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秘密A

幼稚園から携帯で営業所に連絡を入れる。
所長から咲子が行った病院の住所を聞いた。
どうやら入院することになるらしいと、藤宮から連絡が入っていた。
藤宮にも優子のことを伝えたらしい。
驚いてはいたが・・・・きちんと理解もしてくれた・・・と所長は言っていた。




健太郎は優子を連れて幼稚園を後にする。


優子の手を引き、歩調を合わせて歩く健太郎。
「優子ちゃん。お腹すいた?」
俯く優子に尋ねた。
優子は小さな声で「すいてない。」と言った。






優子の脳裏を、幼稚園の夕方の風景がよぎる・・・。
周りの友達は次々とお迎えが来て、みんな楽しそうに帰ってゆく。
今日はクリスマスイブ。いつもよりみんなワクワクして楽しそうに見える。
会社から幼稚園に連絡が入るまでは、優子もそのワクワクの中にいた。
「ちょっと遅くなるけど待っててね。今日はご馳走よ。」
朝、咲子は優子にそう言って笑った。
楽しみなクリスマスイブ。

優子は保母さんから「お母さん。ちょっとお風邪を引いちゃってね、代わりの人が迎えに来るからね。」
と言われていた。

『風邪』というのは、保母さんが必要以上に優子を不安がらせないように使った言葉だ。

かぜ・・・。
それならゆうこもなったことがある。
おかあさんおねつでてるのかな・・・・。
不安な気持ちが優子を追い詰める。

寂しさと怖さがこみ上げてきてたまらなくなった時、健太郎がやって来た。

「お腹空いてないなら先にお母さんの所に行こうね。」
健太郎は優しく優子に話し掛ける。
優子は小さな手で健太郎の手をぎゅっと握った・・・・・。






病院へはタクシーで行った。
咲子の病室へ行くと藤宮が付き添っていた。
2人部屋だったが片方のベッドは空いていた。

咲子は点滴を打たれ、こんこんと寝ていて・・・・優子は健太郎にだっこされてその寝顔を
心配そうに覗き込んだ。

「明日検査をしてくれるらしい。まぁ、たぶん過労だろうって医者は言ってた。」
藤宮も心配そうに咲子を見つめて言った。

「・・・藤宮さん、仕事まだ残っているようでしたら後は俺がついてますから・・・・。
所長にもそう伝えてください。」
健太郎はイスに優子を座らせながら言った。
「ああ・・・。悪いがそうさせてもらうよ・・・・。明日までに仕上げないとヤバイ書類があるんだ・・・。」
藤宮は申し訳なさそうに頭をかいて営業所へ帰っていった。


静かな病室。
都会の中の病院なので、窓からは街のきらびやかな夜景が見えた。

「・・・・・おかあさん・・・・しんじゃうの・・・・?」

優子の不安げな・・・消えてしまいそうな小さな声。
風邪・・・・。優子も知っている言葉。
でも病院の重々しい雰囲気、病室の寂しげな雰囲気に飲まれ・・・・怖くて怯えていた。
優子は『死』というものを知っていた。
以前、幼稚園で飼っていた金魚が動かなくなって水面に浮かんでいた。
その時『死』というものへの、漠然とした理解と恐怖を感じた。

健太郎は、優子の気持ちを痛いほど感じ、できるだけ明るく振舞った。

「大丈夫!お母さん、ちょっと疲れただけなんだ。だからすぐ元気になるよ。」

しゃがんで、イスに座っている優子の目線で話をする。
健太郎の笑顔はいくぶんか優子の不安を和らげた・・・・。
でも気持ちが余計にゆるんで・・・・・瞳から涙が落ちる。


