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恋心


次の日賢一達は朝早く健康ランドを後にした。
「ジョルジョ。ごめんね。寂しかったでしょう」
優希はジョルジュに申し訳なさそうに詫びた。
健康ランドの駐車場の隅に小さな芝生のスペースがあり、そこに植わっている木にジョルジュを繋いでいた。
ペット厳禁の健康ランドだったが3人で従業員に頼み込みしまいには八重子の説教まで始まりようやく
根負けさせ「この場所なら」・・・・と許可してもらったのだ。
ジョルジュは「寂しかったよう〜」と優希達に擦り寄ってきた。

『今晩は野宿かな・・・・』
賢一は車を運転しながらそんなことを考えていた。

朝ご飯を食べるためファミリーレストランへ立ち寄った。

優希達は焼き魚定食を頼み賢一はあまりお腹が空いていなかったのでコーヒーだけにしようと思ったら
八重子の「それじゃ力がでんじゃろう!!」と説教が始まったので、カニ雑炊を頼んだ。

賢一の体調はあまり良好とはいえずグテッとしていた。
のろのろとカニ雑炊を口に運ぶ。

「賢一殿。もう少しシャキッとせんかい!そんなんじゃからおなごにもてんのじゃろう!」
八重子の言葉に賢一は苦笑いした。
「悪かったな!もてない男で」
その言葉に優希は瞳を輝かせた。
「賢一様はお付き合いなさっている方とかいらっしゃらないのですか?」
元気良く、期待に満ちた優希の声。
「・・・いらっしゃいませんが・・・・」
優希の様子に押され気味の賢一は戸惑いながら答えた。
雑炊を運ぶ手を止めてぼんやり優希の顔を見つめた。
八重子も焼き魚定食に付いていた厚焼き玉子をお箸で取ろうとした所で手が止まり
優希をまじまじと見つめた。
「そうですか。いらっしゃらないんですか」
優希は嬉しそうに微笑んだ。
その後2人の視線にかまわず優希はニコニコしながらご飯を食べていた。



ファミリーレストランを出て再び車を走らせる。
何処に行くのかも決めていないドライブ。とりあえず東京方面へ向かう。

「良い天気ですね〜」
優希は後部座席でジョルジュと一緒に窓の外を見ていた。
晴れわたった空。雲ひとつない。
優希は何だかワクワクしていた。


「どっか行きたい所あるか?」
賢一も窓から射し込む暖かい日の光に心が和んでいた。
どうせ行き先もない逃避行だ。何処へ行こうが勝手気ままな旅。

優希は賢一の言葉に嬉しそうに答えた。
「海が見たいです!」
「了解!」











海辺近くの駐車場に車を停めた。

晴れてはいたがさすがに冬の海は寒い。風も冷たかった。
優希とジョルジュはそんな寒さにも負けず波打ち際で楽しそうにはしゃいでる。

その様子を賢一と八重子は少し離れた所で見ていた。
タバコを口にくわえて冷たい風に体を縮ませる賢一。
その隣で八重子は優希を見守りながら微笑んだ。


「お嬢様。どうやら賢一殿のことを好いとるようじゃのぅ・・・」
賢一は八重子の言葉に思わず咳き込んでしまった。

「婆さん・・・。何言ってんだよ。んなことあるわけないだろ!」
「見てりゃわかりますとも。こう見えてもわしゃ恋愛経験は豊富だったんじゃ」
ニヤリと笑う八重子。そんな八重子を賢一は呆れたように睨んだ。
「俺とお嬢ちゃんの年の差いくつだと思ってんだよ」
「恋に年齢など関係ないじゃろ」
「あのなぁ・・・」
「わしゃお前さんのこと気に入っとる。大賛成なんじゃが・・・」
「賛成なんかすんなよ!」
「じゃがお嬢様はまだ17歳じゃ。セックスはいかんぞ!キッスまでだったらOKじゃ。
よろしく頼むぞ、賢一殿」
賢一は、人の話を聞きゃあしない八重子の言葉に力が抜けてへなへなとしゃがみ込んだ。
『ダメだ・・・ついてけない・・・』
賢一は頭を抱えた。



「賢一様ー!」
嬉しそうに微笑んで賢一の元に走ってくる優希。

賢一の瞳に映る優希の笑顔。
自分の置かれた状況も自分に向けられている悪意も吹き飛ばすような無邪気な笑顔。
賢一はそんな優希のことが少し羨ましいような気がした。


『・・・・・・俺なんかが手出し出来るわけないだろ・・・・』
賢一はクスッと笑った。





この日は都内のビジネスホテルに泊まることにした。
・・・と言っても泊まるのは優希と八重子だけ。

賢一はジョルジュと一緒に車中で一泊。
ホテル近くの駐車場でジョルジュと仲良く眠りにつく。

こんな苦労いつもの賢一ならお金をもらったって嫌がっただろう。
でも今はそんなこと考えるどころか思いついてもいなかった。
ごく自然にその状況を受け入れていた。
賢一自身も気が付いていない優希への気持ち。


それは『愛』とか『恋』とか・・・・そういうもののような・・・そうでないような・・・・。
不思議な気持ち。
・・・・・・願っても手が届かない、せめて見守りたいと思う『憧れ』みたいな物だった。






次の日の朝。
目覚めた賢一は近くのコンビニへ自分とジョルジュの朝ご飯を買いに行った。
レジへ行く途中目に入った新聞も手に取った。
清算を済ませて店を後にし駐車場へ戻るため歩き出す。
何気なく新聞を開き大雑把に記事を流し読みした。

ある記事が目に留まり・・・・・愕然とした。





その頃ビジネスホテルの狭い部屋で朝食を取リ終わり身支度を整えていた優希と八重子。
テレビをつけて朝のニュースを見ていた。


アナウンサーが告げるある殺人事件の犯人逮捕のニュース。
そのニュースを見て優希と八重子は目を見開いた。

その事件の被害者は城ノ内惣一。
捕まった犯人は城ノ内裕二。

八重子は小さなため息をついた・・・・。

2001.9.4  

展開や事柄にたくさんボロが出そうですが見逃してやって下さい・・・・(涙)