戻る

幼馴染C

「心の操る魔法・・・・。」
健太郎はその言葉を聞いて愕然とする。

「一生懸命覚えたのよ。」
「キリー・・・。」
キリーが何をしようとしているのか、はっきりと理解した。

『心を操る魔法』
それは使うことを許されない魔法。
この魔法をかけられた相手は心を無くし、強力な魔法なので解いた後もたいがい心は戻らない。
そして、この魔法を使った者への罰は・・・・・・・・・・・。


「キリー・・・その魔法、俺に使うの?」
健太郎は静かに立ち上がり、キリーを見つめた。
「うん。」
キリーは健太郎から目を逸らさず・・・・寂しそうに微笑む。
でも・・・その瞳からは強い意志を感じさせる。

「心を魔法なんかで操っても・・・・何も手に入らないよ・・・。」
「そんなことない。少なくとも身体だけは手に入れることができるわ。ずっと側にいてくれる・・・。」
「そんなの側にいるって言えない・・・。」
「いいの!」

キリーは瞳を涙で潤ませ微笑んだ。
「それでもいいの。・・・人間なんかにとられるくらいなら・・・この方がずっとマシだもん。」

健太郎はため息をつき、言葉を探す。
説得するとか逃げるための言葉ではなく、自分の気持ちを伝えるための言葉を探していた。

「人の心を操ったって辛いだけだよ・・・。」
「今だって辛いもの・・・。でも私、わかったの。私は昔から人間のことが嫌いだった。
人間達はお金や自分の身勝手な我ままのために何だってするわ!命まで奪ったりする。
何て酷い奴らだと思ったわ・・・!でもそんな人間をモクモクは好きになった・・・だから決めたの。
同じやり方で私は貴方を手に入れるって決めたの。」

その後、一瞬言葉を詰まらせ・・・とても辛そうに、泣きそうな顔で声を震わせた。

「・・・モクモクが人間界へ行ってから、私はくわしく人間の心を観察してきたわ。そして
確信した。本当に欲しい物を手に入れるためには、手を汚さなきゃいけない時だって
あるんだって知ったの・・・・それが貴方の好きな人間のやり方でしょ?」

健太郎は小さく首を振った。
「違うよ。確かに人間達の中には酷いことをしてしまう人もいる。でも一生懸命生きてる
人もいっぱいいるんだ。優しくて思いやりを持った人を俺は何人も知ってるよ。」
「嘘よ!どんなに良い人ぶってたって、みんな欲があって醜い心を持っているわ!
でも私はそれで良いと思った!でないと欲しい物なんて何も手に入らない!」
キリーの瞳から涙が落ちた。

健太郎は少しの間キリーを見つめ・・・とても穏やかな微笑を浮べた。

「・・・・・みんな寂しい時や辛い時・・・どうしようもなく悲しい時、いろんなことを想い
苦しんでるんだ。誰かを憎んだり傷付けたり・・・そして後悔したり自分を
責めたりしているんだ。俺はそんな人間が好きだし信じたい・・・・。」
「モクモク・・・。」
「それに・・・人間だって知ってるよ・・・・・。」



健太郎は静かな声で言った。
「暴力や汚い手を使って欲しい物を手に入れたって、幸せにはなれないって・・・
ちゃんと知ってるよ・・・。」




「!」
キリーはまるで叱られた子供のように顔を歪め・・・魔法棒を振り上げた。
「そんなこと聞きたくない!」
キリーは意識を集中し魔力を魔法棒に集める。

魔法棒の☆の部分が重々しい金色の光を放ち、徐々にそれは大きくなる。


「健太郎!逃げろよ!」
カー助が叫ぶ。でも健太郎はその場から動こうとしない。
キリーからはどうやったって逃げられない・・・わかっていても
カー助は何とか健太郎を助けたかった。

でもどうすることも出来ず・・・。

キリーが魔法棒を健太郎に向けた。

「モクモク・・・大好き・・・。」
キリーは一気に魔法棒を振り下ろした。




魔法棒から眩い光が放たれて、健太郎の身体を包み込んでいく。


光が纏わり付いてくるのを感じながら・・・健太郎はキリーを見つめていた。

「キリー・・・俺、信じてるから。」
キリーを映す健太郎の瞳はとても優しかった。

健太郎を重い睡魔が襲う・・・このまま眠りについたら次に目覚めるのは
心を失った健太郎の抜け殻だろう・・・。

遠くなる意識の中でもう一度呟く。
「・・・信じてる・・・・。」

立っていられなくなり、その場で膝を付き・・・草の上にゆっくりと崩れ落ちる。


「やめろ!やめろよキリー!!」
カー助は泣きながら叫ぶ。

「キリー!やめて!お願い!でないとキリーが苦しむことになるのよ?」
レイミも必死で叫ぶ。
それでもキリーは魔法をかけ続けている。

「俺の魔法玉でよけりゃくれてやる!だからその魔法だけは使わないでくれ!」
そう言いながら泣き続けるカー助をレイミが見つめる。


「お願いだよ・・・健太郎の心を消さないでくれ・・・。」
カー助は身体を震わせて懇願する。





「私の魔法玉を使えばいいわ・・・・・。」
レイミの言葉。



その・・・静かな声を聞き、キリーとカー助はレイミを見つめた。


「レイミ・・・?」
キリーが困惑した声でレイミの名を呼ぶ。




「キリー・・・本当にこのままその魔法を使う気なら・・・私は貴方の側にはいられない。」
レイミの・・・とても落ち着いた、静かな決意を込めた言葉。

「レイミ・・・?どういうこと?」
「今のキリーの側にいるの・・・辛いの・・・・。」
「レイミ・・・?」
「でもキリーのこと好きだから離れられない・・・・。」
「当たり前じゃない!レイミと私はずっと一緒よ。」
「でも!今のキリーを見ているの辛いの!だったら魔法玉なんかなくしてただのカラスに
なった方がいい!」

レイミの言葉にキリーは戸惑い・・・・酷く傷ついた。

「レイミはいつだって私の味方だったじゃない・・・。」
弱々しい声でレイミに問いかける・・・。

「そうよ。私はキリーの味方。」
「だったら・・・どうして・・・。」
「でも私、モクモクも・・・カー助も好きだもの・・・。」

レイミはピョンっと飛び跳ねてカー助の側へ行く。

「レイミ?」
カー助は『捕獲君』に身体を押さえつけられながらも顔を上げ
レイミを見上げる。

レイミはカー助を見つめた後、再びキリーに真剣な眼差しを向ける。
「・・・好きなんだもの。」


「レイミ・・・・。」
キリーはこの時初めてレイミの気持ちを知った。

2001.10.9