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(6)幸せの星@

6月の、とある日曜日。西園寺政幸の誕生日・・・。

ちっ!思いっきり晴れやがった!!
どうせなら激しい雨とか降ればいいものを・・・・・。
心の中でひどいことを考える。
本日、西園寺の誕生日を祝うパーティーが開催される・・・・。
招待状をもらったものの行く気なんかさらさらなかった・・・・・。

が、朝起きたら寮の前にお迎えのお車なんぞが待っていやがった!!

車の後部座席の真ん中に座らされ、両隣には俺をお迎えに来た品の良さそうな
スーツを着た男が座ってる・・・・。
西園寺の秘書か何かかな・・・・・あいつ金持ちだからな・・・・。
『秘書』を感じさせるような雰囲気をもった男達に挟まれ俺は肩を落とす。

これって・・・誘拐同然だよな・・・・。

俺の意思なんか関係なく車に押し込まれた。
何とか寝巻きだけは着替えることが出来たが・・・・・。


そうこうするうち、車が止まり、降ろされた。
車を降りて顔を上げた俺・・・・・ビックリして口を開けたまましばらく唖然としていた・・・・。


目の前には・・・・・とんでもない豪邸が立ちふさがっていた・・・・・・・。

「・・・ここが西園寺の実家かよ・・・・・・・」
以前俺が殺されかけたマンションも高級だったが・・・・・・あいつの家って・・・・すげえ・・・。

引きずられるように門をくぐり、庭に通された・・・。
この庭がまたとんでもなく広い・・・・。
今日のパーティーの会場はどうやらこの庭のようだ。
たくさんのテーブルが置かれ、ご馳走が並んでいる。

既にたくさんの来客がいて楽しそうに談笑している。

「井原さん!!来てくれたんですね!!」
嬉しそうな笑顔で西園寺が現れた・・・。
結婚式で着るような礼服を着ている。
俺の右手を握ってブンブン振って挨拶。
「無理やり連れて来られたんだよ!」
「そんな人聞き悪いなぁ・・・・あ、政子さんを紹介します」
西園寺は悪びれる様子もなく笑っている。

政子さん。そうだ、この人に関しては多少の興味があった。なにせこの男を
好きだっていう物好き、見てみたいというものだ。

「政子さん!」
西園寺が少し後ろで話をしていた数人の女性たちに向かって声をかけた。
そのうちの一人、和服を着た女性が振り向く。




「島本政子と申します・・・」
少し頭を下げて挨拶された。
政子さん・・・・・・・ふくよかな顔で着物がとても良く似合っている大人の女性。
温かみを感じさせる、そんな雰囲気を持った人だった。

俺も挨拶し返そうとした時、先に西園寺がとんでもない紹介をしやがった。
「この人が私の親友の井原幸太君ですよ!政子さん」

・・・おい、こら・・・西園寺・・・誰が親友だって?俺はそんなもんになった覚えないぞ!

「なにせ一緒に心中しようとした間柄ですから!!」

この『心中』という言葉が出た時、近くにいた数人が俺達の方に視線を向けた。
『どんな関係なんでしょう?』みたいな目つきで見られた。
・・・絶対・・・誤解された!!西園寺!!貴様!・・・ちくしょー!!
俺が必死に怒りを堪えているのも気が付かず、べらべら好き勝手話し続ける。
・・・・こんな奴の何処が良いのかと思いながら政子さんを見ると・・・・・・
実に幸せそうな顔で西園寺の話を聞いている・・・・・・。

その後、西園寺が来客に声をかけられ、挨拶回りをしている時、
政子さんが俺に耳打ちした。

「政幸さんね・・友人がいないの・・・彼に近寄って来る人間は多いけれど
みんな彼を利用しようとして近づいているだけ・・・・・」
「・・・・はぁ・・・」
それから俺を見て、ニッコリ笑って言った。
「だからね初めて一人で入った居酒屋で貴方に話し掛けられたことが
本当に嬉しかったみたい・・・」
・・・・・・お金持ちってのもいろいろ大変なんだな・・・・と思った・・・・。
「だからこれからも政幸さんの友人でいてあげてね・・・・・」
・・・嫌です・・・とも言えず苦笑いでごまかす・・・・・・。

俺、西園寺は正直苦手だが・・・・・・・確かにやっていることは
めちゃくちゃで、無神経だけど・・・・・・そのどれも悪意のかけらもない・・・。
ある意味ひどく純粋・・・・なのかな・・・。
政子さんはそんな所が好きなんだろうか・・・・・。

・・・確かに悪い奴ではないが・・・・だからといって殺されかけたことは忘れないけどな!


