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魔法使いと人間と@


ばさっ!
どさっ!
・・・関口は手に持っていたケーキの箱と、ローストチキンの入った袋を落とした。
シャンパンとワインは健太郎が持っていたので無事だった。

「カラスがしゃべってる・・・。」
関口がもう一度確認するように呟いた・・・。

カー助はしばらく動けずにいたが・・・おもむろにピョンっと飛び跳ね健太郎たちに背中を向けた。
何をするのかと思いきや・・・・・・。

「・・・カァ〜・・・。」
・・・カラスみたいな声を出し・・・チラッと顔だけ振り返り関口の反応を見る・・・・。

<今さら普通のカラスの真似事したって遅いよカー助・・・>
健太郎は心の中で突っ込みを入れて、頭を抱え俯いた。


・・・と、関口が健太郎を押しのけて土足のまま部屋に上がりこみ
カー助をとっ捕まえた。

「ゼンマイ仕掛けの人形ってことないよな・・・。」
真剣な顔をしてカー助の羽を伸ばしたり、ひっくり返してお腹を撫でたりした。

「てめー!何しやがるんだ!・・・変なトコ触るな〜!!」
カー助は、もう正体がバレることなど頭から吹っ飛び
猛然と関口に反抗し暴れる。

バキっ!
ばさばさばさ・・・・。

関口の右頬にカー助の足がヒットし、手が緩んだ一瞬の隙をついてすり抜け
カー助は自由の身となった。

健太郎の頭にとまり、ぼさぼさに乱れた羽を整え始める。

「田中・・・お前のペット・・・しゃべっているぞ・・・。」
呆然としながらカー助を見つめる関口。
「はあ・・・そうですね・・・。」
「『そうですね』じゃねーよ!こんなことが許されていいと思ってんのか?」
ずかずかと健太郎に歩み寄り、ガッと肩を掴む。
そして頭の上にとまってるカー助を、未だに信じられないって目で見つめる。

「・・・健太郎、観念して正体明かそうぜ・・・・。」
カー助はため息をついて健太郎の顔を覗き込む。
「・・・・そうだよね・・・・そうしよう・・・・。」

健太郎も、ため息を付きながらボソッと呟いた・・・。

「何なんだよ・・・正体って・・・。」
目を見開いて健太郎に迫る関口。

「ちゃんと説明しますから・・・とりあえず、靴・・・脱いでくれませんか?」
「・・・・あ・・・。」
関口は、そう言われて初めて自分が土足で部屋に上がりこんでいたことに気が付いた。

優子は、玄関の隅で健太郎たちのやり取りを目をまんまるくして見ていた。
<おにいちゃん、また『きまりごと』のおやくそく、まもれなかったのかな・・・>
優子は優子なりに健太郎を心配していた・・・・。






「・・・で?ちゃんとわかるように説明してもらおうか・・・。」
関口は胡座をかいて、健太郎は正座してテーブルを挟んで座っていた。

「おにいちゃんとおじちゃん、だいじょうぶ?」
2人のただならぬ空気を感じ取って、優子は心配そうに呟く。
「・・・ああ。・・・たぶん。」
優子とカー助は部屋の隅で絵本を見ながら・・・実は健太郎たちのことを
気にしていた。

<咲子さんのように受け入れてくれればいいが・・・>
カー助は心配で仕方がなかった。


「関口さん。」
健太郎は勇気を出した。
「俺の言うこと、最後まで聞いて下さいね・・・・。」
「ああ。」
とにかく早く話しやがれ!という聞く気満々の態度を示す関口。

