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幼馴染B

「俺のことが・・・好き・・・・?」
健太郎は戸惑いながら聞き返した。
キリーはコクンと頷いた。


「私は子供の頃から、ずっとモクモクのことが好きだった。」
「・・・・キリー・・・。」

2人の間を風が通り抜ける・・・。

「・・・全然気がつかなかった・・・。」
健太郎の言葉に、カー助とレイミは心の中で<気がついていなかったの本人だけだよな・・・>と
ため息混じりに呟いた。

「・・・ずっと好きだったの・・・・・だから私の側にいて・・・。」
健太郎を見つめるキリーの瞳はとても真剣で・・・・・健太郎はきちんとその気持ちに答えを返さなければ
いけなと思った。



「ごめんね。俺好きな人がいるんだ。」

キリーの魔法棒を握っている手に力が入る。
魔法の修業をしながらも、健太郎の周辺を色々調べていた。
咲子のことも当然知っている。考えていることがわかりやすい健太郎を見ていれば、
自然と誰を想っているかわかってしまう。

「・・・・知ってる・・・・・・調べたもの・・・・。人間の女でしょ?」
「うん・・・。・・とても素敵な人なんだ・・・。だから人間界で暮らしたかった・・・。」
「片想いなんでしょ?」
「うん。」
「・・・そんな実るかどうかわからない片想いのために魔法玉抜くなんて・・・バカみたい!」
キリーは顔を上げ健太郎を見つめた。その瞳は少し涙ぐんでいた。

「そんな片想いの為に、寿命まで縮めて住み慣れた世界を捨てて・・・バカみたい!」

健太郎は小さなため息をつき微笑んだ。
「・・・それでもその人と同じ世界に住み、同じ時を刻みたかったんだ。」
静かな・・・でも揺るぎない気持ちを込めた声。
変えようがない健太郎の心・・・・・・キリーの瞳が揺れた。

「モクモク・・・どうしても人間界へ帰る気?」
「うん・・・。長老様に頼んで帰してもらう。」
キリーはクスッと笑う。
「長老様は今・・・魔法を使える状態じゃないわ。」
「・・・?」
「今じゃ魔法の力は私の方が上なのよ。」
健太郎は目を見開いた。


「まさか・・・長老様に・・・何かしたの・・・・?」
健太郎の言葉にキリーは答えようとはせず、ただクスクス笑っていた。

「キリー!」
健太郎が叫ぶ。

キリーは健太郎を刺すように見つめた。
「モクモク・・・・私には何も言ってくれなかった。
モクモクのお父様とお母様だって反対していたのに・・・それを説得して魔法玉抜いて
すぐ人間界へ行ってしまって、私には何も言ってくれなかった・・・。」
キリーの声は最後の方で少し震えていた。

「キリー・・・。」
「私には何も言ってくれなかった!」

健太郎はキリーの言葉に胸を痛めた。
確かにあの時は自分のことで手一杯で、キリーのことまで頭が回らなかった。

両親から反対されて、それを説得し何とか許可をもらって・・・健太郎も必死だったのだ。
健太郎自身も怖くなかったわけじゃない。住み慣れた世界を捨てるのだ。
魔法玉を失った健太郎では自力で故郷に帰ることは命を削ること。
行き来で魔法を数回使えば体内に残った魔力は尽きるだろう。
いや・・・もしかしたらたった1回の移動が命取りになるかもしれない。
カー助だって、カー助自身は帰れても健太郎を連れて行くほどの魔法力は備わっていない。
魔法の国の仲間には自分からは2度と会いに行けなくなるのだ。怖くないはずない。

決心が揺るがないうちに人間界へ行きたかったのだ。

「ごめん・・・。でもどうしても人間界に行きたかったんだ。」
「・・・・嫌!モクモクは私と一緒にいるの・・・。」
「・・・俺は自力でも帰るよ。」
「・・・そんなにその人が好きなの?」
「・・・・うん。」