俺は西園寺から解放され、庭をぶらぶらしていた・・・。
しばらくして、自分に刺さるような視線が向けられていることに気が付く。

みんな・・・どこか見下したように俺を見ている・・・。

ああ・・そうか。自分の姿に初めて意識がいく。
ごく普通の安物のシャツにジーパン姿・・・めちゃくちゃ普段着。

この会場に来ている奴はみんな結婚式に着ていくような
高そうなスーツやドレスを身にまとっている。
みんな『良い家柄』なのかな・・・・。
俺なんかがここにいるのが気に食わないのだろう・・・。

まぁどう思われようとかまわないけれどさすがに
俺にまとわりついてくる視線が邪魔臭く感じ始めた。

お皿にお肉やサラダ、名前も知らない御馳走をてんこ盛りにして、庭の隅にあった
ベンチへ座った。ここにはあまり人もいないし落ち着く。
とにかく腹いっぱい食べてやろう・・・・・!
ぱくぱく一生懸命食べることに集中していると・・・・・ふと俺を見つめている
女性が視界に入る。

少し離れた所で俺を見つめている・・・・・・・。
俺が気が付いたことを向こうも気が付き少し動揺しているようだった・・・。
俺はなんとなく自然に笑い挨拶の意味を込めて頭を下げた。

すると、向こうも少しぎこちない笑顔で挨拶し返してくれた。
その女性はゆっくりベンチの方へ歩いて来た。
俺の前に立って
「・・・こんにちは・・・・」
小さな小さな声でその女性は俺に話し掛けてきた。
・・・・・とても綺麗な人だな・・・と思った。年は二十歳くらいかな・・色白で華奢な体つき、腰まである長い髪は
日本人形のように黒いストレート。薄い桜色のワンピースを着ていて耳に真珠のイヤリングを
している。とても似合ってて・・・顔は可愛い・・・・でも美人とも・・・言える。
何より・・・その雰囲気・・・なんだか目を離すと消えてしまうような儚さを感じた。

ぼーっとしている俺に少し首をかしげて笑いかけて自己紹介してくれた。
「私・・・倉田舞・・・と申します・・・・」
俺は慌ててベンチから立ち、挨拶する。
「あ・・・えっと、井原幸太って言います・・・・・」
頭をかきながら赤くなる俺・・・・・恥ずかしい・・・。
そんな俺を見てくすくす笑う彼女。俺もつられて笑い出す。
それから少し、たわいない会話を交わした・・・・・・・。



そんな俺達の姿を食い入るように見つめている視線が2つあった。

その時の俺はそんなこと気が付くはずもなく・・・・・・・。





それから5日後・・・。
俺の携帯電話にメールが入る。

『幸太!誕生日おめでとう!』
学生時代の友人からだった。
このメールで初めて今日、自分の誕生日だったことを思い出す。
いろいろあったからすっかり忘れていた・・・・・。

誕生日だからって祝ってくれる彼女もいないし・・・・・・。

会社帰り、何となくケーキを買う。一応誕生日だし・・・ショートケーキを2個買った。
1個ではお店の人が嫌がるかなぁ・・・と思ったので2個。1個渡瀬先輩にあげよう・・・。
しかし・・・・寂しい誕生日だな・・・・・・・・。


独身寮に着き、玄関に足を踏み入れた時、寮の管理人さんに声を掛けられた。
管理人室は玄関の隣にある。管理人室から玄関を見渡せるように小さな窓口が
付いている。

「井原さん!君宛に荷物が届いてるよ」
「あ、はい・・・」

窓口の方に行って荷物を受け取ろうとすると、わざわざ管理人室から玄関に
管理人さんが出て来た。
荷物を渡すのにそんな手間をかけた理由は管理人さんが手に持っている物を見た時
理解できた。




大きな花束を抱えていた。

「これ・・君宛に届いてるよ・・・・」
そう言って手渡された。
その花束は今まで俺が生きてきて、手にした花を全部合わせても負けてしまうほど
大きな大きな花束だった・・・・・。
抱えていると前が全く見えない・・・・。

「それと変な郵便物が一通・・・
管理人さんは黒い封筒を俺に差し出す。

自分の部屋に花を抱えてふらつきながらも何とかたどり着き、
まず花束を贈ってくれたのが誰なのかを確認する。
大量な花の中にカードを発見。
そこには

『お誕生日おめでとうございます      倉田舞』

と書かれていた。

倉田舞・・・・・あ!!あの時の・・・・・・・!
すぐに思い出した。印象に残っていたから・・・・・・でも何で俺の誕生日なんて知っているんだ?
あの時そんな話、しなかったし・・・・・なにせ自分でも忘れていたくらいだから・・・・・。

疑問に思いながら、今度は・・・黒い封筒を見る。

それはとても気味悪い郵便物だった・・・。
真っ黒な封筒。差出人の名前はなく・・・・・・不安に思いながら封を開ける。

一枚の紙が入っていて、そこには・・・・・

『殺してやる』

・・と、新聞や雑誌から切り抜いた文字を貼った・・・そんな文章があった・・・・。


業務連絡→どなたか愛の手を!!(泣)

2001.4.7    次ページへ