「・・・プレゼントなんかいらない・・・・おかあさんがげんきなのがいい。」
泣きながら健太郎に訴える。


サンタクロース・・・・・。
健太郎は今むしょうにその人物に助けてもらいたい気分だった。
窓を見つめ<いるんだったらここに来てくれよ・・・・>と、心の中で呟く。


泣き続ける優子。
今日はクリスマスイブだ。

健太郎は心の中でカー助に詫びる。
<ごめん。カー助。ちょっとだけ魔法、使うよ>


健太郎は立ち上がり念じる。
目の前にパァ・・・と明るい光が現れ、優子は目を見開いた。

健太郎の手に魔法棒が握られる。

健太郎は咲子の側へ行って魔法棒をかざす。

<傷を癒す魔法が『過労』に効果があるかはわからないけれど・・・・・>
とにかく魔法をかけてみた。

金色の光が咲子を包み・・・・・・・・その光が消えても咲子は眠り続けていた・・・。

<やっぱり、この魔法じゃ効かないのかな・・・・・>

ガックリと肩を落とす健太郎。


その様子を見ていた優子、イスから降りて健太郎に駆け寄る。


「いまのまほう?おかあさんがげんきになるまほう?」
健太郎を見上げた優子。目を輝かせていた。


「うん・・・。」
健太郎は少しでも効いてくれていれば良いなと思いながら、優子に微笑んだ。
自信はないけれど・・・少しでも優子が安心してくれれば良いと思った。
咲子の身体は明日になればお医者さんが治してくれる・・・・・そう信じた。



そして・・・
健太郎は魔法棒を軽く振り、ポンッと何かを出した。


光の中から現れた『何か』・・・それは、ふわぁっと宙を舞う・・・・小さな花束。

それはふわふわと優子の手に落ちた。

「おはな・・・。」
目をまんまるくして、その花束を見つめる優子。


「元気出して♪」
「笑ってよ♪」
「元気出して♪」
「泣いちゃだめだよ〜♪」


赤や黄色やピンクのお花。花の真ん中には点点の小さな目と、笑った可愛らしい口が付いている。
笑っちゃうくらい可愛い顔のあるお花。
小さな可愛い花達が歌う。

健太郎が出した花束。
魔法、『応援花』(おうえんか)である。
元気がない心や、不安を抱える心を励まし歌い続ける花達だ。
持っている人の不安を和らげ、少しだけ元気になるお手伝いをしてくれる。


「・・・ふぇぇ・・・・えへへ・・・・。」
優子は笑いながら・・・・泣いた。
歌っている花たちが可愛くて可笑しくて・・・・でも寂しくて不安で・・・泣きながら笑った。


そんな優子を健太郎は抱上げる。


「お母さんは大丈夫!」
健太郎は微笑んだ。














咲子は信じられない物を見た・・・・・。



『おかあさんがげんきになるまほう?』
そんな優子の声で目が覚めた・・・。
<魔法・・・?>
ぼんやりと言葉の意味を考えながら視線を移し・・・・側に健太郎と優子がいるのを知った。



そして・・・・・健太郎が魔法を使う瞬間を見てしまった・・・・。

『応援花』を出す瞬間を、ばっちり見てしまったのだ・・・・・・・・。






「あ!おかあさん!!」
抱上げられていた優子、咲子が目を開けているのに気がつき嬉しそうに叫んだ。

「・・・え?」
健太郎が振り返ると・・・・・ゆっくりと上半身を起こし、じっと自分を見つめる咲子の姿があった。

「・・・・田中君・・・・・。魔法って・・・・いったい・・・・。」



健太郎は、咲子のこの言葉を聞き『バレた』ことを知る。
軽く眩暈を感じ・・・・<またカー助に怒られるかな・・・>と、レベルの低い心配をする健太郎であった・・・・。

2001.10.14 

・・・応援花・・・・って(汗)やっぱりなんつーネーミング(大汗)
ああ・・予定のラスト・・・暗いよ、ダメだ・・・誰か止めてくれ・・・(涙)
また2バージョン書いてみようか(笑)←止めとけ・・・(汗)