キリーは健太郎の言葉を聞いて、小さなため息をつき目を閉じた。




「じゃあ・・・仕方ないわ・・・・。」
小さな声で呟く。

側でキリーの様子を見ていたレイミが叫ぶ。
「キリー!ねぇ、もう一度考え直して!」
草の中を必死にぴょんぴょん飛びながら、キリーの足元へ寄って行く。
「そんな方法使ったって、キリーが辛くなるだけなのよ?」

キリーはキッとレイミを睨んだ。
「いいの!側にいてくれればそれでいいの!」




「・・・なにする気なんだよ・・・嬢ちゃんは・・・。」

カー助は身構え、キリーとレイミのやり取りを見ていた健太郎に、そっと耳打ちする。
「健太郎・・・いつでも逃げられるようにしとけ。」
「・・・いや。」
「健太郎?」
「・・・逃げたって無駄だよ。」

逃げると言っても魔法を使えない健太郎ができることと言ったら
必死で走ることくらいだ。

「キリー。何をする気なんだい?」
健太郎は逃げようとはせず、キリーを静かに見つめていた。

キリーは顔を上げ健太郎に微笑んだ。
「私ね、新しい魔法使えるようになったのよ。」
とても誇らしげな声。

「1つは魔法玉を再び健太郎の身体に入れる魔法・・・・。」
その言葉を聞いて健太郎は目を見開いた。
キリーがその魔法を何のために、誰を使って使用するのかわかったからだ。

「カー助!逃げろ!!」
健太郎が叫ぶのと同時に、キリーが魔法棒を振り上げた。

「うわぁぁぁ!」
カー助の周りに幾つもの『手』が現れ、カー助の身体に襲いかかる。

この『手』は、手首から先の物体、手の平には気合の入ったつりあがった目とへの字口が付いている。
その名も『捕獲君』だ。狙った獲物は離さない。かなりしつこい性格だ。



「カー助捕獲。」
「カー助捕獲。」


『捕獲君』達はそう呟きながら、飛び立とうとするカー助を捕らえ地べたに押さえつけた。


「ちくしょー!何すんだよ。」
カー助は必死に暴れるが逃れられない。

「健太郎〜。」
「カー助!」
健太郎はカー助の傍らに座り込み『捕獲君』を剥がそうとするが、
無理に剥がすとカー助自身を傷付けてしまう。


「キリー!やめてくれよ!」
健太郎はキリーに懇願するように叫ぶ!

「だめよ。モクモクを魔法使いと同じ身体にするためには、どうしても魔法玉が必要なんですもの。」
キリーは健太郎とカー助を見下ろしながら淡々と言った。

「・・・やっぱり・・・カー助の魔法玉を俺の身体に移すつもりなんだね・・・。」
健太郎の声が震える。

「俺の魔法玉を・・・?」
カー助はあまりの言葉に抵抗するのも忘れ、じっとキリーを見つめた。

「そうよ。私この魔法必死で覚えたのよ。」
キリーの容赦ない言葉。

<冗談じゃない・・・魔法玉を抜かれたら俺、ただのカラスになっちまう!魔法どころか
健太郎と話をすることも・・・考えていることも理解できなくなっちまう!>
その事実に気がつくと、どうしようもなく怖くなる。

「嫌だ!放せ!嫌だよぉ!!健太郎〜。」

カー助は小さな瞳からポロポロ涙を落とした。

「お願いだよ!やめてくれよ!カー助には何もしないで!カー助は関係ないじゃないか!」
健太郎は必死で訴える。

そんな健太郎の言葉を無視し、キリーは言葉を続ける。

「モクモク・・・私が覚えたもう1つの魔法はね・・・・・。」
キリーの瞳が健太郎の姿を映す・・・。



『絶対に使ってはならないという誓いを立て、ようやく伝授される魔法。』
その魔法は・・・・。


「心を操る魔法なの・・・・。」

2001.10.7