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幼馴染E

健太郎は途中までとはいえ、強力な魔法を身体で受け止めたのですぐには動けず
しばらくその場で寝転んでいた。

キリーはその傍らでちょこんと大人しく座っている。
ようやく泣き止んだものの・・・目は真っ赤だった。

身体もかなり楽になり、ようやく思考に余裕が出てきた健太郎、ふと気がつく。
「そうだ・・・長老様は?長老様に何したの?」
少し不安げにキリーを見つめる。
キリーはぎこちなく笑った。
「大丈夫。危険な魔法は使ってないから。どちらかといえば気持ち良い魔法かも・・・・。」
その言葉に首を傾げる健太郎。

その頃
森の奥にある長老の家はパラダイスになっていた。

「うぬぬ・・・。キリーの奴・・・わしの好みをしっかりと把握しおって・・・・。」
「長老様〜もう一杯どうぞ〜。」
「いやぁ〜ん。デザート頼んでいいですかぁ〜。」
「ボトル新しいの入れていいですかぁ〜。」
女たちの黄色い声。
長老は、むっちりしたピチピチバニーちゃん3人娘をはべらせていた。
キリーの魔法、『キャバクラうささん』である。
(※この魔法は未成年に使ってはいけないことになっている)
追っ手を足止めする時によく用いられる。
本人がレジにて精算を済ませない限り、この・・・ある意味幸せな状態は永遠に続くのであった・・・・。





「モクモク、お父様と約束したんでしょ?」
キリーは微笑みながら遠慮がちに聞いた。
健太郎はちょっと照れながら苦笑いした。
「うん。一人前の立派な男になれるまで、父さんや母さんには絶対に連絡は取らないって・・・約束した。」
だから今回も長老に助けを求めようと思っていたのだ。
自分はまだ半人前で、約束を果たせるまでの道のりははるかに遠い。
まだ会えない・・・・そう思った。
いつか、一人前の自分になったらカー助に伝言を頼んで、会いに来て貰おうと思っていたのだ・・・・。


「一人前かぁ・・・・・。」
キリーは小さなため息をついて笑った。

「大丈夫よモクモク・・・私が人間界へ帰してあげるから・・・・。」
「キリー・・・。」
「でも・・・もう少し休んでからね・・・。」
「うん。ありがとう。」
健太郎は微笑み、空を見つめる。懐かしい澄んだ青空。心が安らぐのを感じた・・・・・。





2人から少し離れた草むらで、カー助とレイミは座っていた。

「・・・あのさ・・・・。」
隣に座るレイミに、カー助は言いにくそうに話しかける。

「さっきのことなんだけどさ・・・。」
さっきのこととは、もちろんレイミの『告白』のことである。

「ああ・・・いいのいいの!返事なんかいらないから!今はね!」
カー助とは対照的にあっけらかんとしているレイミ。
「・・・・・・今は?」
その言葉が気になり首を傾げる。

「だって、今はカー助の気持ちわかりきってるもの。」
「レイミ・・・。」
「でも覚えておいて!」
そう言ってレイミはカー助に顔を近づけ熱い視線を送る。
「私、絶対あきらめないから!」


カー助は、その言葉に頭痛を感じ大きなため息をついた。

「ね、ね、でも今回私、頑張ったと思わない?」
レイミはカー助に身体を摺り寄せて嬉しそうに言った。
健太郎とカー助・・・・そしてキリーの心が救われたのは
確かにレイミのおかげかもしれない。
カー助は素直にそう思った。
「うん。今回はレイミのおかげで助かったよ。ありがとう。」
「じゃあご褒美くれる?」
「・・・?ご褒美って?」
ちょっと警戒する。

レイミはカー助の肩(?)に自分の頭をそっと預けた。
「おいこら調子にのんな!!」
「いいじゃない。このままじっとしてて。」
「でも・・・。」
「お願い・・・・。」


カー助は<今回はしょうがないか・・・>と観念し大人しくすることにした。








「かなり楽になった。もう大丈夫だよ。」
健太郎は身体を起こし、思いっきり腕をのばして伸びをした。

「・・・帰る?」
キリーは小さな声で言った。

健太郎は頷いた。そろそろ帰らないと会社に遅刻してしまうと思ったからだ。

2人は立ち上がり、カー助とレイミを呼ぼうとした。

その時、
「ぅわあああ!!レイミ!てめー!不意打ちとは卑怯だぞ!!」
「あら、いいじゃないの減るものじゃないんだし。」
「そういう問題じゃない!!」
少し離れた草むらからバサバサと暴れる羽の音がし、カー助が飛び出してきた。

