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秘密C

「健太郎・・・。」
振り向いたキリーとカー助の瞳は・・・めちゃくちゃ怒っていた。


「あの・・・・ご・・・ごめんね。」
その雰囲気に飲まれて思わず逃げ腰になる。


「あれほど魔法使っちゃいけないって言ったのに・・・・。」
カー助は直接健太郎の気持ちを感じることが出来るので、魔法を使ったことはお見通しだ。
怒りに震えて健太郎めがけて飛び立とうとした時、一瞬早くキリーが勢い良く立ち上がり、
ズンズンと健太郎に近寄り
睨みつけながら胸倉を掴む。
その迫力のある瞳に、健太郎は動けなくなってしまう。危うくケーキの箱を落としそうになってしまった。

「・・・やっぱり・・使ったんだね・・・・。」
キリーは健太郎の魔力が減っているのを確認し呟く・・・。


「うん・・・。でも・・・少しだけだよ・・・。」
キリーの真剣な眼差しに、健太郎も真面目に答える。
「少し?ふざけないで!」
「キリー・・・。」
「健太郎はもう魔力を作り出すことができないのよ!わかってんの?」
「う・・・うん。」
「わかってんなら使うな!!」
それからキリーは・・・背筋が凍るような怖〜い声で囁いた。

「モクモク・・・今度魔法使ったら、泣こうがわめこうが首に縄つけてでも魔法の国へ
連れて帰るからね・・・覚えときなさいね。」
言葉の最後の方は悪魔のような微笑を浮べていた。
魔法の国での名を呼んで・・・・キリーの瞳は『本気だからね。』と語っていた。

「で・・・でも・・・。」
健太郎は何とか反論しようと必死に考えたが、キリーに勝てるような気の利いた
言葉など探せなかった。


キリーの迫力にカー助は口を挟むことすら出来ずにいたが
ようやく我に返り、『俺も一言言わなきゃ気がすまない!!』と
ぴょんぴょん飛び跳ねて健太郎の側へ近寄った時・・・・・
小さな手にふわっと身体を掴まれるのを感じた。

優子が危なっかしい手つきでカー助を抱上げた。

「優子ちゃん?!」
優子の小さな胸に抱き締められたカー助、予期せぬ訪問者に目を丸くする。

健太郎の後ろでことの成り行きを見ていた優子。
話の内容はよくわからなかったけれど、健太郎が責められているのだけは感じ取れた。


「おにいちゃんをいじめないで!」
優子はキリーの側へ行き、見上げながら睨みつけた。


「・・・・・・誰?」
キリーは驚き、健太郎に説明を求める。
怒りのあまり優子に気付かず、自分たちが魔法使いだということを話してしまった。
相手は子供といえど人間だ。
自分の無神経さを悔やんだ。

「・・・それが・・・・。」
健太郎はようやく今日の出来事を説明する機会を与えられた。


テーブルを囲んでみんなで座り、健太郎は咲子と優子の話をした。



「そういうわけで・・・優子ちゃんをしばらく預かることにしたんだ。」
「・・・なるほどね・・・。」
聞き終わったカー助とキリー、レイミは・・・・ため息をつく。
健太郎が魔法を使ってしまった経緯を知り「健太郎らしいな。」と思いながらも不安になる。
・・・・このままじゃ、本当にいつか魔力を使い切ってしまう日が来ると思った。
キリーは咲子に対する複雑な想いを感じ、カー助は健太郎に対するやるせない想いを感じる。

「おにいちゃん。おなかすいた〜。」
優子が健太郎を見上げて空腹を訴えた。
テーブルの上にはキリーが用意しておいたご馳走が優子を誘うように乗っている・・・。

「うぁ!ごめんね!おなかすいたよね・・・。」
健太郎、慌てて詫びる。
「これたべていいの〜?」
「うん。これキリーが作ってくれたんだよね?すごいご馳走だね!・・・食べてもいい?」
本日の料理人であるキリーにビクビクしながらお伺いを立てる健太郎。
キリーはコクンと小さく頷いた。
健太郎ホッとして無理やり笑った。
「とにかく今日はクリスマスイブだし!パーティーしようよ!!」
精一杯明るく振舞う・・・・・。


咲子と優子には正体がバレているので心置きなく『魔法使い』でいられるわけだ。
キリーは・・・健太郎の隣にちょこんと座っている優子に
一応相手は小さな子供なので優しく微笑みながら話し掛ける。
「優子ちゃん。お姉ちゃんも魔法使いさんなんだ。よろしくね。」
優子は、先ほどの一件でキリーに対するイメージはすこぶる悪くて
プイっと横を向いてしまった。

キリーはカチンときて膨れっ面になってしまった。
「こういう時は笑顔で答えた方が可愛いと思うなぁ〜お姉ちゃんは!」
先ほどから健太郎にベッタリな優子に敵意を燃やすキリー。
「えがおじゃなくてもゆうこはかわいいもん!ね!おにいちゃん」
そう言って健太郎の腕に抱きつく。
「あ〜!!健太郎にべたべたしないでよ!!」
「いや!」
優子も負けてはおらず、子供ながらにキリーはライバルだと認識したようだ。
優子相手に本気に火花を散らすキリーに、レイミは
「・・・・・同レベル・・・・・」とコメントした・・・。

2人の『女の闘い』を困惑気味に見ていた健太郎。
そんな健太郎にカー助はため息交じりに声をかけた。
「・・・・健太郎。」
「え?何?カー助・・・。」
前回のこともあり、カー助に対して申し訳ないと思っている健太郎、その声に敏感に反応し
すぐ視線を向けた。
「・・・言いたい事は山ほどあるけど・・・・・今はこの雰囲気何とかしなきゃな・・・。」
「うん・・・・カー助・・・・ごめんね。」
<カー助やっぱり怒ってる・・・>言葉の口調から感じ取れた。

