからないだけなのさ・・・。」

健太郎は、ふにゃっと幸せな笑顔を浮べた。
「それって嬉しいです・・・。すっごく嬉しいです・・・。」


「でもまあ・・・魔法を使えるってことも違いの大きな原因だと思うけどね。
俺たち人間より、物欲は極端に少ないだろ?魔法で叶えられるんだから・・・。」
「それでもこうやって気持ちを伝えることでわかり合えるって・・・・
すごく嬉しいです・・・・。」

健太郎の言葉・・・。

『わかり合える・・・。』
関口は、その言葉にあえて否定はしなかったが
<そんなに簡単にはわかり合えないよ>・・・と心のながで呟く。

関口は小さなため息をついた後、ちょっと酔っ払いぎみの陽気な健太郎を見て微笑んだ。
<でも・・・まあ、少なくとも、わかり合いたいとは思ってるもんな・・・・こいつとは・・・>






健太郎はとても幸せで・・・嬉しかった・・・・。






しばらくして健太郎は壁に寄りかかったまま、幸せそうな顔で寝てしまった・・・・。




関口とカー助は、そんな健太郎の寝顔をさかなにして、ちびちび飲んでいた。

「田中ってのは・・・甘いよな・・・。」
関口の言葉にカー助は頷いた。
「魔法の国にいた俺でさえそう思うんだ。あんたから見たらなおさらだろうな・・・。」
カー助はため息混じりにそう言った。




「でも、だからこそこいつだけは裏切れないって思う・・・。」
関口は微笑みながら静かに言った・・・・・。
カー助は目を見開いて関口を見つめた。
その視線に気がつき苦笑いする。
「こんなに心を開けっぴろげた奴・・・裏切れると思うか?」
カー助は関口の言葉にクスッと笑った。

「何だよ・・・。」
関口はちょっと意味ありげに自分を見ているカー助を睨む。


「いや、あんた結構いい奴だなって思ってさ・・・。」

関口はケホッと少しむせてしまい赤くなる。
「そんなんじゃねーよ!」


カー助は決してちゃかさずに真面目な声で呟いた。
「健太郎のこと・・・よろしく頼むよ・・・・関口さん。」






欲しい物は何だろう・・・。
たくさんのお金?
名誉?
思い描く理想的な自分?
自分のことをわかってくれる友人?
・・・愛しい人の心?

様々な「幸せ」


貴方は何を想い、何に笑い、何に怒り、何に涙するの?
教えて欲しい
必要として欲しい・・・
貴方のことを知りたくて・・・
わかり合いたくて・・・・

だって、側にいたいから・・・・


いつかわかり合うことができる・・・。そう信じている。

2001.11.2 

カー助と関口さん・・・この1人と1羽のツーショット、書いててツボ(笑)