すぅ・・・と軽く深呼吸し、俯きながら静かに話し出した。
「俺・・・実は魔法使いなんです・・・。」

関口はその言葉を耳にし・・・言葉としては理解できたが気持ちでは消化できず
ぼんやりと聞いていた。

「正確に言うと元魔法使いなんです。・・・人間界で人間と同じように暮らしたくて魔法使い
やめちゃったから・・・・。」

健太郎は一所懸命話した。
咲子にしたのと同じように自分のことを話した・・・・。

「カー助は魔法の国のカラスで俺の親友なんです。魔法の国のカラスは
言葉も話すし魔法も少しだけど使えます・・・・。これが俺たちの正体です・・・。」

話を終え、健太郎は恐る恐る顔を上げ・・・関口を見る。
最後まで何も言わず静かに聞いてくれた・・・・・大丈夫・・・関口さんならわかってくれる・・・
受け入れてくれる・・・・そう信じ、真っ直ぐ関口を見つめた。


関口は腕を組み、考え込むように何も置いていないテーブルの上を見ていた。
そしてカー助に視線を移す。
優子と遊んでいる振りをして、こちらの様子を伺っているのが伝わってくる。
確かに言葉を話し、優子と会話をしている。

<魔法の国のカラス・・・・。漫画みたいな話だよな・・・>
そして健太郎に視線を移した。

「優子ちゃん・・・驚かないんだな・・・・。」
関口から出た言葉は、予想していたものではなくて・・・・
健太郎はきょとんとした。

「優子ちゃんは正体知っていましたから・・・。」
「っていうことは林さんも?」
「先輩も知っています。・・・昨日バレました・・・・。」
「ふーん。」

関口はそう言ったままゆっくりと立ち上がって、先ほど玄関付近に落としたままになっていた
ケーキの箱とローストチキンの袋を取りに行く。

「関口さん・・・・?」
何も言わない関口に健太郎は首を傾げる。


キッチンの上でケーキの箱を開けた関口。
「うわっ!・・・ケーキ半分潰れてる。」
今度はローストチキンの袋に手をかけた。


台所でぶつぶつ言っている関口の元へ、健太郎は歩み寄った。

「関口さん。」
「ローストチキンは全然損害なしだ。ケーキは・・・半壊ってとこだな。でも充分食べられる。」
「俺のこと・・・・怖くないんですか?」
「俺を怖がらせるなんて100万年早いんだよ。」
「カー助のことも怖くないんですか?」
「あんな生意気なカラス、怖かねーよ。」
「・・・関口さん・・・。」

関口は生クリームのついた手を洗い、キュッと蛇口を閉める。
そのまま流し台に手をかけ・・・横にいた健太郎を見つめた。

「田中・・・お前さ、人間界で暮らしたいって思ったの・・・・もしかして林さんが好きだからか?」
その言葉に健太郎は少し赤くなりながら「はい。」っと応え微笑んだ。

「ふーん。お前らしいや・・・・。」
そう言って笑う関口の目は・・・・とても優しかった・・・・。

「田中・・・・お前ってさ、間抜けだしバカ正直な融通利かない頑固者だし
幼稚園児に『かわいい』なんて言われちゃうような男だし・・・・。」
ここまで言われると健太郎もさすがにムッとし、何か言い返そうと口を開いた。
その時、
「それが俺の知ってる田中健太郎だよ。魔法使いだろうが何だろうが関係ない。」
・・・と、関口の言葉が健太郎の心に届く。

「関口さん・・・。」


健太郎は心が温かくなって涙ぐんだ。
ありのままの自分自身を受け止めてくれる関口に感謝した・・・・。


「さ〜て!ぼんやりしている暇ないぞ!!パーティーの準備だ!!」
関口は着たままになっていたコートと上着を脱いで袖を折り、冷蔵庫を開けた。

「お!色々食材があるじゃないか。ローストチキンだけじゃ寂しいから何か作ろうぜ!」
健太郎は涙ぐんだ目を手の甲で拭い笑った。
「関口さん、料理できるんですか?」
「バカにすんなよ!俺は昔原宿でコックにならないかってスカウトされた男だぜ。」
「え?!!本当ですか?凄いですね〜。」
「バ〜カ。嘘に決まってんだろそんな話。信じんなよ。」
「・・・・・・・・・・・・。」


関口とのクリスマスの夜はまだ始まったばかりである・・・。

2001.11.1 

さて・・・関口さんと、健太郎のしみじみ飲み会・・・いきますかぁ!