「さあ!とにかくクリスマスパーティーだぁ♪」
明るい声でケーキの箱を開けた。


どの料理も見た目は不恰好だったけれど美味しかった。
お腹一杯なはずなのに、ケーキもみんなで残さず平らげてしまった。
3人と2羽でささやかながらクリスマスイブを楽しんだ・・・・・・表面上は。

夜も更け、うとうとし始めた優子を部屋の隅に敷いた布団に寝かしつけた。

「ねぇ、おにいちゃん。あしたもおかあさんにあえる?」
優子は半分瞼を閉じかけた眠そうな目で健太郎を見つめる。
「うん。あしたもあいにいこうね・・・。」
健太郎の言葉に安心したように、すぅっ・・・と眠りにつく。
枕もとの『応援花』も持ち主が眠りについたので静かな寝息をたて始めた。

「健太郎。お茶飲もうよ。」
パーティーの後片付けも済み、キリーは紅茶を入れた。
寝ている優子を起こさないように電気を消して蝋燭を灯す。

健太郎は紅茶をひと口飲んで・・・・みんなの言葉を待った。
先ほどは優子がいたので、キリーもカー助も言いたい事の100万分の1も言ってないのだろうから。
キリーがクスッと苦笑いした。
「そんなに怯えた顔しないでよ。とにかくもう魔法使わないでよね。」
「・・・今度魔法使ったら・・・連れて帰るって・・・・」
恐る恐る確認する。
「・・・もちろん本気よ。・・・・・それくらい言わなきゃまた使うでしょ。」
「・・・そんなぁ・・・。」
まいったなぁ・・・と思いながらため息をつく。

「健太郎。」
今度はカー助の声。
「はい・・・。」
うなだれながら顔を向ける。

「言っとくけど・・・俺めちゃくちゃ怒っているからな。」
カー助はテーブルの上に仁王立ちしながら健太郎を睨んだ。
「・・・うん。わかってる・・・ごめん・・・・。」
前回カー助を泣かせてしまったのに、また同じことを繰り返してしまった。
また悲しい思いをさせてしまった・・・そのことに対して健太郎はただただ謝るしかないと思っていた。

「今回のことだって確かにお前らしいよ・・・・。魔法使っちゃたのだって理解できなくもない。
・・・・でも。」
「でも?」

カー助は健太郎を真っ直ぐ見つめた。
「例えどんな理由があったとしても・・・今度魔法使ったら絶交だからな!!」

「えっ!!」
カー助からの初めての絶交しちゃうぞ宣言。

・・・これは健太郎にとってキリーの『強制送還してやる宣言』よりもショックな言葉だった・・・。


もちろん・・・キリーもカー助も、こんなことで健太郎を縛ることは出来ないことも知っていた。
だから自分たちの力で何とか守りきろうと決めていたのだ。
それでも・・・それでも言わずにはいられないのだ。


「健太郎。私もカー助も・・・・健太郎のことが心配なの。」
キリーの言葉にレイミが「あら、私も心配しているわよ。」と付け加えた。

「とにかく・・・私たちの気持ち、よく覚えておいてね。健太郎のことが大切なのよ。
何よりも・・・・。」
大きな瞳で健太郎を見つめるキリー。
カー助もその言葉に同調するような瞳を健太郎に向ける。

「健太郎・・・俺、寂しかった。健太郎は俺の気持ちを知っていて・・・それでも
魔法を使うことを選んだ。・・・・すっげー寂しかった・・・・。」
カー助は、素直な気持ちをそのまま言葉にして健太郎にぶつけた。

健太郎が何も答えられないだろうとわかっていても・・・・気持ちを伝えた。

<俺たちの気持ちをもっともっと知ってくれよ!>
・・・それが健太郎を守る一番の方法だと思った。

<俺たちの気持ち。健太郎が自分自身を守るための呪縛になればいい・・・>
そう願う。・・・それでもいつかその呪縛を解き放ち、自分の思う通りに突き進む日が来るかもしれない。

その時は何が何でも守る・・・。









『寂しかった・・・。』
そう言われて健太郎は何も答えられなかった。
みんなの、『好きだ』という温かな気持ちに包まれながら、その分痛みを感じた。


「本当に・・・ごめん・・・。」
そんな言葉しか言えない自分。
大好きな友達を心配させ、傷付けてしまう行動しか取れなかった自分・・・・・辛かった・・・。




俯く健太郎を見ていたキリー・・・そのまま視線を移し窓から見える星空を瞳に映す。

<私の気持ちより『咲子』の気持ちの方を大切にするんだろうな・・・・>
そう思うと胸がチクンと痛んだ。
人間界で健太郎のことを調べている時1度だけ遠くから見たことがある。
林咲子。とても可愛い感じの人だった・・・・。

<でも私の方が美人だもん!>
絶対負けないから!・・・と闘争心を燃やすキリーだった・・・・。



一方カー助はただただ寂しさを感じていた。
カー助の中では健太郎が1番大切だったからだ。


<俺に健太郎の気持ちを動かすだけの力がないのかな・・・>
そんなことない・・・心の中で否定しても寂しさはなくならなかった。


カー助は健太郎の真ん前で座り込み俯きながら呟く。
「健太郎は俺のこと好きか?」
健太郎は困惑気味にカー助の羽に触れて答える。
「そんなの当たり前じゃないか。好きだよ。」
「ホントに?大切か?」
「大切だよ!大好きだよ。」
「だったらもう心配かけんな!!」
健太郎の胸に顔を埋める。

健太郎、キリー、カー助にとって・・・少し辛いクリスマスイブだった・・・・・。

2001.10.29 

久々のUP(汗)健太郎・・・難しい・・・(涙)