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嵐の前の静けさ


日曜日は見事な秋晴れだった。



「・・・どうして関口さんがここにいるんですか?」
「どうしてって俺がいちゃ悪いのか?」
喜び勇んで待ち合わせの駅に行ってみると、関口がいた。
健太郎は首を傾げた。
昨日の咲子からの電話で『夕食には関口さんも呼んでいる。』と聞いていたが
遊園地も一緒に行くとは知らなかった。

昨晩の電話。
優子のことで色々お世話になったお礼がしたい・・・咲子からの夕食の招待だった。
ただし、健太郎にはもう1つ招待があった。
優子からの招待だ。健太郎と遊園地へ行きたがっているので、もし迷惑でなければ
来て欲しいと言われたのだ。
当然即OKした健太郎。

「別に悪くはないですけど・・・関口さんと遊園地って組み合わせが想像出来なくて。」
「・・・俺だって遊園地行くなんて、何年ぶりだかわかりゃしない。」
関口は苦笑いして肩をすくめた。


ちょうどその時
健太郎の足に何かがパフッと抱きつく感触がした。

驚いて下に目をやると・・・・。
「おにいちゃん!!」
「優子ちゃん。」

愛しの健太郎に朝の抱擁をする優子であった。
優子に少し遅れて咲子が現れた。

「おはようございます。」
会社に着てくるスーツと違う咲子の普段着姿。
白い長袖シャツにジャンパーを羽織っている。ジーパン姿。
とても爽やかな感じを受ける。
本日のお姫様、優子はピンクのワンピース。
優子のお気に入りの服の中でも、とっておきのワンピース。
特別な日にしか着ない。・・・・今日は優子にとって特別な日らしい・・・。


電車は混みあっていて、健太郎は人に埋もれそうになっていた優子を抱き上げた。
周りは家族連れが多く、どうやら行き先はみな同じのようだ。

咲子は一応開園時間に合わせて待ち合わせ時間を決めたようだが、混雑具合をみると
すぐには入れるかどうか怪しかった。

「関口さん。本当に良かったんですか?」
咲子が心配そうに隣に立っていた関口を見上げる。
昨晩、健太郎の後に関口に電話をした。
咲子は夕食に招待するだけのつもりが、昼間は遊園地へ行くことを話したら
是非行きたいと力強く言われてしまった。
健太郎同様、咲子も関口と遊園地という組み合わせが想像できず・・・・でも
本人がこれほどまで行きたがっているならば、拒む理由もないので了承した。


当の関口だって「俺が遊園地行くなんてな・・・。」と苦笑いするくらいだ・・・。
でも咲子とお近づきになれるならば、どんなチャンスだって逃すわけにはいかない!!
・・・と考えての行動だ。
<それに・・・田中だって行くわけだし・・・>
自分だけ行かないわけにはいかないよな・・・・と考えていた。

咲子は『健太郎と遊園地』という構図は、笑っちゃうくらいバッチリ似合っていると思った。

咲子にとって・・・やっぱり健太郎は『弟』のような存在だった。
咲子には弟はいない。姉妹は姉だけだ。
でも、もし自分に弟が出来るならば健太郎のような子がいいと思っている。
人間界では咲子と健太郎は1歳しか違わないことになっている。
でも・・・普段見慣れているスーツ姿でも童顔なため学生のように見えるので・・・・
こうして普段着を見てみると、ますます若く見えてしまう。

健太郎の本日の服装は、フードのついたグレーのトレーナーにジーパン。
その姿は・・・・ヘタすると高校生にも見えてしまいそうだった。

健太郎は咲子にとって・・・『可愛い後輩』なのであった。



関口もラフな服装で・・・でもこの男が着ると何でもかっこ良く見えてしまうのだ。
咲子が『うっとおしい』と思っていたその顔も『人柄』の印象が変わると
とたんに<なんだ・・・案外かっこ良い顔してるだ・・・>と気がついた。

純粋に相手から受ける印象として・・・
関口に対しては『男』を感じても、健太郎からはそれはあまり感じられない。
これはやばいぞ健太郎・・・なのであった・・・。





遊園地に到着し、少し並んだが意外にすんなり入場できた。
「メリーゴーランドのる〜。」
遊園地に興奮する優子。
さっそくお目当ての乗り物へと走っていく。
もちろん健太郎の手をしっかりと繋いで・・・だ。


次々と色んな乗り物に飛びつく優子。
優子のお供は健太郎で、咲子と関口は乗らずに優子達の写真を撮ったりしていた。

考えてみれば健太郎は遊園地初体験なのだ。
優子に負けないくらい目を輝かせていた。


「次は・・・お化け屋敷・・・だね!」
健太郎はちょっと緊張気味に入口でフリーパスを見せる。
優子以上に緊張していた。


恐る恐るお化け屋敷に入っていく2人を見送り、関口と咲子は近くのベンチに腰を降ろした。



「しかし・・・田中ってのは不思議な奴だなぁ・・・。」
ため息混じりに関口が言った。
咲子は首を傾げながら関口を見つめた。
「不思議って・・・どういうこと?」
関口は腕を組んで、この気持ちをどう表現したらいいのかと考えながら・・・言葉を探した。