きょとんとしてその光景を見ていた健太郎の肩に着地し、カー助は安堵のため息をついた。

「・・・カー助、身体中の羽がぼさぼさだよ・・・どしたの?」
無残な姿になったカー助を見て健太郎は言った。


「・・・ちょっとな・・・。」
そう言ってくちばしで毛づくろいを始めた。
『ちょっと貞操の危機でした。』・・・とは健太郎には言えなかった・・・・・。



少し後からレイミも飛んできてキリーの肩にとまった。
キリーはなんとなく何があったか察しがついて苦笑いした。
「レイミ。無理やりはいけないんでしょ?自分でそう言ったくせに・・・。」
「は〜い。わかってます〜♪」
たしなめられてレイミは悪戯っぽく答えた。

健太郎だけが何があったのかわからず首を傾げていた。




「モクモク・・・カー助・・・・。」
キリーは健太郎とカー助を見つめて言った。
「・・・本当にごめんね・・・・。」

「いいんだ気にしないで。」
「気にすんなよキリー!」
健太郎とカー助の声が重なった。


健太郎は少しの間キリーを見つめて・・・少し辛そうな微笑を浮べた。
「俺の方こそ・・・キリーの気持ちに気がついてあげれなくてごめんね・・・・。」
「ううん。いいの・・・。」

そして・・・キリーは静かに魔法棒を頭上にかざし、念じる。

人間界へ戻るための魔法・・・・・・。


健太郎とカー助を金色の光が包み込む。


「キリー・・・ありがとう・・・。」
健太郎は光りの中から幼馴染の姿を目に映す。





咲子は健太郎の初恋の相手だ。
それまで誰かに恋するなんて感情、よくわからないでいた・・・・。
そんな健太郎が、キリーの気持ちに気がついてあげられるはずもなく・・・・。
<ごめんね・・・キリー>
健太郎は心の中で呟いた・・・・。




遠のく意識・・・
次に気が付いた時、健太郎は元の道に倒れていた。
太陽が顔を出し始め、明るくなってゆく空。

「大丈夫か?健太郎。」
カー助が心配そうに見守っている。
意識は少しぼんやりとしているが、何とか立ち上がる。

健太郎は魔法玉がない身体で2度の移動をしたため、酷い眩暈を感じていたが
そんなことを吹き飛ばすくらい人間界に戻れたことが嬉しかった。

人間界の匂い・・・。

<帰ってこれたんだ・・・・>
嬉しくて泣きそうになりながら空を見上げた・・・・。

魔法の国に比べると、この土地の空は汚れている・・・・それでも
健太郎は人間界の空が好きだと感じた・・・・・・。

「ケーキ・・・食べれないね・・・。」
道端に落ち誰かに踏まれたらしい、潰れたケーキの箱を見つめてカー助は肩を落とした。



それから1ヵ月、何事もなく過ぎていった・・・。
すっかり秋も深まり・・・季節は冬に移りかけていた日曜日、
サラリーマンのささやかな幸せである朝寝坊を楽しんでいる健太郎。
・・・なのにカー助の声で起こされる。

「お〜い。健太郎・・・どうやら引越しがあるらしいぜ。」
窓から顔を出し下を覗くカー助。
のそのそと布団から這い出し、健太郎も窓の下を見る。
すると、アパートの前に引越し屋のトラックが停まっていて
荷物を1階の部屋へ運び込んでいた。

「あの家具の感じは・・・どうやら新しい住人さんは女の子みたいだな♪」
カー助はちょっと嬉しそう。
「・・・・ふぁあ〜。」
健太郎は興味なさそうにあくびをし、再び布団へ向かおうとした。
・・・と、その時。

ピンポ〜ン!

チャイムが鳴った。




「誰だろう・・・。」
朝っぱらから・・・と言ってももうAM9:35だ。
ぽてぽてと歩いて玄関を開ける・・・・・・・と、そこには。




「初めまして〜!今日103号室に引っ越してきた雪村桐子と言います〜♪」



健太郎は目をまんまるくして驚いた。


「・・・・・・キリー・・・・・・・。」

2001.10.10 

おっしゃ〜!次回関口さん出すぞぉぉぉ!