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最後の時間

八重子は賢一の部屋で探していた。
賢一が何を抱え込んでいるのか・・・その原因を探していた。
『昨日あの得体の知れない男は賢一殿に何かを渡していた・・・』
でも何処にもそれらしき物はなくあきらめかけた時、ふと灰皿が目に入った。

何かを燃やした跡があった。
『ちぎった紙を燃やした跡じゃのぅ・・・』
燃えずに残っていた紙の断片を拾う。

そこには小さな字が書かれており住所の頭3分の1くらいと『Kビル建』・・・という文字残っていた。

八重子は目を細めそれを見つめ・・・割烹着のポケットにその紙をしまった。
その時、玄関の方でジョルジュ達が帰っていた気配がしたので慌てて部屋を出た。









散歩から帰ってきた優希達はまたおせち作りにかかりきりになり
そのかいあって夕方にはお重に詰め終わった。

それから優希と八重子は夕食作りにとりかかった。
賢一はジョルジュと庭で今年最後の夕日を見ていた。




散歩から戻ってきてから優希の様子が少し違っているのに八重子は気がついた。
「お嬢様。どうなさったんじゃ?」
八重子の言葉に台所で野菜を切っていた優希の手が止まる。
「私、賢一様に振られちゃったんです」
そう言って優希は八重子の方に振り向きおどけたように笑った。

「お嬢様・・・」
「私・・・もっと早く生まれてきたかった・・・」
寂しそうに微笑む優希。


八重子は優希の気持ちを考えると胸が痛かった。







夕食の仕度が整い優希は賢一を呼びに行った。
外は日が暮れてすっかり暗くなっていた。
広い庭を歩き、賢一の姿を探す。

賢一はジョルジュと芝生に座りこんでいた。

「賢一様」
優希の声に一瞬ビクッと体を震わせ振り向いた。

「夕食の仕度が出来ました・・・」
「うん。わかった・・・」

賢一はぎこちなく笑い立ち上がった。





賢一は部屋に戻り、ずっと外にいたため体が冷え切ってしまったので
バスルームへ行きお湯に浸かった。
ジョルジュは大人しく部屋の隅で横になって賢一を待っていた。


体も温まり一息ついた。

『今夜はパーティーなので昨日のスーツ着て下さいね!』
先ほど優希にそう言われたので昨日贈ってもらった服を着る。
ワイシャツもネクタイもスーツも全て優希が選んでくれた物。

キュッ・・・とネクタイを締め、上着を着る。

鏡に映った自分を見つめ深呼吸する。
『・・・最後まで逃げるなよ』
そう自分に言い聞かせ部屋を出た。




「賢一様。とても良く似合っています!」
賢一のスーツ姿を見て優希は嬉しそうに微笑んだ。

食堂には優希と八重子、それと賢一とジョルジュだけしかいない。
3人と1匹だけのパーティーだ。

優希は淡い桜色のワンピースを着ていてとても可愛かった。
八重子は1番お気に入りの着物を着ていた。
ジョルジュも首に赤いリボンを結わいてもらいちょっとだけおめかし。

テーブルの上には優希と八重子が作った料理が並んでいた。
どの料理もとても美味しくて賢一は嬉しそうに食べていた。

「賢一殿、お酒は飲まんのかぇ?」
八重子がワインやビールを勧めても賢一は飲もうとしなかった。
「飲んじゃうと年越す前に寝てしまいそうだから」
そう言って笑いながら断った。



楽しくて幸せな時間。
その時間、1分1秒を大切に過ごした。

賢一は腕時計を見る。
PM9:30
『・・・・そろそろ時間だな・・・・』
賢一は席を立った。
「賢一様、どこへ行かれるのですか?」
優希の言葉に賢一は「タバコ買ってくる」と答え食堂から出て行った。


いったん自分の荷物を取りに使わせてもらっていた部屋に戻った。
コートを着て、荷物を詰めた鞄を持ち、部屋を後にし玄関へ向かう。

賢一の後をジョルジュはずっと付いて行く。

外へ出て駐車場へ行き、隅に置かしてもらっていた賢一の車に鞄を放り込む。

車に乗り込む前に城ノ内邸を見つめた。
先ほどまでいた食堂の窓の灯りが見える。

「くぅ〜ん・・・」
ここまで付いて来ていたジョルジュは縋るような瞳で賢一を見上げた。

賢一はしゃがんでジョルジュを抱きしめた。
「さよならだ。ジョルジュ・・・・元気でな」
ジョルジュは悲しそうに尻尾を振って身をすり寄せた。


賢一はゆっくりとジョルジュから離れ、車に乗り込んだ。














「あら?」
ケーキを食べながら音楽を聴いていた優希。
窓の外に目を向ける。
「どうなされたんじゃ?」
「・・・・いえ・・・たぶん気のせいです」
優希の耳にかすかに車の音が聞こえたような気がした・・・・。







賢一は自分の駐車場に戻り車を置いた。
少し迷ったがアパートに戻り、大家宛に短い手紙を書いた。
もし自分が戻らなかった場合の家具の処分を依頼し、それにかかる費用を置いていく。

長年住み慣れたアパートを後にし、駅へ向かう。
『男』に招待された場所まで電車で行くことに決めた。
どんな結果になるかわからないのでなるべく身軽でいたかったからだ。


腕時計を見る。
毎日1時間戻さなければいけなかった時計。

PM10:15
約束の時間まであと45分間。
充分間に合う。


席には座らず扉に寄りかかり電車に揺られながら窓の外を見る。
瞳には夜景が映るが頭の中は1つのことでいっぱいになっていた。


賢一が勝つための方法。

『12時になるまでの1時間・・・どんなことしても殺されるわけにはいかない・・・』
25時間目に入るまで何とか時間稼ぎし、生き延びなければならない。

『めちゃくちゃ不利な勝負だよな・・・・』

それでも
賢一の持っているたった一つの武器。
その『1時間』に賭けてみるしかなかった。

2001.9.9  

あわわわ(汗)次回書くのか気が重い〜!!(私は鬼か!・・・涙)