「・・・あいつさ、色んなことに対して・・・『初めて知った!』・・っていうような反応するからさ・・・。」
「・・・う〜ん・・・そう言われてみれば・・・そうなのか・・・な・・」
「上手く表現出来ないんだけどね・・・。」
関口は苦笑いした。

「1つ1つ、どんな日常的な出来事や会話でも・・・初めて経験していってるって顔している瞬間は
・・・確かにあるわね・・・。」
咲子がボソッと言った。

関口は金曜日のことを思い出していた。

<あの日・・・いくら酔っていたとはいえ、自分のことをああも素直に話すことが出来たのは
健太郎がいたからだ・・・>
関口はそう感じている。


健太郎といると不思議な気持ちになる。


「何だか・・・さらけだしたくなるんだよな・・・気持ちを・・・。いや・・・ちょっと違うな・・・。」
「関口さん?」
関口は独り言のように呟きながら頭をかいた。





<自分っていう人間が、田中の目にはどう映っているのか・・・知りたくなるんだ・・・>
それと同時に・・・怖くもなる。
逃げている自分の全てを映してしまう鏡のような気がして・・・・。
関口はぼんやりとそんなことを考えていた。










「あったま痛いなぁ・・・。」
ため息をつく。
ベンチの横にある大きな木にとまり、関口と咲子の姿を見つめるカラス1羽。
二日酔いの身体を引きずって、危なっかしい親友を見守るためついて来たカー助。

「にしても健太郎の奴・・・咲子さんと関口お近づきさせちゃって、自分遊園地に夢中になって
どうすんだ・・・。」
不甲斐ない親友が心配で心配でたまらないようだ。


「しかし・・・この2人・・・お似合いだよなぁ・・・。」
関口と咲子を見下ろし呟く。
大人の恋人同士・・・・に見える。
健太郎とじゃヘタすると姉と弟みたく見えちゃうな・・・カー助はまたまた大きなため息をついた・・・。


「相変わらず健太郎のお守りで大変ね。」

突然の・・・聞き覚えのある声にビクッとして、カー助は上を見上げる。

カー助より数段上の枝に止まり、見下ろしているカラスが1羽。

「・・・レイミ。」
カー助は目を見開いた。

「お久しぶりね。カー助。」
そう言ってピョンっと飛び降り
カー助のとまっている枝に飛び移る。


戸惑いながら後退るカー助に、楽しそうに身をすり寄せるレイミ。



「会いたかったわ。カー助。」
「・・・お・・・俺は会いたくなかったぞ・・・。」
「あら。久しぶりに会ったってのに冷たいじゃない。」
「寄るな〜!触るなぁ〜!!」
「こんなに愛してるのに・・・。」
「お前はオスだろう!!」
「あら?愛にお互いの性別なんて関係ないと思うけど?」

カー助の反応を楽しむかのように迫りまくるレイミ。
枝の隅に追い詰められたカー助の耳元で囁く。


「気をつけて・・・。」
先ほどまでのカー助をからかっていた様子から一転
急に真面目な声を出すレイミ。


「・・・レイミ?」
ちょっと首を傾げレイミを見つめる。


「カー助。気をつけて・・・・。」
もう一度繰り返して言う。

「気をつけるって何を・・・。」
「キリーのこと・・・。」

カー助はハっとする。
レイミはキリーの相棒だ。レイミがここにいるってことはキリーも人間界に来ている。
そのことに気がついた。

「あの気の強い嬢ちゃんもここにいるのか・・・?」
カー助はウンザリして肩を落とす。
「ええ。姿を隠して健太郎を見守っている・・・。」
「何しに人間界に来たんだよ。」
「・・・・私の口からは言えない。キリーを裏切れないもの。
でも今一生懸命説得してるから・・・。」
「説得?・・・何やる気なんだ?あの嬢ちゃん。」
「・・・とにかく気をつけて・・・・。最近のキリー・・少し変なの・・・。」
レイミは俯いて言った。その後身体をビクッとさせて、きょろきょろ辺りを見回した。

「キリーが呼んでる。もう行かなくちゃ!」
バサバサとはばたいて宙に身を投げ出す。

「とにかく気をつけてね!」
そう言って飛び去っていくレイミの背中を見つめ
「何をどう気をつければいいんだよ・・・。」とカー助は呟いた・・・。

2001.9.27  ⇒

・・・カラスでJU●Eも楽しいかもしれん・・・(←馬鹿野郎)